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『Sonata Positivo』楽曲構造解説

noteはじめてみました。いつものブログでも良いのですが、ちょっとひと味違うコンテンツを投下するときの目印代わりにもなるかな、と。どちらかというと音楽活動上のポリシーを発信したり影響を受けた音楽を紹介したりする方が向いていると思いますし、第一弾が自作曲の解説という限定的なコンテンツなのはnoteの使い方としては相応しくないかもしれませんが、まずは慣れる意味で書いてみようと思います。

楽曲情報

『Sonata Positivo』(ソナタ・ポジティヴォ)
ソナタ形式、単一楽章、イ長調
341小節、演奏時間10分8秒(2008)、10分6秒(2022)
・2008年 作曲、初演、音源化(アルバム『LIBERTY』収録)
・2022年 楽譜化、音源新録

楽曲が長大ですので、ソナタ形式の構造に沿って解説していきます。

ソナタ形式の一般的な構造

構造解説

序奏と提示部

イ長調と書きましたが、序奏(Lento Maestoso)は変ロ長調で開始。主調と異なる始まり方の上、右手に現れるモティーフは第二主題に由来しています。

序奏は変ロ長調で提示される(調号を用いていない)

このソナタの第一主題、第二主題はこれより以前に作曲していた2つの楽曲から採っています。第一主題が「Liberty March」、第二主題が「Everlasting Road」(アルバム未収録)です。Positivoという楽想を与えたソナタに吹き込む主題として、同じ着想で作曲した直近の楽曲から選んだわけですね。この「Everlasting Road」が変ロ長調の楽曲であることから、このソナタの序奏も同じ調性で書き始められました。一方、12小節からテンポを上げてイ長調の提示部を開始します。

提示部(Allegro assai)からイ長調となる

この音型(ロックの言葉でいえば"リフ")は主題に属するものではありませんが、このソナタの至るところで現れてAllegro assaiのテンポ感・ドライブ感を印象づけるものであり、楽曲性格上肝要な役割を果たしています。特に左手は主音と属音のみで構成され、かつ素早い動きで奏されるため、なかなか難しい。16ビートを感じましょう。

第一主題(20小節〜)

20小節から第一主題が提示されます。これが「Liberty March」で、2008年に「Sonata Positivo」を音源化した際は同じアルバム(『LIBERTY』)の第1曲が同曲だったため、明確に高い関連がありました。ただ、「Liberty March」はハ長調の楽曲(行進曲ハ長調、March in Cといえばざわつく界隈もありましょうか)でしたが、このソナタではイ長調に書き直されています。

第一主題と第二主題の間の経過部に過ぎないが、再現性のあるalla marciaの部分

44〜47小節は第二主題が序奏に続いて「顔見せ」のように現れます。主調(イ長調)で第二主題を書くのは再現部まで控えるべきですから、4小節で打ち切ってalla marcia(行進曲風に)の箇所に移行します。この部分はあくまで経過部なのですが、再現性があり、第一主題、第二主題の間にあるもう一つの主題のような性格を持っています。その後、経過部の最後では序奏をも回想し、98小節から第二主題が提示されます。

第二主題(98小節〜)

古典的なソナタ形式において第二主題は属調(ここではホ長調)で現れることが多いと思いますが、ニ長調、すなわち主調に対する下属調で提示されています。なお、再現部の経過部でわずかにホ長調が現れます。いずれも少々変則的です。
そもそも第一主題と第二主題は性格的対照関係にあることが一般的かと思いますが、前述の通り、どちらも共通してPositivoの標題に合わせた主題選択となっています。

展開部

展開部(137小節〜)

展開部では、第一主題、第二主題、alla marcia主題がいろいろな形で現れます。まずは第一主題が分断を繰り返しながら反復的に登場。

150小節〜157小節もすべて第一主題に由来する
展開部のみに現れるモティーフの由来は?

