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TENETとは何だったのか?


*この記事はネタバレ前提で書いています。まだ映画を観ていない人は読まないことをおすすめします*
















































私がTENETを観終わった時、疑問に残った事がある。

「この映画、あまりにも都合がよすぎないか?」

状況が、過程が、作戦が、結果が、何もかもが都合がよすぎる。まるで最初から全て仕組まれていたかのように。
一番の疑問は最後の作戦だ。何故「軍用の時間逆行回転ドア」が既に量産されていた?何故彼らはそれらを当たり前のように使っていた?というか何故彼らはそこにいた?

普通の人間ならこうなるはずである。「この作戦は現在と過去からの同時攻撃を…」「お前は何を言っているんだ??」
こうなるはずなのだ。だがあの場にいた全員が平然としていた。つまり「全員」知っていたのだ。時間逆行。その副作用。TENET。その全てを。

他の場面でもそうだ。主人公が求めている物を既に持っている人物が次々現れたり(しかも何の見返りもなく渡す)、作戦をあらかじめ知っているかの用に全ての道具がすぐに準備され、何のミスも起こさず淡々と遂行していくメンバー達。都合がよすぎる。全て最初から仕組まれていたとしか思えない。

これらは何処で作られた?いつ、どうやって準備されていたのか?

この物語にはそれら全てを理解でき、実行できる唯一の人物がいる。
そう、「主人公」だ。この映画は「全て主人公の自作自演である」。

・・・え、何を言っているのかよく分からない?大丈夫、俺もよく分かってない。
順を追って説明していこう。

まず主人公はこのTENETのストーリーを「経験」する。次に行くべき場所や情報のみを与えられ、ニールと共に作戦を遂行していく。そして時間を逆行させ、最後の作戦へ辿り着き、アルゴリズムの起動を阻止する。これがTENETのストーリーの「結果」である。
だがラストで主人公はこう言う。「後始末をつけに行く」この後始末とは何だったのか?
これこそが「TENET」だ。TENETそのものが彼の後始末だったのだ。

そしてこれから語る事は全て自分の想像になる。違ってても・・・まぁ、TENETだし。

まず大前提として、「この映画には一切描写されていないもう一つのタイムラインが存在する」。
それがTENETになった主人公のタイムラインだ。これが劇中で説明されていない(絶対わざと)。そしてこのタイムラインは非常に長い。短く見積もっても5年以上、十年以上掛かってもおかしくはない。
まず主人公が行った事は、数年先にいるニールに会いに行く事だろう。とはいえ未来には逆行?できないのでその間に自分専用の時間逆行ドアを作成しておく。
そしてニールに指示を出し、自分も時間逆行をする。だがそれは劇中の時間ではなく、もっと前だ。

それはいつだって?俺も知らん。

だが主人公は知っている。「壁が未来から送られてきた日」だ。そして主人公は誰かにこう言う。
「我々はTENET。第三次世界大戦を止めに来た」
こうして人類は時間逆行についての研究を開始する。そして主人公は「これから起こす作戦」に必要なメンバーを集める。
やり方はいたってシンプルだ。まずその人物に会いに行く。そして「あの窓を見てください」と弾痕が残った窓を見せる。そこに逆行弾を撃つ。
この時点で異常な事が起きていると理解できるだろう。だがこの結果だけ見せればいい。理解される必要はない。
そして「次に俺が現れたら…」と必要な指示を出す。次に行くべき場所や物を渡すように言う。英国紳士にはブラックカードを渡し、飛行機のハイジャック班には金塊を一つだけ盗むように指示を出す。
劇中ではセイターがその金塊を手にしているシーンがあったが、あれもおそらく主人公の仕込みだ。何故かって?それを既に経験しているからだ。
もっと言うとあの空港その物が主人公の仕込みだった可能性がある。「多くの美術品」を簡単に運べるように「プライベートジェット直通の通路」を用意し、セイターに美術品を保管させるように仕組んだ上で、「月に一度」金塊を載せた飛行機が飛ぶようにスケジュールが組まれている。ここまで都合がよすぎる物はそうそうない。なら逆行して作っておけばいい。これがTENETだ。

最後の作戦もそうだ。アイヴスが兵士達に「これが第三次世界大戦だ」と言いながら逆行弾を撃つ。そして兵士達に訓練させる。
ヘリの操縦士、特にブルーチームは時間逆行している中で操縦しなければならない。歩兵は過去と現在両方からの攻撃に備えなければならない。そしてその両方に攻撃しなければならない。この非常に特殊な訓練には、かなりの時間が掛かるだろう。
この訓練と並行して軍用の時間逆行ドアの作成、量産を行う。基本的にはドアを横回転から縦回転に変えるだけなのでそこまで時間はいらないだろう。
戦闘エリアと時間は既に経験しているので、もう分かっている。
とはいえ、これら全ての準備には相当な時間がかかるはずだ。この準備のためにいつまで逆行しているのかは流石に分からない。

そしてもう一つの問題は資金だ。何をするにも金がいる。
だがTENETにおいてそんな物はどうでもいい。なぜなら急上昇している株を調べて逆行し、その銘柄を売買するだけで全て解決する。
え、何それズルい?自分で買った物を自分で売ってるだけだし、セーフセーフ。

