優秀なMIX師の見分け方

初めまして。MIX師のVOXOSです

ここでは、わたしがプロとして業界で15年以上活動してきて思うこと、伝えたいことをお伝えしようと思います。
今回は、『優秀なMIX師の見分け方』についてです。

いわゆる音楽業界に"MIX師"と名乗る人は全くいないのですが、それに準じた仕事をする方とおよそ5~60名ほどと仕事をしてきた総評です。
また、個人的思い込みも多分に含みますので、その点はご了承ください。

Twitterを始めて、およそ一ヶ月になりますが、"誰がいいMIX師かわからない"という旨の書き込みが散見されたので、いろんな視点から見分け方を解説できればと思っています。
主な読者の想定としては、
"何がいいMIXか聴いてもわからない=いいMIX師がわからない"
といった層、且つ、本気で歌ってみたをやりたい層を想定しています。

かなりの長文になることが予想されるので、構成として

  1. 前書き(本文)

  2. 本題の結論

  3. その補足

  4. まとめ

の順序で進めていきたいと思います。

結論。

  1. レスポンスが早い

  2. 高圧的ではない(社交的)

  3. アイデアを提供してくれる

  4. 有料のプラグインを多数揃えている(明示している)

  5. 無償ではない(無償イベントも行わない)

  6. データの指定が細かすぎない

  7. ネガティブな発言がない(特にクライアントさんに対して)

  8. 基本的な納期が2-4日以内(お急ぎプランは除外)

  9. 納期ギリギリに納品をしない

以上が挙げられると思います。
その理由を説明していきます。

1.レスポンスが早い

レスポンスの早さは、そのMIX師の仕事の効率性に直結する箇所です。
また、"仕事" に於いて、通知に気づいていてスルーするのはフリーランスとしては論外です。
以前にもわたしはツイートで少し言及しましたが、MIX作業そのものよりも、"返信する"という行為はとても楽な仕事です。それすら満足にできない方にいいMIXはあまり期待できないと考えます。
また、レスポンスの早さというのは、MIX師としての業務にどれだけ時間を割く気概があるかを示す一つの指針になり得ます。"空いた時間で"という方も散見されますが、あなたの大切な楽曲より優先する事柄がある。ということの裏返しです。

2.高圧的ではない/社交的である

コミュニケーション能力というのは、裏方にとって非常に大切な要素です。1.)の例ともつながる箇所であります。
MIX師は何があってもあなたの要望を聞き、完璧に、時には完璧以上にあなたの楽曲を作り込む使命があります。
高圧的な態度を示す人の特徴として、いくつか傾向がみられると思います。
1.本当は自信がない
2.歌い手さんを下に見ている
3.自分の思う通りに事を運びたい
の3点がパッと思い浮かびます。
1.は、虚勢そのものです。いかにも自分はできると相手に思い込ませたい(酷い場合は思いこんでいる)ことが原因です。
2.は、自分が場数を踏んでいる、初心者のクライアントさんに対して承認欲求を満たしたい。というパターンです。
こういう方の多くは、融通性に乏しく、自分の"こだわり"をクライアントさんに強要してきたりします。結果、クライアントさんの理想とはかけ離れた仕上がりになりがちです。
3.は高圧的な態度で相手を萎縮させて、主導権を握りたい方です。
確かに主導権を握ると仕事は楽になりますし、萎縮した相手に納得させるのは容易ですが、それでは本来の目的である"素晴らしい作品を作る"という結果からはかけ離れてしまいます。
これらは、わたしがまだ駆け出しだった作家時代に、嫌というほど思い知らされました。

3.アイデアを提供してくれる

これはポジティブな要素です。
あなたと、お約束が成立し、実際に作業に移ってきた時に、あなたの要望を聞いた際、別の案を提案してくれる。という状況ですね。(ネガティブな理由である場合に気をつけてください。"めんどくさい"等。)
例えば、"声が聞こえづらいからボリュームを上げてください。"という提案に対して、MIX師としてはそれ以外のさまざまな手段が考えられます。
例えば、ボーカルとオケのマスキング(ボーカル帯域とオケの帯域の被り)を削り、オケとの一体感を損なわずに相対的に声のメリハリを強調する。とか、ボーカルに薄くディストーション系のエフェクトを追加し、輪郭をはっきりさせる、とか、ケースバイケースですが、本当に様々です。
このような引き出しをたくさん持っているMIX師は総じていろんな問題に対する解決能力が高く、また、たくさんの知識を勉強し、そして実践してきた結果です。そして何より、あなたの作品の事を専門的見地から"いい作品にしたい"と思ってくれている証拠でもあります。言われた通りに機械的にやるのは楽ですからね。
このようなMIX師さんは優秀であることが多いので、チェックしておきましょう。

