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【アーカイブ記事(2017/11/01公開記事)】「アメリカの大学バレー事情【最終章】 〜プロリーグ設立に向け、本気で動き出したアメリカ〜」 #コラム #volleyball2 #vabotter #バレーボール #世界のバレーから


・「アメリカの大学バレー事情【第1章】
・「アメリカの大学バレー事情【第2章】〜アメリカの男子バレーボールを支える BYU 〜
・「アメリカの大学バレー事情【第3章】〜アメリカでの観戦の醍醐味〜


◎ Ohio の2連覇で幕を閉じた 2017年シーズン

 MPSF トーナメントでは【第3章】で書いたとおり、LBSU が初優勝。BYU は準決勝で Hawaii に0-3で敗れましたが、選考委員会選出2枠の1つに選出され、NCAA チャンピオンシップへ。準決勝で LBSU と対戦しました。

 MPSF チャンピオンに対し、サーブでデファルコを狙いつつ、MB を使わせないようにする等、相手の強みを消す BYU らしい戦略で、LBSU はやりたいことをさせてもらえませんでした。また、サンダーがシーズンベストと言えるパフォーマンスを見せチームを牽引し、結果3-0で LBSU に勝利。決勝で昨シーズンに続いて MIVA チャンピオンの Ohio と、彼らのホームで対戦することになりました。


 BYU としては昨シーズンのリベンジを果たすべく臨んだはずでしたが、どうも Ohio 相手には BYU の相手攻略術がうまく機能しないようです。この日も OH のニコラス・シェルシェン(3年)や OP のマイルズ・ジョンソン(4年)といったビッグサーバーのみならず、全体的にサーブのいい Ohio に押し込まれて後手後手の展開に。さらにその2人に他のアタッカーをうまく絡めたセッター、ブラウ(4年)の巧みな組み立てと、安定したセットから打ち込まれる強打によって劣勢に立たされた BYU は、アンフォースド・エラーが増える展開に。また、サーブでレセプションを乱してアウトオブシステムに追い込んでも、Ohio のアタッカー陣はハイセットを決めきる力があり、BYU の意図したような形に持ち込むことができませんでした。途中出場したパッチのサービスエース等で第3セットは一時 BYU がリードする場面もありましたが、終わってみれば2シーズン続けて0-3で敗戦、Ohio の優勝となりました。


 Ohio のシェルシェンはフランス出身で、最大の武器である強力なサーブはもちろん、アタックでも相手ブロッカーをうまく利用したり、空いているところを狙ったりと、技術力・判断力に優れた非常にうまい選手です。父親がポーランドの Resovia でプレーしていたことがあり、両親ともにポーランド人であることから、大学卒業後にフランスへ戻るのか、それともポーランドへ行くのかが注目されています。

 Ohio はそのシェルシェンと、同じくフランス出身の OH マキシム・エルヴォア、MB ブレイク・リーソンは4年生として残りますが、ジョンソン、ブラウ、MB ドリス・ゲスウス、リベロのゲイブリエル・ドミケスら2連覇を支えてきた彼らが卒業した後、ハンソン監督がどんなチームに仕上げてくるかも興味深いところです。


◎ プロリーグ設立へ、
本格的に始動したアメリカのバレーボール界

 今回観戦したチームの中では、BYU のパッチ、ラングロイスが今年の WL で、UCLA のスターが北中米選手権で代表デビューを飾りました。パッチはこの9月に日本で開催されたワールドグランドチャンピオンズカップ(グラチャン)のメンバーとしても来日し、イラン戦、イタリア戦に OP として出場していました。彼は大学修了まであと1年を残しながら、今秋からはイタリアリーグの Vibo Valentia とプロ契約を結びました。ラングロイスも同じくイタリアリーグの Monza で、UCLA のスターはフランスリーグの Paris Volley でプロ選手に、Setter/OP のスミスは父の後を追うようにプロビーチバレーボール選手に、Hawaiiからは OH クポノ・フェイ(クリステンソンの従兄弟)がイタリアリーグの Sora と、セッターのフランシスコヴィッチは同じくイタリアリーグの Modena と、UCSB の OH ジョシュ・シュミットはスイスリーグの VBC Colombier と、それぞれ契約しました。


 現時点で私が把握できた限りですが、他の大学からも合わせると今季は計20名(うちアメリカ国籍ではない選手が1名)の卒業生がプロとしてクラブチームと契約を結び、各国リーグへと旅立ちました。彼らが今後、どれぐらい試合に出られるか、出場機会に恵まれた時にはどんなパフォーマンスを見せ、どう成長していくのか、それもまた楽しみです。


