見出し画像

【アーカイブ記事(2017/10/29公開記事)】「アメリカの大学バレー事情【第3章】 〜アメリカでの観戦の醍醐味〜」 #コラム #volleyball2 #vabotter #バレーボール #世界のバレーから

・「アメリカの大学バレー事情【第1章】
・「アメリカの大学バレー事情【第2章】〜アメリカの男子バレーボールを支える BYU 〜


  ウエストウッドは学生の街といった感じで賑やかさがあり、また周囲には高級住宅地が広がっていて、ロサンゼルスの中では治安のいいエリアです。その北側に UCLA のキャンパスがあります。敷地は広く、目指す体育館はその広い敷地のさらに奥の方にありました。

 UCLA にはポーリー・パビリオンという、収容人数13,000名を超える大きな体育館があるのですが、私が訪れたこの日と翌日の Hawaii 戦2試合はジョン・ウッデン・センターという、バレーボールコートを2面張れる程度の大きさの体育館で行われました。

画像1


 UCLA は2016年シーズンからツーセッター制に取り組んでいました。2016年シーズンはそれがうまく機能し、MPSF カンファレンス内順位が BYU に次いで2位、トーナメントでは決勝で BYU に敗れたものの、NCAA チャンピオンシップに進める2枠に選出されました。チャンピオンシップでは準決勝でその年優勝した Ohio と対戦、フルセットにもつれ込む接戦でしたがあと一歩届かず、そこでシーズンを終えました。

 UCLA も【第2章】で紹介した BYU 同様に4年生がいないメンバー構成だったため、2017年シーズンもまったく同じメンバーでスタートできました。それだけに UCLA も BYU 同様「今シーズンこそは!」と意気込んでいたと思います。

 シーズン序盤は、攻撃パターンやディフェンスのオプションを増やしたり、チームとしてさらに完成度や成熟度を高めようとしていることが見て取れましたが、2月上旬の山場であった BYU 戦の直前に、主力の MB ミッチ・スター(4年)と OH ジェイク・アーニッツ(3年)の2人が負傷してしまいました。彼ら抜きで臨んだ BYU 戦でしたが、1試合目はフルセットへ持ち込むも敗戦、2試合目はストレート負けでした。

 この連敗を境に、チームはぐんと調子を崩すことになりました。怪我をしていた主力が戻ったかと思うと、今度はツーセッターの1人を務めるマイカ・マア(2年)が怪我で離脱、ワンセッター制に変えざるを得なかったり、入学前から高いジャンプ力で注目を集めていた1年生のカナダ出身ダイナン・ジマも負傷するなど、ベストメンバーが組めない状況が続きました。

 なかなか勝ちを重ねることができず、最終2戦となる Hawaii 戦で連勝することが、MPSF で優勝する以外に、NCAA チャンピオンシップへ出場できる可能性を手に入れるための唯一のチャンスでした。


 UCLA でも体育館の入口で学生が両チームのメンバー表を配っていました。

画像2


 他にUCLAの選手ポスター等もあり、選手との写真&サイン会が開催される時はこの用紙にサインをもらったりするようです。

画像3


 試合前のスターター紹介の様子です。


 1試合目、UCLA はヘイゲン・スミス(4年生、かつてビーチバレーボールで、カーチ・キライとペアを組んでいたシンジン・スミスの息子)のワンセッター制でスタート。序盤は均衡状態が続きますが、Hawaii がセッターのジェニングス・フランシスコヴィッチのサーブなどで連続ブレイク、中盤でリードを奪います。さらに第1セット後半、UCLA の攻撃が機能せず連続でブロックされると、スパロー監督は背中を痛めていたもう1人のセッター、マイカ・マアを入れ、ツーセッター制に戻します。