4.有料プラグインを多数揃えている。(明示している)

まず、誤解をしていただきたくないのが、
”有料プラグインを持っている=いいMIXができる。”
ということではありません。
ただし、有料プラグインを多数持っている、というのはどういうことかを考えてみましょう。
それは、MIX師という"仕事"に対して、どれだけ本気で打ち込もうとしているか。という指針になり得ます。
つまり、
"MIX師をするという仕事をするためのリスクを取る=本気"
だということです。
お金はあった方がいいです。(当たり前)
なのに、なぜ安価(無料)のプラグインを使わないのか。というと、それはいい音を求めている結果、時間効率をよくする為。色々とあります。
このどれもが、自分の財産をはたいて購入したものですから、少なくとも"連絡が取れなくなった"なんてことはないと思います。
MIX師でやっていこうと思って買ったものであれば、回収をしなければいけませんからね。
クライアントさんからみたら、一種の人質みたいなものですね笑

そして大切な点がもう一つ。
歌い手さんたちの世界は、現在、いわゆる"レッドオーシャン"です。
需要に対しての供給が非常に多くなっている状態ですね。
わかりやすく言えば、"戦場"です。
音楽とは時間を浪費するタイプのアートです。つまり、人がいっぺんに聴ける楽曲の量は限られているのです。再生数、知名度、感動してくれる人数。
それぞれのクライアントさんの思惑はあれど、その全てに於いて、この
"レッドオーシャンをどう生き抜くか"
というのは大前提の課題になります。
この"戦場"で、あなたと一緒に戦う傭兵の一人がMIX師です。
あなたがお金を支払ってお願いした、この"傭兵"がその辺で手に入る木の棒で戦います!って言われたらどうですか?心細いと思います。
自分のお金をはたいてでも”マシンガン”を手に入れようとする人と、その実力も、やる気も、あなたを守りつつ突き進んでいく準備が全く違ってくるのがお分かりになると思います。

5.無償ではない(無償イベントも行わない)

これは4にも通じることです。
"いい作品を作りたい"そのために必要なもの、必要な時間、それに対しての報酬をいただくことにより、成り立つ。という考えの元です。
今回は無償依頼については言及しないつもり(そもそもスタンスが違う)でしたが、念のために書き添えておこうと思います。
無償依頼を受けている人は、Win-winの関係を求めています。
つまり、MIX師さんに対して、あなたが何か得になるものを与えている。という状態でしか動きません。
それは、フォロワー数だったり、練習台だったり、自己満だったり様々ですが、本気で"レッドオーシャン"を勝ち抜いていくつもりであれば、あまりいい選択ではないと考えます。
なぜなら、一度聴衆が聴いてしまった印象というのはなかなか拭えないからです。
あなたが他の歌い手さんのファンになる時、その作品は素晴らしいものですよね。
しかし、メチャクチャな仕上がりだったらどうでしょう?その人の歌ってみたには興味が湧かないはずです。そして、その次にその人の歌ってみたを聴くタイミングはいつになるでしょう。そう考えるとすごく損ですよね。
あなた自身がそうならないように、最初から妥協はしないほうが得策だと思います。
ただし、相互利益になりうる条件の場合は、お願いしても平気です!これは自分の考え方を最優先にしてください。
無償イベントについては色々な考え方があると思いますが、これは"クライアントさんを大切に思っているか"というところに集約すると思います。
以前、有償でこのMIX師さんにMIXをやってもらっていたけど、キャンペーンで無償になっていた。
そう気付いた時、有償でやっていただいたクライアントさんはガッカリするでしょう。
そういったクライアントさんの心情まで考えられていない場合、このようなことが起こってしまうと考えます。