 ただご承知のように、アメリカには国内にプロリーグがありません。これまで何度か設立を試みたものの、いずれも失敗に終わっています。そのため、大学卒業後もキャリアを続けたい選手は、上記の彼らのようにプレーできる機会を求めて海外に出なくてはなりません。どこかのクラブチームの目に留まった選手はそのチャンスを得ることができますが、望んでも叶わない選手もいます。

 また、プロという道はどれもそうだと思いますが、身の保障があるわけではなく、決して安定した生活が見込めるものではありません。慣れ親しんだ土地や家族、友人と離れて海外へ飛び立つには、それなりのリスクも背負わなくてはなりません。ゆえにせっかく大学までバレーボールを続けていながら、卒業後はバレーから遠ざかる選手も多数いるのがアメリカの大学バレーの現状です。

 そういった環境下で、シニア代表チームが国際舞台で成績を残していくために、アメリカバレーボール協会は独自のカリキュラムを構築、少数精鋭での強化に取り組み、それはある程度成功しているように思えます。


 ですが、もっと裾野を広げ、国内でのバレーボール競技人口を増やしながら、大学で学生アスリートとしてプレーできる機会を増やし、さらに彼らが卒業した後の受け皿としてのリーグを創設し、そこでの成功をシニア代表チームの強化に還元する ・・・ そのためにアメリカバレーボール協会は、この春からプロリーグ設立に向けて本格的に動き始めたようです。

 最高経営責任者(CEO)を長年務めてきたダグ・ビール(1984年のロス五輪で金メダルを獲得した際の監督)の退任後、アメリカバレーボール協会は今年1月に史上初めて、競技経験のないジェイミー・デイヴィスを CEO として迎え入れました(*1)。彼は CBS Sports や Fox Sports の財務担当としてテレビ界に参入し、テレビ局 NBC スポーツネットワークの社長を務めた人物で、スポーツ用品のオンライン販売会社ファナティスク社の社長でもあります。

 そういった経歴を持ち、スポーツ業界並びにメディア業界、インターネット業界にも強いデイヴィスを CEO に据えたところに、協会のプロリーグ設立に向けての本気度が感じられます。マーケティング戦略、メディア戦略を効果的に打ち立て、スポンサーを獲得することによって、アメリカでのバレーボールの普及発展を狙うと同時に、国内にプロリーグを創設するためのステップの1つだと考えられます。

 実際デイヴィスは、CEO に就任した際に「2020年までに、国内でプロリーグをスタートさせたい」と話しています。


 また、国内における男子・少年バレーボールの成長・成熟を目指し、学生アスリートとして奨学金を得ながら大学教育を受け、将来的にリーダーを担う人材を育成することを目的とした非営利団体 Motor MVB 財団が立ち上げられました。スパロー監督が共同チェアマンとしてその活動に参加しており、ロイ・ボールらも賛同者として名を連ねています。

 すでに今年5月に Motor MVB 財団が AVCA(American Volleyball Coaches Association)に対して150,000ドル、日本円で約1,640万円を寄付しました。寄付は今後4年間(2017-2020)に渡って行われ、学生アスリートとして奨学金を受け取りながら学問を学びつつ、バレーに取り組む選手を養成するための資金として提供されることになっています。早速その寄付を受けて、新しく数大学が男子バレーボールのプログラムを始動させました。


 アメリカでは、特に男子はアメリカンフットボール、バスケットボール、野球、サッカーの人気が高く、バレーボールを選択する男子はまだまだ少数のマイナースポーツです。それでも近年は、高校のクラブ活動として男子バレーボールを採択する学校も増えてきており、高校生のバレーボール競技人口は増加傾向にあります。NFHs(全米高等学校連盟)のリサーチ(*2)によると、全体数としては依然少ないものの、この5年間での競技人口の増加率は全スポーツで2番目となっています。


 同様に、DⅡ、Ⅲでの男子バレーボールの競技人口もここ10年で増加傾向にあり、今後さらに発展していくことが期待されています。


 NCAA チャンピオンシップのテレビ放送が、大学スポーツを放送する ESPNU から ESPN へ急遽変更になったり、その視聴率が年々上昇傾向にあることも、こういった動きに追い風となっているようです。


 その一方で、2017年シーズンまで MPSF に所属していた CBU(カリフォルニアバプティスト大)がこの春、2018年シーズン以降女子のビーチバレーボールを採択することに伴い男子バレーボールから撤退することを表明したり、ディヴィションⅢで2015年シーズンに優勝したノースカロライナ州のファイファー大が、スポンサーが見つからないという理由で男子バレーボールから撤退することを決定。

