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相互に作用しているから、簡単に入れ替わる

日曜日の朝、娘はIELTSの試験を受けるために梅田に向かった。
途中、受験に必須のパスポートを忘れたと連絡が入る。

完全に間に合わないなら、無駄な動きはしたくはないが、わたしがすぐに出発すればぎりぎりセーフで忘れ物を届けられるタイミングだ。

スウェットにダウンを羽織り、顔に日焼け止めだけ塗って秒で家を出た。
最寄りの駅まで走り、電車の中では最短ルートを確認し、どこで落ち合うのが一番効率的かを考えて、娘に伝えた。

電車が梅田に着いて、扉が開くと同時に走りだした。
この師走の人込みの中、すっぴんで梅田の路上を走るとは思わなかった。

クリスマス一色の梅田の街をわき目もふらず、人にぶつからないように、そしてこけないように注意しながら走った。

地上だと信号に引っかかる確率が高いから、あえて歩道橋を選んだ。
目線が少し高くなった分、一層伝わるクリスマス感。

そして、その景色と相対的な格好をして、道の上で物乞いをしているホームレスのおっちゃんが目に入った。

寒そうだし、地べたは余計に冷えるやろう。
せめて座布団でも…と思いながらおっちゃんを横目に走りすぎた。

いつもそう、気持ちがあるなら行動すればいいのに、あとになって後悔する。
電車で席を譲れなかったときも、道で迷っている外国の人を見かけたときも。

でも、今日は後悔しないと確信できた。
わたしは数分後の目的を果たしたら、同じ道を戻って帰るからだ。帰りは走らなくていいし、気持ちに余裕がある。
そんなことを考えているうちに目的を果たし、5分後には寒そうな格好で物乞いをしてるおっちゃんの前に着いた。

事前に財布からポケットに入れていた500円球をそっと箱に入れた。「少しだけ」とつぶやいたけど、きっと聞こえていないだろう。
そして、振り返ることなく周りの歩調に合わせて足早に駅まで歩いた。

なんだかイイことした気分。
自己満だとわかっていても、それでもなぜか爽快な気分。

でも、そうさせてくれたのは、おっちゃんの存在……。

今年観た映画や読んだ本、日ごろの考察がここぞとばかりによみがえる。

思考の大渋滞が落ち着くのを待って、アウトプットしてみる。


「支えられている人と支えている人は、簡単に入れ替わる。そして、どちらが上でも下でもなく、相互に作用している。」


箱に500円を入れただけで英雄気分になり、振り向くことなくその場を後にしたが、与えられていたのはわたしの方だった。


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