 そこから UCLA が盛り返し、デュースの末に第1セットを取りました。この試合で会場が一番盛り上がった瞬間でした。


 そのままの勢いを第2セットに持ち込みたい UCLA でしたが、Hawaii もメンバーチェンジを駆使しながらサーブ&ブロックで攻め込み、その後は Hawaii の優勢で試合が進んで、3-1で Hawaii の勝利。この時点で UCLA の NCAA チャンピオンシップへの進出はかなり厳しいものとなりました。 

UCLA 1(28-26, 23-25, 21-25, 18-25)3 Hawaii


 翌日の2試合目は「シニア・ナイト」でした。

 ホームでの最終戦、各大学は卒業する4年生、普段出場機会があまりない選手も含め全員を一定時間、試合に出場させ、試合終了後は選手の家族も招いて送別の儀式をする日(昼間の試合だと「シニア・デー」と呼びます)を設けています。UCLA はこの日がそうでした。そのため、第1セットのスターターは4年生4人が顔を揃え、いつもとは違う布陣。一方の Hawaii は普段どおりのスターターで挑みました。

 ここ数シーズンは途中交替での出場が多かった OH のマイケル・フィッシャー、リベロやリリーフ OH としてチームを支えたジャクソン・バントル、主力として活躍した Setter/ OP のスミス、MB スターの4人がコート上でいっしょにプレーをしているのはこの2シーズンでも初めて。みんなとても生き生きと楽しそうにプレーしていました。

 会場もまるでお祭りのような雰囲気でした。前日よりも好プレーが続出、またもや第1セットはデュースにもつれ込みます。ですが、ここぞという場面でUCLA のアタックエラーやミスが頻発し、最後は 41-39 で Hawaii がもぎ取りました。

画像4


 第2セットから UCLA は普段のツーセッター制に戻します。それでもセット序盤 Hawaii にリードを許し、中盤にブロックポイント等で追い上げるものの、逆転できないままこのセットもHawaii。第3セットは、UCLA がスターの連続サービスエースで走ると、そのままの勢いでようやくセットを奪取します。ですが第3セット以降、エラーが目立つ等パフォーマンスがよくないと、UCLA のスパロー監督はバントル、スター、そしてスミスと、相次いでベンチに下げてしまいました。

 「シニア・ナイト」というイベントの日で、4年生の家族も観ている中、ホーム最後の試合であり、かつ4年生にとって大学最後の試合でもあるのに、第4セット途中で4年生が誰1人としてコート上にいない状態にしたことに驚きました。冷静に見れば確かに、いつもよりもいいパフォーマンではなかったですが、昨日の段階で既に(MPSF トーナメントで優勝する以外には)チャンピオンシップへの道は断たれたも同然で、今日ぐらいは4年生の花道を飾るかと思ったのですが、そうはなりませんでした。

 スパロー監督が普段からよく言っているように、あくまで勝利のためにその時の最善の選択をしたということだったのか、トーナメントもしくは次シーズンを見据えてのことだったのか、第1セットで先に何度もセットポイントを迎えながら取り切れなかったことを引きずっての、怒りの懲罰的采配だったのかはわかりませんが、会場のお祭りのような雰囲気の中で、見ようによっては非情とも思える選択がなされたことがとても印象に残りました。

 スパロー監督は試合後のコメントで「4年生にとって最後の試合だったのに、途中で交替させてしまったことを後悔している」と述べていましたが、彼の勝ちへの貪欲さを垣間見た気もしました。残念ながら監督のそういった采配も功を奏せず、2試合目も3-1で Hawaii が勝利しました。UCLA は結局、その後の MPSF トーナメント初戦で UCI に敗れ、チャンピオンシップに出場することなく苦しいシーズンが終了しました。

UCLA 1(39-41, 23-25, 25-18, 22-25)3 Hawaii


◎ アメリカでの観戦で感じた “世界とのつながり”

 試合終了後、4年生たちを送るイベントが Hawaii の選手たちも見守る中で行われました。1試合目終了後もそうでしたが、この日もすべてが終わると観客はコートに歩み寄り、選手たちと自由に雑談をしたり写真を撮ったりと交流の機会が持たれていました。

