ソードワールド2.5のドーデン地方で穀物を生やしたい

はじめに

本記事は「ソードワールド2.5に登場するドーデン地方で、幾つかの穀物を利用することを考えたい!」という主旨のものである。
筆者の想像と妄想、あと参照した記事のまとめになっておりガチ考察とか考証とかではないので、その点注意願いたい。

本作は、「グループSNE」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『ソード・ワールド2.0/2.5』の、二次創作です。

概要

筆者はファンタジー作品等での飯の描写に理屈がしっかり通っている=リアリティがあると嬉しくなっちゃうタイプである。

ここでいうリアリティとは「その時代に○○は存在していないはずだ」とかの考証ではなく、「作中のこの地域はこんな気候なので、こういう作物を栽培している」とか「この街は○○の生産が盛んなので、それを活かした料理が多い」とかそういうタイプのリアリティである。
要は如何に現実に近いかという再現性ではなく、作中登場するアイテムを成り立たせるための理屈があると嬉しいのである。

筆者はソードワールド2.5(著:北沢慶/グループSNE)でよく遊ぶ。
当然セッション中にPC達が農村を訪れたり、ギルドや酒場で食事をしたりする描写も行うことになる。
そういった「ファンタジー作品での飯事情」に関わる上で、その辺りにちょっとこだわりたくなってしまう。

そこで本記事では「穀物」に着目し、Wikipediaをはじめとする幾つかの記事を参照して主要な幾つかの穀物についてざっくりまとめてみようと思う。
それぞれの概要や用途・特徴に加え、アルフレイム大陸(特に筆者がよく遊ぶドーデン地方)での利用について、筆者の想像を記述していく。

ソードワールド2.5に登場する剣と魔法の世界「ラクシア」はおおよそ現実における地球と似たような環境であり、人族達は城塞都市の周囲に作った農地で農耕を行っている。
もちろん現実とは異なる様々な動植物が存在するため、完全に現実と同じにはならないだろうが、ある程度近い傾向は示すはずだ。

セッション中に登場する食事や農村の風景描写など、作物に関わる描写やシナリオフックの参考にしていただけると幸いである。

小麦

イネ科コムギ属に属する穀物。種子を粉にし、食用に用いる。
種子の状態で冬を越す越年生の植物であり、一定の低温期間が続かないと発芽できない。そのため秋に播き、冬を越してから春に発芽させて夏に収穫するのが基本形となる。
しかし突然変異によって低温期間を必要としない品種が誕生したことから、春に播いて夏の終わりに収穫することも可能になった。

収穫した種子は基本的に臼などで挽き、粉として用いる。
即ち小麦粉である。
ライ麦を除く他の穀物は乾燥させた種子を煮込んで粥状にして食すことも多いが、コムギに関してはこの利用法は少ない。
小麦の実は硬い外皮に覆われており、柔らかくするためには長時間煮込まなければならないためである。
また、この硬い外皮を取り除こうとすると中の胚乳が砕けてしまうことが多いのも理由として挙げられる。
その結果、小麦は製粉して粉食で用いられるのが主流となった。

「グルテン」というタンパク質を豊富に含む為、生地は粘り気を有する。
このために小麦粉で作ったパンはふんわりと膨らみ、麺類にはコシが生まれる。水を加えて練った生地を水中で揉むことで麸ができる。
後述する大麦やライ麦、燕麦はグルテンをほとんど有さないため、製粉して生地に使った場合は膨らみや伸びが悪くなる。
このため、パンや麺類に用いる際には小麦がもっとも優れているとされることが多い。

やや栽培環境を選ぶものの、食味に優れており用途が多いことから食用穀物の中では最もポピュラーな作物と言える。
《マグノア草原国》に代表されるドーデン地方の農業地帯においては、主たる食用穀物として登場すると思われる。

大麦

イネ科オオムギ属に属する穀物。主としては麦芽の原料とする。
「大麦」の表記は粒や草丈の大きさに由来するものではなく、「小麦」と合わせての名前の由来には諸説あるようだ。
小麦と同じく秋に播いて夏に収穫する作物であるが、春播きの品種も存在している。
また、全体的に小麦と比べて栽培環境の許容性が広く、痩せた土壌でも栽培が可能とされる。

穂の形状の違いから「二条オオムギ」と「六条オオムギ」に大別される。
二条オオムギは穂の中の2列だけに種子が実る種のオオムギであり、一粒一粒が大きい上に粒の大きさが揃いやすい。
このため、ビールの原料とする麦芽用に栽培されることが多い。

穂の中の全ての列に種子が実る六条オオムギは2条オオムギと比べて収穫量が多く、穀物として食べるための用途に適している。
収穫した種子は粗挽きや粒を煮込んで粥状にしたり、粉にしてパン生地の材料として用いられる。
ただし、他の穀物と比べると食味に劣るようだ。

