「直角」を保つ凄さ

「おい、ちょっとこっちこい」

高校を卒業してすぐ、福井県から大阪に出てきた親父は、およそ40年間、30人程度の工務店で現場監督として勤め上げた。今は、老後を楽しめば良いのに、呼ばれては現場監督の仕事をしにいっている。根っからの仕事人間である。

僕は親父が好きではなかった。特にその、働き方が。

朝、まず顔を合わせることはない。夜は早くて20時、遅いときはもはやいつ帰ってきたのかすらわからない。にもかかわらず、次の日の朝も帰ってきた形跡はあっても顔を見ることはない。たまに早く帰ってきても、共働きの母に料理、配膳、片付けまですべてしてもらったあげくお酒まで入れさせている親父の姿は、男女平等の教育がなされている小学生の僕にとっては違和感が残った。「ご飯の片付けくらい自分でしろよな」と率直に思っていたし、疲れ果ててご飯を口に入れたまま寝てしまっている顔は今でも覚えている。「働き過ぎだろ親父、大丈夫かよ」と思う一方、「こんな働き過ぎで家事もしないで、母親に配膳・片付けまでさせるような大人になりたくないな」と思う反面教師な親父だった。

プライベートでは日曜日などにはキャッチボールや、少年野球があったときは車で送り迎えをしてくれたりバッティングセンターや釣りに連れて行ってくれた思い出はたくさんある。そんな中で、プライベートと仕事が交差した一つの思い出が、冒頭の親父の言葉から始まった体験だ。

あれは明確にいつごろだったか覚えていないが、親父が珍しく「梅田のスカイビル見に行こうか」と行ってきた。正直言って「親父といってもおもしろくないだろうなぁ」と思った記憶があるが、断るほどの反抗期ではなかったのだろう、着いていくことにした。


「おい、ちょっとこっちこい」


スカイビルを目の前にしてまだ展望台どころかロビーにも入っていない段階でスカイビルの角に片膝ついた親父が手招きしながら僕を呼んだ。
僕は「親父なにそんなところで片膝ついて座ってんだ」と思いながらもいわれるがまま行くと、親父は続けた。


親父「この壁ぎりぎりまで顔を近づけて、上を見みてみ」

僕「見たよ。これが何?」

親父「90度。一番上まで、90度を1度でもずれたら建たないんや。一番上まで直角を保つってすごいんやぞ。これだけの高さのたてもの、大変やったやろうなぁ」

僕「おーー・・・なるほど、確かに」


たぶん、そんな会話だったと思う。

それ以降、僕は単純に建物に対してそれを建てた見知らぬ人々に漠然とした敬意を持つようになったのだ。

で、僕はそれをきっかけに建設業で働くことになっ・・・・てはいない。

やはり親父の働き方は受け入れがたかったし、特に経営者でもないので引き継ぐわけでもない。親父には一度も建設業で働いてみたらとも言われたことはない(そういえば言われたことないな。どう思っているのか生きてるうちに(笑)聞いてみておこう)。

というわけで、建設業には行かなかったのですが、いくつかの転職を経て(ここはまたどこかで書くかも)、現在建設業界の職人ではありませんが片隅に所属させて頂いてまして(主に、健康保険事務、雇用保険事務の担当)そこで見聞きした職人さんの声(名前の由来)と、それらを改善するための僕なりの「仮説」を提案して行きたいと思ってTwitterを始めました。

noteを始めたのは、2018年秋ごろから始めたTwitter

にて、職人さんを1000人以上フォローし毎日仕事もそこそこに(おい)読み続けたり絡み続けたり(スミマセン)した結果、140字じゃ足りねー!って思ったことを書いてみたくなったから。

というのと、普通の大工さん

に勝手に焚きつけられたという説もあります。笑

さらにのりこ@内装屋さんがnoteを始められて、「おまえもやっちゃいな!」と(これも勝手に)言われたような気がしたという説もあります。笑笑

何より、僕にはコゲさん

を始めとする職人さんたちのように職人ではないので現場の写真や動画をあげることもできないので、こっちで頑張ってみることにしました。

ちなみに、近々「建設アップデート会議」なるものの開催が呼びかけられ、僕も参加しますが、その件についてはまた改めて!

すべては、建設業界の未来のために。(「すべてはNのために」風)

僕のように、立派な仕事なのに親父うざいとかと思うような子どもが減るように。