 私もその波に乗って、以前から気になっていた Hawaii のMB4年生の Hendrik Mol 選手に思い切って声をかけてみました。Mol 選手はノルウェー人で、前・堺ブレイザーズ監督で現・トヨタ車体クインシーズの総合コーチである印東玄弥氏が、ノルウェー時代にコーチを務めていた Topp Volley Norge の出身です。印東コーチの指導のもと15歳でバレーボールを始め、さまざまな技術を身につけて Hawaii に入学したのでした。1、2年生の頃は OP としてプレーしていましたが、2年生終盤の4月に左眼の細菌感染により入院、治療後も左眼の視野が5~10%に縮小してしまいました(*1)。

 一時はバレーボールが続けられるか厳しい状況だったようですが、本人の努力により見事復帰、その後はチーム事情により MB に転向しました。限られた視野・視力で、しかもこれまで馴染みのないポジションに挑戦することは並大抵のことではないと推察しますが、彼は眼をガードするゴーグルをつけて、再びスターターの座を勝ち取りました。

 私が観戦した2試合でもサーブ、ブロックで UCLA にプレッシャーをかけ、力強いスパイクで0.636と、チーム1のヒッティングパーセンテージ(*2)を残しました(*3)。

 闘志を前面に出しいつもハードワークを怠らないとてもいい選手です。


 Mol 選手に日本から来たと伝えると、彼は満面の笑みを浮かべて「Wow, Japan!」と。そして優しい表情で丁寧に自己紹介をしてくれました。日本ということで印東コーチの話にもなり、懐かしそうに「印東コーチとは本当にいろんな思い出があるよ。日本にも二度行ったことがあるんだよ。2年前の夏だったかな、堺でトレーニングをしたんだけど、あれはとても楽しくて充実したいい体験だったよ」と話してくれました。

 最後には両手を合わせて日本語で「サヨナラ」と言ってから、再び英語で「あぁ、もっと話せる日本語を増やさないと」と笑ってくれて、サービス精神も旺盛でした。

 まさか彼とこういった話ができるとは思ってもいなかったので、印東コーチが日本国内のみならず、異国の地でもこれまでなされてきたことの大きさと、その印東コーチによって、またバレーボールによって日本と世界がこういう形でつながっているのだということを実感し、何とも言えず温かい気持ちになりました。


 Mol 選手は、直後の MPSF トーナメント決勝の LBSU 戦で、ブロック着地時に右足首を捻挫してしまいました。Mol 選手を欠いた Hawaii は MB をなかなか使えない状況に追い込まれ、サイドの頑張り等でフルセットまで持ち込んだものの敗れてしまいました。Hawaii は選考による2枠選出チームに入り、NCAA チャンピオンシップに出場。Mol 選手はプレイオフではプレーせず、準決勝の Ohio 戦で復帰しましたが怪我の影響は否めず、決勝に進むことはできずにシーズンを終えました。

 Mol 選手は大学卒業後は、ビーチバレーボール選手として東京五輪を目指すそうです。彼の弟 Anders Mol もまた、印東コーチの教え子であり、昨シーズンはベルギーのノリコ・マザイクに所属するも肺の病気の治療により途中で離脱。その後はプロとして、ビーチバレーボールに専念することとなり、一足先にビーチバレーボール界で次々と好成績を残しています。つい先日もビーチワールドツアーの年間新人賞を獲得しました(*4)。

 もしかしたら東京五輪では兄弟ペアでプレーする姿を見ることができるかもしれません。今からとても楽しみにしています。


 また、Anders Mol がペアを組んできた従兄弟の Mathias Bernsten、Christian Sørum も Topp Volley Norge 出身で、印東コーチのコーチングを受けてきた選手たちです。それぞれが世界の舞台で結果を残してきています。


