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正直「Go field 」をなめていた話

(初っ端から言い訳ですが、なめていたわけではありません笑 タイトル的に語呂が良かったのでこういう書き方してるだけです。)


WASSHAには社員が体現すべき4つのShared Valueがあります。

・Speed matters(スピードが命、最速で実行する)

・Go field(現場にこだわる、顧客を最優先する)

・Go the extra mile(より遠くを、より高みを、常に目指す。)

・Jump together(日本とアフリカで、1つのチームとして共に成長する。)

多くの従業員にはお気に入りのValueがあり、気合を入れるときにはこのValueが背中に印字されているポロシャツを着て仕事をしています。

私のお気に入りは「Go field」。タンザニアの辺境に住む一人一人さえもお客様と捉え献身しようとする姿勢は、私が愛するWASSHAのスタンスの一つ。途上国の方々をお客様と捉える文化を持つ組織は私が知る限りでもあまり多くないのではないかと思っています。


とは言いつつ、実は私は「現場に足繁く通う」という働き方に理念としては共感しつつも、具体的に働き方に落とし込むのにずっと苦労していました。

現場に通うメリットとしてよく挙げられるのは、「現場の解像度が高い情報が得られるから」。しかし、現場に行って獲得できる情報の多くは二次情報としてはすでに知っていたり想定していたりすることばかり。こんなレベルの情報をオフィスに戻って上司に報告していては「ん、そんなことはもう知ってるけど?」となってしまう。おまけにタンザニアでの現場訪問は簡単ではありません。悪路をバスに揺られて片道2~3時間なんてことはざら。場所によっては船やバイクに乗り換えていく必要もあり、片道だけで丸一日かかってしまいます。そんな状況の中で現場に行くのは費用対効果が低すぎて、入社後一年近くずっと苦手意識がありました。

しかし、そんな中事態が一変しました。コロナウイルスで日本人職員が全員日本からの遠隔体制を取らざるを得ない状況になったのです。ちょうど時同じくして新規事業チームに専念するようにとお達しを頂いた私は、新規事業の種を探して現地メンバーのインタビュー越しに顧客課題を探し回る「探索(Explorer)」が主な業務となりました。この一年間、現場に行きたくても行けない状況の中で会社・チームそれぞれで様々なトライが行われました。現地メンバーに毎日何時間も電話をして情報にキャッチアップしようとしていましたが、現地の人々の生活の中で発生する課題を頭の中で再現することは容易ではありませんでした。やはり目視で得られる情報は貴重なんだな、あーもっと現場に行っておけばよかったと鬱屈とした時間が過ぎていきました。

2021年1月、晴れて再びタンザニアの地を踏んだ私は一年前の反省を踏まえて、費用対効果は一旦度外視でまずは現場に行く時間をシンプルに増やそうと決めました。勤務時間の半分以上は現場で過ごすようになり、少しずつ現場に行くことの価値を客観的に評価できるようになってきた気がします。前置きが長くなりましたが、現場に行くべき理由について改めて感じていることをまとめたいと思います。


1.主観的な情報も含めて現場の情報の解像度が上がる

一個目はお決まりのこれなのですが、自分の中では「主観的な情報も含めて」というところがミソで新しい発見でした。

現場に来て改めて感じるのが、「説明の際に論理的に必要そうな客観的情報」という軸で顧客と接すると、多くの情報を取りこぼすということです。自分も相手も人間ですから、客観的な情報とは呼べないほど微細で感覚的な情報が数多く存在します。「この話題を持ち掛けたときに顔をしかめた」「彼の言っていることは一見非合理的だが、説明に対する自信がすごい。自分は理解していない合理性が働いていそうだ」「自分の仕事の売上の話をしている時にテンションが高くなるな」といったような具合です。

こういった情報は、社内のプレゼンの時には「・・というように感じました」という表現しかできないため、客観的な情報として提示しにくい(少なくとも私はとても苦手意識があります)ですが、現場で事業を回す担当者としては非常に価値があることが多いと感じています。

言い換えると現場での情報は説明責任に耐えうるほどの客観性には欠けるものの、その前段階のエッセンス抽出には非常に有用だということです。


ちなみに、余談ですがこの際に現地人のメンバーも同行してもらって後で咀嚼の時間をとると、情報に対する理解が劇的に進むなと感じています。タンザニア人にはタンザニア人の感覚や常識が存在します。日本人という外部の目線から事象を観察することもメタに考えられるという意味で重要ですが、彼らの目線を仲介することで、一見非合理に見える意思決定について彼らなりの合理性に気づくことがあります。