どの主題にも属さず展開部のみに現れるモティーフも存在しますが、174~178小節のC-Fis-H-Eのモティーフはアルバム『LIBERTY』の観点に立つと「Scherzino」に関連があるといえなくもない。ただし、これは"気づいた方向けの小さなウィットのようなもの"です。

alla marcia主題を用いながら、ボレロ風の音楽へ

184小節までの部分は、このソナタで最も音数が少なく、静穏となる箇所。その後、alla marciaの主題を用いながら急激に盛り上がり、191小節からボレロ風の音楽(brillante)が始まります。この部分も主題に属するものではありませんが、音楽的に非常に華やかな部分であり、また再現性があります。このソナタにおいては、コーダを除いてはこのボレロが最も印象的に奏されるべきと考えます。バス音と高音のリズムの間で、第一主題がやはり形を変えながら何度か現れ、イ長調に向かって転調していき、再現部に到達します。

再現部とコーダ

再現部(207小節〜)

再び第一主題ですが、提示部に比べて幾分展開が省かれています。提示部ではalla marciaに到達するまで28小節かかりましたが、再現部では14小節と半分しかありません。

221小節から早くもalla marcia

先に触れましたが、この部分がホ長調で奏されます。細かい話ですが、提示部とはalla marcia主題の旋法が異なります(D音ではなくDis音が現れる)。節操が無いといえばそれまでですが、若かりし私は直感的にニ長調とホ長調で旋法を変えて書いたようです。

ボレロの再現

espr.のバラード(経過部)を経て、248小節から展開部のボレロ(brillante)が再現されます。このボレロは転調を伴いながら非常に拡大された尺で奏され、満を持して主調の第二主題が現れるまでに実に42小節もかけて演奏されます。一回目のボレロが16小節でしたので、3倍近い長さ。演奏者にとっても最も体力との戦いとなる部分です。末尾に現れるmolto allargandoは、比較的アゴーギクを求めないこの曲において珍しく大きなテンポ変化の指示。grandiosoに向けて、音楽のボルテージは最高潮に達します。

再現部の第二主題(290小節〜)

このイ長調の第二主題はmolto allargandoからのa tempoでありながら、本来の音長を二倍にしてゆったりと奏されます。しかし左手の伴奏型はそのテンポにおいてもきめ細やかなリズムで書かれ、落ち着いた印象をあまり与えません。むしろ大きなリズムの流れのなかで、スタッカートは鋭いリズムで奏されるべきでしょう。

最もリズムが複雑な部分。なおかつ、両手が交差する
コーダ(314小節〜)

コーダは提示部の末尾を再現するように始まりますが、ここでもalla marcia主題が挿入されたり、提示部冒頭の"リフ"が第二主題との交替で執拗に反復されたり、最後まで音楽的動機的充実が図られます。

最後はいささか引用が長くなりましたが、338小節のMeno mossoにいたるまで、Allegro assaiは326小節にわたって続いたことになります。最初と最後以外は快速に駆け抜けるソナタというわけですね。このMeno mossoで第一主題がゆったりと回想されて、ただちに曲を閉じます。poco veloceに含まれるG音とC音は、提示部冒頭の"リフ"に含まれるブルース風の和音に由来するものです。


まとめ

いかがでしたでしょうか?全体的に見て自由度はかなり高いものの、楽曲構造としてはソナタ形式と言って差し支えないかと思います。ピアノソナタ第一番と呼ぶにはいささかクラシックから逸脱しすぎているかもしれませんが、分をわきまえずかのカプースチンのソナタ第一番(ソナタ・ファンタジー)を引き合いに出せば、そうおかしな表現でもないかもしれません。
もとより大学卒業時の自身のソロ・コンサートのために書いた楽曲、今後同類のソナタを書くような場と心境があるかは分かりませんが、ロック色の強いピアノ・インストを大きく打ち出している私に対して、実はこういったクラシックに寄せた大曲についても求めてくださる方がいらっしゃれば、是非お声をお寄せいただけますと幸甚に存じます。


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