 また、コロラド州では600人以上の男子高校生がクラブチームでバレーボールをしているにもかかわらず、今年4月に行われた州の競技立法議会において、州立高校でのクラブ活動に男子バレーボールを加えるかかどうかが投票により否決される等、明るいニュースばかりではありません。


 シニア代表選手たち自身も「実現までにはまだ時間が必要だと思う」と述べているように、プロリーグ設立への道のりは決して容易いものではないと思われます。


 ですが、プロリーグはアメリカのバレーボール界にとっては積年の夢であり、悲願です


「プロリーグは大学を卒業した選手達に多くの機会を与えることができると思う」
ラッセル

「プロ化についてはみんなとても興奮しているし、デイヴィスや USAV に期待している」 (ショージ兄

「素晴らしい話だし、アメリカにはプロリーグが必要だと思う。国内において試合を展開していく必要があるし、選手たちはみんなサポートしたいと思っている」
ジェスキー

と、シニア代表の選手たちもプロリーグ設立を歓迎しています(*3)。


 CEO のデイヴィスが、8月にシカゴで開催された USAV Cup の際『FLOVOLLEYBALL』のインタビューに答えた記事(*4)によると、プロリーグ設立への一段階として、フェイスブックやツイッター等のさまざまな SNS や放送ネットワークを活用し、若者たちを引き込むことを掲げています。

 実際に、先日アメリカのコロラドスプリングスで開催された北中米選手権では、入場料を無料とし、国内に向けて全試合をインターネットで無料配信(大会途中からは国外の視聴者も無料で観られるようになりました)する等、多くの人に試合を届ける試みを行なっており、これもプロリーグ化に向けた戦略の1つであると思われます。

 アメリカバレーボール協会会長のオキムラ氏が述べているように、これまでアメリカ国内で国際試合が開催されることは少なく、国民が国際レベルの試合を観戦し体験する機会があまりなかったことから、まずは国内の多くの人に、シニア代表チーム自体を知ってもらうこと、試合観戦の楽しさやおもしろさに触れてもらうことを、当面の目標として掲げていることがうかがえます。

 また、この記事の中で、大会期間中にシニア代表メンバーが、アメリカ国内におけるプロリーグについての考えを話し合う場が持たれていた様子も掲載されています(*5)。

 デイヴィスは、観客層として若い世代や女性をターゲットにすることがプロリーグ成功の鍵を握っていること、また、マーケティングによって18歳以下世代の競技人口増加を掴んでおり、大学の女子ビーチバレーボール、高校及び大学の男子バレーボールが急速に発展していることを指摘しています。

 さらにこのインタビューでは、現在すでに6〜7つのスポンサーが興味を示していることも明らかにしています。


 問題点としては、まず契約金の額が挙げられています。複数のプレーヤーが、多少金額が下がったとしてもアメリカ国内でプレーすることを望んでいるようですが、女子のレイチェル・アダムスのように最終的には国内でキャリアを終えたいけれど、現時点では金額も重要だと考えている選手もいるようです。

 また、記事ではアンダーソンが国内でのプロリーグ設立に強い関心を示しつつ、「個人的にはそれが非常に重要」と述べているように、リーグのレベルについても考える必要があるでしょう。「お金よりも重要なことはあるけれど、ハイレベルな選手とともに戦うリーグでは、決まってお金もついてくる」と彼が言うように、契約金とリーグのレベルとをそれぞれどう確保、維持していくかも大きな課題となりそうです。

 デイヴィスは、最初は大規模アリーナでの開催は必要なく、10,000人規模程度のアリーナでスタートできればいいとしていますが、果たして成功への算段はどの程度ついているのでしょうか。


 アメリカでのプロリーグ設立というビッグトピックが、これからどう展開していくのか、今後も大学男子バレーとともにその動向に注目していきたいと思っています。

(*1) Jamie Davis Hired as USAV's Next CEO(『USA Volleyball』より)
 
(*2) 2015-16 HIGH SCHOOL ATHLETICS PARTICIPATION SURVEY http://www.nfhs.org/ParticipationStatistics/PDF/2015-16_Sports_Participation_Survey.pdf
 
(*3) What U.S. players say about creating professional volleyball league in USA?(『WorldofVolley』より)

(*4) USA Volleyball CEO Has Vision For A U.S. Pro League
(『FLOVOLLEYBALL』より)
 
(*5) World Championship Bound!(『USA Volleyball』より)

参考文献:吉田良治(2015)『スポーツマネジメント論 アメリカの大学スポーツビジネスに学ぶ』(昭和堂)

photo by FIVB

文責:宮間
アメリカ男子シニア代表に魅了され、アメリカの男子大学バレーボールも観るように。
カッコよくておもしろいバレーボールに惹かれます。


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