一例として最近あったのが貯金に対する感覚です。現在私は新規事業としてバイクの割賦販売事業の検証を行っています。最初は週払いで顧客に代金請求をしていましたが、支払いが遅延しそのまま解約に至ってしまう顧客が後を絶えませんでした。しかし、この支払い頻度を日払いにすると顧客の支払い遅延数が劇的に減少したのです。日本人の感覚からすると「毎日支払いをしなければいけないなんて、支払い忘れの可能性が上がるに決まっている」と考えてしまいますが、タンザニア人の感覚は違うようです。よくよく話を聞いていると、バイクドライバーのように少額とはいえ働き口を持っている人には、「お父さんが病気になったから支払いをしてほしい」「娘の制服代を貸してほしい」というおねだりが親戚中からひっきりなしに来るようです。親戚の数が多く、義理に対して熱いタンザニア人はこういった連絡を一週間受け続けながら「バイクの支払いをしなければいけないから無理なんだ」と言い続けることは簡単ではありません。だから、彼らにとって稼いだお金を帰り際にパパッと振り込んでしまえるののは非常に都合がいいのです。

ちなみにさらに余談ですが、先日、私の部屋を掃除してくれる家政婦さんに支払いを行おうとすると、「来週が娘のスクールバスの支払日だからその前日にまとめて払ってほしい」と言ってきました。バイクドライバーに限らずこの現金をなるべく手元に置いておきたくないという欲求は一般的な感覚のようです。


2. 自分の中に埋没していた仮説の優先度が上がる

新規事業に関する仮説の多くはただの些細な思い付きです。その中でそれらしく見えるものを一旦採用してみて検証を回し始めるわけですが、その過程で「アイデアとしてはありうるけど優先度低」として脱落していく仮説が数多く存在します。現場の一次情報に触れるとそういった脱落仮説が、実は非常に効果が高いのではないかと感じるような声をお客さんが聞かせてくれることがあります。もちろん、N=1の情報なので一般的な情報として扱うのは危険ですが、目の前のお客さんが力説しているのを目の当たりにすると明らかに自分の中の「いけそう感」は上がります。そういった優先度の上昇が起きると、より解像度の高い仮説の再構築にも繋がりますし、正解のない中で何かをこれだと信じるものを持ってオペレーションを進めていかなければいけない立場としては非常に価値があると感じます。

ただ、この考え方は危険性も孕んでいて、行う現地インタビューの対象選定によって優先度の上下が起きてしまい意思決定を間違える可能性もあります。どなたか起業家の方(ラクスルの松本さんか10Xの矢本さんだったかな)が、ある程度事業が固まったら一次情報には意識的に触れないようにしているとおっしゃっているのを聞いたことがありますが、経営のように包括的な情報の中での意思決定を求められる状況においては一定のリスクがあるのかもしれません。


3. 想いが高質化する。

「新規事業の成功において最もレバレッジがかかるのは担当者の『想い』である」ということは世間一般でもよく言われていることですが、私自身もこの言説には大変共感する部分があります。もちろん、世界のだれも思いついたことがない事業モデルがたまたま頭に舞い降りてくれば、事業としては成功確率は少なからず増えるのでしょう。しかし今日、情報獲得コストも下がり、企業や事業立ち上げのハードルが下がっている今日において、担当者が事業をどれだけ自分事として捉えやり切れるかが命運を分かつ、というのは納得感があります。Goodpatchの國光さんの記事はこの「想い」という抽象的な言葉について具体的に分かりやすく言語化されていて、新規事業チームでもよく言及させていただいております。

こちらの記事で、「想いを高質化する重要性」、そしてそのために「一次情報と顧客のペインに触れる」重要性について論じられています。これは我々のように生まれた場所も言語も経済水準も異なる方をお客さんにしている企業にとってかけがえのないプロセスだと感じています。事業担当者が「顧客のペインを追体験する」ということが難しいからこそ、どれだけその状況に耳を傾け続け、彼らの苦しみや痛みを想像しきれるかが勝敗の分かれ道だと思っています。

実際私自身も、日本で遠隔で現地スタッフのインタビューを通じて情報を獲得できる環境と、自分自身でバイクの駐輪場のようなところの裏道にあるバーでみっちり話を聞きに行ける環境とでは、自分が担当している事業に対する思い入れが全く変わってくるなと感じています。実際、日本では自分の担当する事業に対する愛が育まれず悩んでいた時期もあったのですが、タンザニアの現場で仕事をしていると、いわずと自分の事業への誇りや情熱が醸成されてきたような気がしています



自分の思考整理も含めて最近考えていることをざっくりまとめてみました。

「Go field」がアフリカのビジネスに革命を起こすと信じて。

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