 NCAA には他にも、印東コーチの教え子がもう1人います。前シニア代表監督のアラン・ナイプ監督のもと、Outside Hitter の TJ・デファルコ(2年生、ワールドリーグ2017で代表デビューを果たしました)を擁し、2017年シーズンに MPSF トーナメントで初優勝を果たした LBSU の Outside Hitter、Nicolai Huus です。技術力が高く、リベロもこなすなどレセプション、ディグに定評のある選手です。

 彼は2018年がラストシーズンとなりますが、LBSU は彼以外にも主力の TJ・デファルコや、セッターのジョシュア・トゥアニガ、OP のカイル・エンシンがそのまま残っており、堅いディフェンスから繰り出される多彩な攻撃が持ち味の魅力的なチームです。昨シーズン成し遂げられなかった NCAA チャンピオンシップ獲得を目指して、ギアを上げてくることが期待されます。


 ◎ アメリカのバレーボール会場の雰囲気

 アメリカで大学バレーを3試合観戦して印象的だったことに、観客の態度や反応があります。観戦した3試合は会場が中規模だったことや、UCLA での2試合目は先着100名に無料でピザが配られる企画もあったため、結構席が埋まっており、会場はとても温かな雰囲気に包まれていました。もちろん大学ですので、選手の家族や友人が多いからという側面もあるかもしれませんが。

 アメリカでは、応援しているチームのセットポイントもしくは、マッチポイントの場面で観客が立ち上がります。UCLA ではデュースの場面で、UCLA がセットポイントを迎えると大勢の観客が立ち上がり、私も立ちましたが、相手に得点がいくとデュースで座り、こちらが得点するとまた立ち上がる、というのを何度も繰り返しました。まわりの観客といっしょに立ったり座ったりを繰り返すことで、一体感を味わえたのも楽しい思い出の一つです。


 UCLA での1試合目は、たまたま隣で女子の監督と選手たちが観戦していたので、どんなリアクションをするのかも意識しつつ観ていたのですが、基本的にいいプレーに頷いたり拍手したりするのが主で、イージーミスには思わず “Oh..” と溜め息が出てしまう程度でした。サービスエラーに対しても特に反応はなく、それは他の観客もそうでした。

 ですが、UCLA での2試合目の第1セットのように、デュースが続いて35点にまでなってくると、さすがに「いい加減決めてくれ」という空気が会場に流れ、立ったり座ったりを観客も繰り返していることもあって、エラーが出るごとに、笑いを伴う溜め息が漏れるようになっていましたが、概してサーブが入らなくても険悪な空気になることはなく、「次、次」「いけ!」と励ます声が多かったと思います。

 それは、この場面で選手が意図したとおりのサーブが入れば、サービスエースが取れる、もしくはブロックで仕留められる、仕留められなくてもトランジションで攻撃につなげられるから、自分たちにとって有利になる(ブレイクできる)ということを、観ている人たちがよく知ってるから、という雰囲気を感じました。目先のワンプレーだけに注目しているのではなく、その先まで見据えて、ゲーム展開全体を観ている、という感じでしょうか。


 駆け足で観戦した3試合でしたが、新鮮な発見や素敵な出会いもあり、大変充実した楽しくて貴重な数日間でした。(次回に続く)

(*1) Hendrik Mol igjen klar for Hawaii(『Volleynytt.net』より) 

(*2) ヒッティングパーセンテージは、アタック効果率と同じで「(アタック決定本数 - アタックミス本数) ÷ アタック打数」により算出される

(*3) https://uclabruins.com/sports/mens-volleyball/stats/2017/hawai-i/boxscore/14474 (『UCLABruins.com』より)
 
(*4) The Beach Volleyball Viking on the rise (『swatchmajorseries.com』より)

参考文献:吉田良治(2015)『スポーツマネジメント論 アメリカの大学スポーツビジネスに学ぶ』(昭和堂)

photo by 宮間

文責:宮間
アメリカ男子シニア代表に魅了され、アメリカの男子大学バレーボールも観るように。
カッコよくておもしろいバレーボールに惹かれます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?