ところで一つ疑問に思わないだろうか。「コイツなんでこんなに面倒な事してるんだ?」と。ちなみに私は思った。
その理由は「結果」である。主人公はアルゴリズムの発動を阻止する結果を既に見ている。そして過去に逆行しその結果をもう一度起こして、無限ループを成立させなければならない。結果が変わると何が起こるか予測がつかないからだ。
もし一気に過去に逆行してプルトニウムを掘り起こしたセイターをいきなり殺したとする。
すると結果は変わる。それがどう変わるか誰にも分からない。別の誰かがプルトニウムを掘り起こすかもしれないし、しないかもしれない。もっと恐ろしい何かが起こるかもしれない。
とにかく、あまりにも危険なのだ。だが主人公はアルゴリズムが起動しない結果を見ている。この結果をもう一度起こせば全て解決する。
主人公がアルゴリズムを止め、TENETになった主人公が過去の主人公にアルゴリズムを止めさせるための準備をする…という無限ループが成立するからだ。これによって、アルゴリズムが絶対に起動しない世界しか存在しない事になる。

さらにもう一つ重要なのが結果だ。この結果を絶対に変えてはならない。
結果が少しでも変わってしまうと、その先の結果もさらに変わってしまう可能性がある。最悪の場合、そこでアルゴリズムが起動し、人類が滅亡する。
だからこの映画は都合がよすぎるのだ。何もかも都合をよくし、結果を確実にする必要がある。
この映画のレビューでよく「ストーリーが…」や「ドラマ性が…」と書かれているが、TENETにおいては「あってはならない」のだ。ストーリーや人間性といった少しでも不安定な要素がある時点で、結果が変わってしまう恐れがある。
実際、ラストでキャットが怒りに身を任せ、セイターを殺してしまう。あのせいで人類が滅びかけた。それほどまでに危険な存在である。
だから人間性を捨てなければならない。必要最低限以下の情報しか与えず、全て仕組まれた作戦で、確実に同じ結果を残し続けなければならなかった。

だがここで一つ矛盾が生じる。主人公がキャットを必要以上に守ろうとしている事だ。
これは主人公が、「セイターに接近する」という結果以上に、「キャットと息子の身の安全を保障する」という理性に固執しすぎたからだと考えられる。この主人公はまだストーリーを経験している途中で、結果の重要性を理解していない。アルゴリズムの起動を阻止するという結果以上に、目の前で困っている人を放っておけないという理性から生じた物だろう。これも人類が滅びかねない要素の一つだ。

だがニールは警告はしたが止めなかった。それは未来の主人公から指示を受けていたからだ。未来の主人公は、キャットは無事息子を取り戻し、アルゴリズムが起動しなかった結果を見ているからである。この結果を変えないためにも、止めないように指示を出したのだ。

あまりにも都合がよすぎるストーリー。
全てにおいて「結果」のみを重要視する展開。
その全てを仕込んだ主人公。


ここまでの考察をした上で、私は一つの結論に辿り着いた。
主人公は「自分は主役だ」と言い張っているが、もはやそんな物は通り越している。「監督」だ。彼はクリストファー・ノーランそのものになったのだ。

お前はいきなり何を言っているんだと思っているでしょう。俺もそう思う。
しかしこれこそがTENETの本質なのではないでしょうか。

まず「ストーリーを経験する」という脚本が出来上がる。次に舞台となる場所やキャラクターを用意する。
舞台には、「時間逆行ドア」や「10秒後に焼却ガスが放出される密室」といった装置を用意する。キャラクターには「セリフ」や「小物」を用意し与える。それら全てが予定通りに行われる用にスケジュールを整える。そして主人公にほぼアドリブ状態で演技させる。
つまりこの映画はTENETという映画が出来上がるまでの過程であり、結果そのものなのだ。
彼はラストに「後始末をつける」と言った。つまりこれは「この映画を完成させる」という意味である。
舞台やキャラクター、スケジュールを整えた上で、自分が死に、主人公がアルゴリズムの起動を止める。これでTENETが完成する。

この全てが上映中に起こります。つまりクリストファー・ノーランの映画が上映されているのと同時に、主人公が映画を製作しているのです。

この映画の時間軸はスクリーンの中だけではなく我々視聴者の時間すら超越しています。
映画の上映と製作が同じスクリーンに映し出され、最後にどちらも完成する。これこそがTENETです。

・・・正直、自分でも何を言っているのか完全に理解していません。これが本当にノーラン監督が作ろうとしていたTENETなのでしょうか?それとも自分のただの妄想なのでしょうか?それすらもう分かりません。
ただ、一つ分かってない事があります。それは「主人公がいつ死んだのか」という事です。
TENETを完成させる為には、証拠隠滅のために自殺する必要があります。
私は一つ心当たりを見つけました。それは「最初の作戦の救出対象の護衛」です。
彼なら中身を241にすり替える事ができます。あの時の救出対象がニールなら、それを見逃すはずです。
ただ記憶がうろ覚えで、顔を覚えていません。救出対象も、多分ニールだった。としか言えません。
私はこれを確認する為に、もう一度映画館に行こうと思います。
そしてもう一度、TENETを完成させます。














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