穀物は発芽によって種子中に含まれる糖化酵素が活性化し、糖を生成する。
大麦は特に含まれる酵素の量と質に優れ、大量栽培が可能なことからこの用途に非常に向いている。
デンプン質の糖化という有用な化学反応を、収穫した大麦の種子を発芽させるだけで得られることから、酒や酢の醸造に用いられることが多い。

中世ヨーロッパにおいて(そしておそらくラクシアにおいても)ビールは保存の効く飲料として重要な位置にある。ルールブックに記載されている中で最も安価な酒類に「エール」が挙げられていることからも、大麦が広く栽培され、エールの醸造に用いられていることが伺える。

総合すると、大麦そのものを食べる優先度は低いがビールや酒類の生産地では積極的に栽培されている傾向にある、と考えられる。
小麦と並んで《マグノア草原国》では栽培が盛んなことがルールブックⅡで言及されている他、小麦と比べて栽培可能な環境が広いことから各地のビール生産のためにかなり広い地域で作られていると思われる。

ライ麦

イネ科ライ麦属に属する穀物。種子を粉にし、食用に用いる。
元々は小麦畑に生える雑草であったものが、小麦に似た姿の個体が除草を免れることでより小麦に似た姿に進化していったと考えられている。
小麦、大麦と同じく秋に播いて夏に収穫する。
小麦と比べて酸性の土壌に強く、また乾燥・寒冷な気候にも耐えるため、ドーデン地方の北西部でも栽培が可能と考えられる。

基本的には小麦と同じく主要な食用穀物に位置づけられ、種子を粉にしてパンの原料とされることが多い。
小麦より劣悪な環境でも栽培可能な代わりに、小麦と比べて食味に劣る二番手……といったポジションである。
上記の理由から供給量は多く、価格は小麦より安いことが多い。

ライ麦はグルテンを殆ど含まないため生地の伸びが悪い。
しかし、ライ麦はグルテンを構成するタンパク質の一種であるグリアジンを含んでおり、大麦や燕麦と比べると多少はパンの原料に適する
この性質がライ麦を小麦の二番手たるに位置づけている。

ライ麦でパンを作る際には純粋培養したイースト菌ではなく「サワードウ」と呼ばれる伝統的なパン種が用いられることが多い。
サワードウは小麦粉やライ麦粉を水と混ぜ、室温でしばらく放置することで生成される。
水と接触した穀物中のデンプンが、穀物自体に含まれる酵素によって分解されて糖を生じ、穀物の表面や空気中に存在する乳酸菌がその糖を代謝して更にそれを栄養源とする酵母が成長する……というプロセスを経ることで乳酸菌と酵母が安定的に共生した状態のサワードウが完成する。
サワードウに粉と水を補給し、適切な温度環境に置いておけば継続的に培養することができる。

このサワードウにライ麦粉と水を加え、よくこねて室温で寝かせることでパン生地が発酵する。
発酵過程で放出される二酸化炭素によってパンが多少膨らみ、また発酵によって生地には独特の酸味が発生する。
ライ麦粉とサワードウを使って作られたパンは、小麦とイースト菌によるそれと比べて膨らみが悪く、焼きあがった生地は目が詰まってずっしりとしている
酸味が強く生地が固いが、密度が高く水分の抜けが少ないので日持ちするのが特徴となる。

安価で日持ちし、固くて腹持ちのするライ麦のパンは冒険者にとっても馴染み深い食物だと思われる。
酸味が強いため塩気のある食材と相性がよく、オイルサーディンやハム、ベーコンを挟んで食されることが多いのではないか。

ちなみに筆者はライ麦の全粒粉100%で作られたパンを食べたことがある(ダイエーで売ってた)。
匂いは「カブトムシの土」で、味もだいたいそんな感じだった。独特の匂いと酸っぱさがある。
チーズとパストラミハムを乗せ、トーストすると割と美味であった。

燕麦

イネ科カラスムギ属に属する穀物。オーツ麦とも。主に種子を収穫し、粒食に用いる他に家畜の飼料にも用いられる。
ライ麦と同じく、小麦畑や大麦畑に入り込んだ野生種が穀物としての重要な特性を獲得し、作物として栽培されるに至った経緯を持つ。
冷涼な気候を好むが耐寒性は高くないため、寒冷な土地では冬を越せないことが多い。そのため温暖な土地では秋に播き、寒冷な土地では春に播く。
他の麦類と比べて乾燥に弱いが、幅広い土壌で育つことができる。ドーデン地方北東部での栽培に向いているかもしれない。

