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【読書感想】復讐は合法的に 三日市零著

ギリシャ神話に登場する女神エリスは「不和と争いの女神」である。彼女は神々の結婚式に呼ばれなかった腹いせに、こっそり忍び込んだ会場へ「最も美しいあなたへと書かれた金の林檎」を放り込んで皆を混乱へ陥らせると、最終的にはトロイア戦争にまで発展したという話がある。この混沌を生み出した彼女はたった一つの林檎を放っただけで、真に悪いことをしたわけではなかった。

今回私が読了した『復讐は合法的に』は「第21回このミステリーがすごい!」の大賞作品なのだそう。ちなみに応募時のタイトルは『ゴールデンアップル』だったそうで、上に書いた女神エリスの逸話が由来しています。

というのも、主人公とも呼べる主軸の登場人物の名前が『エリス』といい、この美人が営む法律探偵事務所には、「法律の範囲内だけど道徳の範囲外」である『合法的な復讐』という『裏メニュー』が存在し、依頼を受ければ事態を解決すべく暗躍してついには黄金林檎を放つのです。

このエリスという人物は助手から屁理屈を並べることとゴネることに関して天才的で気持ち悪いぐらいに用意周到な人と評される人です。助手である小学生の楓ちゃんを子役として就労させるためにメープルと呼び事務所に撮影カメラを置いていたり、「台本の打ち合わせ」と称して依頼人と復讐の打ち合わせをしたりと、法に則った社会のグレーゾーンを突いて、バレても言い逃れできるように上手く立ち回り、様々な依頼を解決していきます。

ミステリー小説なのでどこまでネタバレしていいのか悩むところではありますが、読み終わった感想を述べるなら綺麗に纏められてて凄く面白かったとなるでしょうか。登場人物も魅力的でしたが、私は何より構成が素晴らしいと思いました。本作品は短編の連作なので4つのエピソードを読むことになるのですが、そのエピソードごとの構成と全体の構成が見事に描かれていたように感じました。

最初のエピソードでは読者もエリスという人物は初対面です。何をする人なのか、どんな人なのか、依頼をどう解決していくのか。依頼主と一緒に知っていく必要があり、だからこそ依頼主の事情を知らないといけません。その辺りの展開がとても面白くてわかりやすいので、頭の中に映像が浮かんできて読むのがとても楽しかったです。勝手なイメージですが探偵事務所には恋愛関係の依頼が多い気がするので、最初のエピソードにちょうど良かったのではないかと。こうして読者はエリスという人物や合法的復讐とは何かに興味を持ち始めます。

2番目以降のエピソードは、グレーゾーンというものをより考えさせられる展開になっていきます。現代社会では白黒つけられないことも多いです。法があるということは抜け道だってありますし、その道を利用する人だっています。その人たちがどういう気持ちで利用しているのか。利用している人たちからどんな被害を受けてしまうのか。正義とは何か。謎が違う3つのエピソードが読者の知識や道徳心に訴えかけてきます。

エリスが自身の行いに対してどう思っているのか。読者が現代社会にあるグレーゾーンについてどう感じるのか。私は本作品を読み終えると一石も二石も心に投じられた気持ちになりました。

世の中には自分が想像も出来ないこと、自分の道徳心では考えられないことをする人は存在します。そんな人に遭遇してしまったどうすればいいか。被害を受けたらどうすればいいか。狡猾な彼らを前に泣き入りをしてしまうかもしれない。そんな人を救済する存在であるエリスも清廉ではないし、復讐したいと思う自身も正義を振りかざすべきではないのでしょう。

普段、現代ミステリー小説をあまり読んでいなかったので本作品はとても刺激的でした。現代を舞台にしていたので自分事として考えやすかったですし、エリスを始めとした日常も現実のどこかに存在しているかもしれないと思えるほどに環境がリアルに思えました。トリックや解決方法も現代らしいモノでなるほどなぁと面白かったです。

読み終えた感想を書き殴った取り急ぎの拙い文章でしたが、とても面白い本でしたので未読方には興味を持ってもらえたら嬉しいですし、既読の方には私の感想に共感してもらえると嬉しいです。それでは、素晴らしい物語を執筆してくださった三日市先生の次回作も楽しみにこの文を結びたいと思います。

ここまで読んでくださり、ありがとうございました。



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