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文系修士院生のツールボックス

海外大学院(スウェーデン、社会科学系)に社会人留学しています。日本で大学院も出ていますが、当時は一切英語文献を使わなかった+英語で書く機会もなかったので、英語圏のお作法に慣れておらず、また私が学生時代の頃よりもツール類の進化が著しく、まったく新しい体験になっています。ツール類の進化は日進月歩なので、またすぐに古びてしまうかもしれませんが、現時点で知っておけば便利だった!と思うツールを紹介します。


Literature review

先行研究の検索方法は大きく①Google Scholar、Scopusや大学の図書館のデータベース等でキーワードやジャーナルから検索する、②核となる論文を見つけてその論文の参考文献リストから辿ってゆく、の二方向で検索するのが一般的ですが、その双方ともに支援してくれるサービスがあります。

①文献検索:Consensus

①のデータベースサーチを支援してくれるのがこのConsensusというAI文献サーチツール。

私が説明を書くよりも以下の紹介を読んで頂く方がわかりやすい。

ただしSTEM領域と違って、文系では自分の問いの立て方によって同じ論文でも使い方が変わるし、関連論文も変わります。なので理論の実証結果を探すなど、明確なコンセンサスを探せるような問い以外の場合には、このツールは既存研究の概要を把握するのに使う、重要なキーワードや論文を把握する、という範囲に留まる点に注意。それでもチェリーピッキングを防ぐのに充分すぎるほど便利です…。

②論文のネットワーク可視化:Research Rabbit、Connected Papers

②核となる論文を見つけてその論文の参考文献リストから辿ってゆく、のを支援してくれるのがこれらのツール。私はResearch Rabbitを使っていますが、Connected Papersを使う人も。重要文献の抜け漏れを防いでくれます。

レビューのお作法

とはいえ、そもそもAIツールを使いこなすには基本的なレビューのお作法を知っておくことは必須。私の大学院では下記が参考文献でした。

道具(AI)から入って自己流でそれっぽいものを作るより、先に文献レビューに求められているポイントを理解し、自分の論文に必要なLiterature reviewのスタイルや内容を理解してからツールを使いましょう。そうでないとテクノロジーに振り回されたreviewになり、部分部分の情報の質は高くても全体の質は低い、アンバランスなreviewになります。

文献管理

日常の文献管理自体もそうですが、執筆時の引用の管理には文献管理ソフトが必須。私は今は大学がライセンス保持をしているEndnoteを使っているんですが、上記のサービスとの互換性がないので、現在移行検討中…。評判の良いのはPaperpile, Zoteroあたり。過去はMendeleyを使っていました。

英文執筆

ライティングの基本

特に文系の場合、日本語でまず書いて機械翻訳で訳すのは絶対にやめましょう。基本的に英語で考え、拙くても英語でベースを書き、この後紹介する英文校正ツールでブラッシュアップする方式をお勧めします。1文単位で訳のヒントを得る程度であれば良いですが、文章の構成やパラグラフの役割が違うので、日本語で違和感のない文章構造は、英語にすると違和感があります。

違和感の理由は柳瀬 陽介「AIを活用して英語論文を作成する日本語話者にとっての課題とその対策」に簡潔にまとまっています。是非ご一読を。

英文のアカデミックライティングをこれまで習っていない場合には、基本を押さえるのに下記書籍がおすすめです。他にも沢山本があるので、図書館や先生にアドバイスを求め、自分のレベルと専攻に合った本を探すと良いと思います。

具体的な執筆のプロセスとしては、私の場合、頭から英文で全部書こうとすると時間もかかり、途中で論旨を見失いがちなので、まずは箇条書きでパラグラフの構成と論旨をつくり、そこに文章を肉付けしています。

Academic Phrasebank

論理展開の基本フレーズはAIではありませんが、Academic Phrasebankを利用しています。執筆の際に使えるシチュエーション別の定型文が豊富なので堂々と使いましょう。美しい表現を磨くよりも、誰にでも伝わる確実な表現を重ねて本質的な内容の議論に集中した方が良いです。

日英辞書

基本的に英語で考えると言っても、やはりどうしても日本語のニュアンスから考えるものもありますので、その際に利用。アプリなど色々あると思いますが、私はブラウザで使える英辞郎のProバージョン(有料)を利用しています。なお英英は後述。

英文校正

文法ミスや拙い表現はノンネイティブとしては当然避けられないので、英文校正ツールを使っています。私の場合は全体のツール利用の中でここが一番依存度が高いです。

DeepL Write

機械翻訳ツールのDeepLが提供する校正ツール。より洗練された言い回しの提案を含め、Grammarlyの校正よりもレベルが高い。最近論調を選べるようになり、論文の場合はAcademicを選ぶとなお良し。なおトーンも選べる(confident、enthusiastic等)のですが、こちらは個人的にはオーバーになりすぎる印象なので使ってません。

ただ文意が勝手に変えられたり、何故か書いてもいない文を追加されたりということもあるので、見直しは必須。

Hemingway editor

DeepL Writeは問答無用で修正提案してくるのですが、何故それがまずい(修正したほうが良い)のか、自分の書く英文のレベルがどれくらいなのかはあまりわからないので、自分の英語執筆力が総合的に上がるかと言うと微妙。なので時間がある際には学習効果の高いこちらを使っています。無料で使える範囲が広いのも良し。

QuillBot

私は使っていないので使い勝手を判断できませんがQuillBotを使っている人もいます。パラフレーズや短縮ができるのがメリット。あとWordのアドイン機能があるので、ブラウザで確認せずともWordファイル上で使えるのが良さそう。

英英辞書

校正で提案された表現のニュアンスに自信がない場合は必ず英英辞書でチェックしています。特に類義語辞典Thesaurusが便利。無料。

ChatGPT

もはや説明不要ですが、私は主にワード数管理論理の確認に使っています。提出文章に文字数制限がある場合が多いと思います。数百ワード程度の調整(主に削減)なら、ChatGPTに削減を依頼しつつ、自分でも調整すると早いです。また、自分の文章が正しく伝わるかの確認にも用いています。要約を依頼すると、読後の印象が掴めますので、必要に応じて本文を修正します。

剽窃チェッカー

意図的な剽窃は論外ですが、上記のようなAIツールを利用した場合、意識せずに剽窃になってしまう可能性が避けられないのが怖いところ(AIが校正した英文が論文のコピーだったりという場合)。執筆後にひと手間かけることをお勧め。既に使っているサービスに含まれているのであればGrammarlyやQuillBot、無料でもいくつかサービスがあります。

以上、私が使っているツールでした。

このほかにも論文の読書支援(要約ツール)などを用いている方もいます。このあたりは好みで、私は要約されたものや日本語訳で読んでしまうと、確かにその時点での読書スピードは上がりますが実際に論じる際に使えないので、そこは割り切って普通に読んでいます。

効率化できる部分は効率化し、また英語という壁を乗り越え、人間は論理の組み立てや、思索・思考に時間を使う時間を増やせれば、と思っています。


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