小麦、ライ麦と異なり種子を飼料として用いることが多い。
比較的粒が硬く、タンパク質の豊富な燕麦は馬の飼料によく用いられ、次いでニワトリの飼料にも使われる。
また草体を牧草として利用することも多い。
完全に余談であるが、いわゆる「猫草(猫が食べる草)」も燕麦である。
猫系のリカントが食べたりするだろうか。でも普通に草だし食べないか。

燕麦は粒が硬く、粉にしてもパンの原料に使いにくいために食用とする地域は限られていた。
しかし現実の1870年代、燕麦を工業的に加工する技術の確立に伴い「オートミール」が誕生する。
オートミールは燕麦を脱穀し、蒸した後外皮ごと押し潰して乾燥させた加工食品である。

完全に乾燥した状態から、軽く煮るだけで粥状になり食べることができる。
このオートミールは「手軽に持ち運ぶことができ、簡単な調理ですぐ食べられる」ことから西部開拓時代のカウボーイ達の携行食として好まれた。
同じく文明から離れた土地を舞台に冒険を繰り広げる冒険者達にとっても、この携行食は魅力的ではないだろうか?

工業的に加工する技術が確立されているかについては考察の余地があるだろうが、ソードワールド2.5には魔動機文明時代が存在し、またドーデン地方では鉄道が広く普及していることを考えると「穀物を蒸して押し潰す加工法」が存在しても良いのではないかと思う。
荒野を鉄道が通ってるドーデン地方って西部開拓時代っぽさがあるし

トウモロコシ

イネ科トウモロコシ属に属する穀物。
15世紀末にアメリカ大陸で発見された経緯を持つため、中世ヨーロッパの視点から見るとかなり新しいカテゴリの作物になる。
多日照でやや高温の環境を好む。春に種子を播き、作物としての旬は夏。
このことから、もしドーデン地方で栽培されているとしてもその農作地は南部に限定されると思われる。

品種によって家畜の飼料用と食用のものに分かれる。
直接食用とする品種は果実を直接食したり後述のトルティーヤの材料にする他、粒を乾燥させて製粉して用いる。

乾燥させたトウモロコシの粒は、アルカリ処理してすり潰すと粘り気のある生地が得られる。これを薄く伸ばし、鉄板で焼いたものがトルティーヤという無発酵パンの一種となる。
メキシコにおいてはトルティーヤで肉やその他の具材を挟んだものがタコスとして親しまれている。

製粉したものについては煮立った湯に入れて混ぜ、粥や固形状にして食するものが多い。
粗挽きのトウモロコシの粉を沸騰した湯や出汁に振り入れて煮込み、鍋の底に焦げ付かないよう捏ねながら作った粥がイタリア北部で食されるポレンタと呼ばれる料理になる。

いわゆる「中世ヨーロッパ風」の町並みには中々馴染みにくい食材という趣だが、南米風の雰囲気を演出したい場合は物語に登場させてみても良いかもしれない。

蕎麦

タデ科ソバ属に属する擬穀類。
一般的に穀物はイネ科(単子葉類)に属することが多いのに対し、ソバはタデ科(双子葉類)。
種まきをしてから80日ほどで収穫できるのが特徴。
春播きの夏蕎麦と夏播きの秋蕎麦がある。
小麦やライ麦と比べると作付面積あたりの収穫量は少ない
亜寒帯に属するような冷涼な気候を好み、雨が少なく乾燥した土地でも育つが湿潤に弱いため、水はけの良い土地で栽培する必要がある。
後述するように《マグノア草原国》での栽培が行われているため、同国家の近辺では割りと流通している穀物だと思われる。
種子を収穫し、挽き割りにしたり製粉して食用にする。

粗挽きか挽き割りにした蕎麦の実を水、ブイヨン、牛乳などで柔らかく煮た粥は東欧でカーシャとして親しまれている。
蕎麦の実を製粉した蕎麦粉を湯で捏ねると餅状の蕎麦がきになる。
蕎麦粉に水と塩、油を加えて生地を寝かせた後、鉄板に薄く焼き広げ具材を乗せたものがガレットとして食されている。
更に蕎麦粉と小麦粉を混ぜたものに卵・牛乳などを加え、発酵させてからフライパンで薄く焼き上げたものがロシアのブリヌイである。

蕎麦は《マグノア草原国》で栽培されていることがルールブックⅡで明言されており、併せてガレット料理が存在することにも触れられている。
シナリオの舞台が《マグノア草原国》である場合は是非登場させてみたいところである。

おわりに

以上、6種類の穀物の主だった用途について簡単にまとめてみた。
(あまりまとまっていないかもしれないが)
ソードワールド2.5のセッションを彩る描写の中に、これらの多様な穀物とそれらを用いた料理を登場させてみては如何だろうか。

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