6.データの指定が細かすぎる

wavでなければ引き受けない、ノイズがあるから録り直し、ケータイの音源は門前払い。
など、制約が多いMIX師さんは結構散見されます。
この方々は確かに"いいものを作りたい"という気持ちがあるのでしょう。
しかし、その理想に対して、実力やツールが伴っていない場合があります。
例えば、極端に悪い例を除いて、ノイズ除去のテクノロジーは近年目を見張る速度で発展しています。そのツールや使い方を持ち合わせていない場合、クライアントさんの要望に添えないという状況に陥ってしまいます。
wavに至っては、今のエンコード(音源を変換する)技術は凄まじいもので、よほど極度に圧縮したりしていない場合、プロの耳でも差はほとんどありません。こういうタイプの方は、自分のこだわりが強すぎる傾向にあると考えられます。2.でも言った、"高圧的な人"と似たようなタイプですね。
(補足ですが、wavで納入できる場合は、もちろんwavで納入することが望ましいです!)
ケータイ録音については、極端な例を除いて、どんなに高級なマイクやマイクプリ、インターフェイスを使っていても、録音環境も同じくらい重要なファクターになり得ます。その他の点は度外視して、ケータイの音源はNGというのはこちらも"一方的なこだわり"に分類されそうですね。

7.ネガティブな発言がない(特にクライアントさんに対して)

当たり前すぎる話なんですが、クライアントさんへの小言を言っているアカウントは、まずスルーしましょう。
絶対に気持ちよく作業できないです。
こういう方は、自尊心が高すぎて、そして融通が効かない方に多い気がします。
お互いギスギスした関係で作品作りをしても、いい作品になるワケないです。
裏でそう思われてるんだーって感じながら一緒に作っていてもやりがいも楽しさも激減しちゃいますよね。

8.基本的な納期が2-4日以内(お急ぎプランは除外)

これはかなり早い部類だとわたしのクライアントさんによく言われます。
が、プロでやってきた身としては、普通のことです。
質の良いプラグイン、テンプレートの整理など、クライアントさんのお仕事以外でもMIX師は効率的に、そして無駄なく作業するための時間を惜しみません。結果的にそれが一番自分自身に負担になりませんし、スピーディにご納得いただけるのは、問題が山積しないため、一件一件の集中力も高まりますし、良いことづくしです。
仕事が早い人の特徴として、上記の事前準備を抜かりなく行なっている、場数を踏んでいる、という要素がかなりの割合を占めます。
ここで、『テキトーにパパっと終わらせてるんじゃない?』と不安になる方もおられると思いますが、仕事が早い人は効率化を推し進めているため、また、時間に追われる焦りも一切感じないため、クオリティはかなり高いレベルで安定しています。(私が作曲家として活動する際、外注MIXを担当していた方3名がまさしくそうでした。)
時間に追われているという状況での妥協、焦りから冷静な判断ができない、そもそもの仕事に対する姿勢、やる気。どれをとっても、仕事が早い方に軍配が上がります。
わたし自身、昔は納期ギリギリ人間だったのですが、実際に取り掛かっている作業時間自体は、むしろ早めの納期の方がたっぷり取れていると思います。(計っていた訳ではないので感覚的な話ですが。。。)

9.納期ギリギリに納品をしない

これは8.にも通じるところですね。
ギリギリに納品するタイプの方は、時間の使い方があまり得意でない方が多いです。
先述しましたが、
ギリギリに納品するということは、時間に追われた状態である、妥協していることが考えられる。
この2点が大きな問題点です。
MIXは選択の連続です。この一つ一つで、冷静な判断を下さなければ、どんどん違う方向へ突き進んでしまう悪魔がいつも隠れています。
冷静な判断というのは、余裕のある時間配分で、且つ、MIX師自身の耳を休める時間を取るという行動にも現れます。
深夜に突貫作業したとき、朝になってもう一度その作品を聞いてみると、めちゃくちゃ変なことになっていた。なんていう経験をしたことがある方は多いと思います。
あれは、MIX師にも当然起きることで、舞い上がって冷静さを失った状態で作業しても、絶対にいい作品にはならないのです。
ギリギリに納品をする人は、その傾向が強いと判断できると思います。

最後に

さて、非常に長くなってしまいました。
ここまで読んでくださっている方はほぼほぼいらっしゃらないとは思いますが、もし読んでいただいた方がいたのなら、本当にありがとうございます!

上記に発言したすべての事柄については、わたしの考えであり、もちろんいろんな価値観のMIX師さんが、それぞれの価値観で活動されています。
少なくとも、プロとして活動していた15年間で、わたしが実体験を踏まえ感じたことの傾向を記しただけですので、正解であるとは言い切れません。
今は自宅で誰でもできるMIXというジャンルに於いて一定の指針になれば、との思い、この文章を認めさせていただきました。

よいMIX師さんと出会えることをわたし自身応援させていただきます!
それでは、次回、また長文で現れると思うので、その時はまたお付き合いください。
次回は漠然とですが、
"MIX師さんに依頼するときに気をつけること"
をテーマに書いていきたいと思います。

@VOXOS_11010


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