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灰の猫

灰の猫、灰色の、じゃなくて、灰の。

そいつは灰からぶわりと立ち現れてそろりとこちらに近づいてくる。
ぼろぼろと灰を撒き散らしているが、その姿が消えてなくなることはない。道のいたるところに雑草が生い茂るように、灰の猫にとって、灰とはそこら中にあるものだった。

灰によって生まれ、灰によって生かされている。

それを、当の本猫は知る由もなく、ただ灰を撒き散らしながら生きているのだった。その猫に近づきたい動物は、ほとんどいなかった。
灰まみれになるのが怖かったからだ。

ひたすら歩き続けること1年、猫はある人間に出会う。

その人間は、猫を自分の書店の中に招き入れた。というよりも、入ってきた猫をそのままにしておいた。本に灰が入り込むと困ることばかりしかないのに。

こともあろうに、その人間は猫を抱き上げた。灰まみれになってしまうと思ったが、人間は灰には汚れなかった。

猫は一瞬、自分の灰がなくなったのかと思ったが、そういうわけではなかった。灰は床に落ちている。

しかし、不思議なことに、その灰は、ぼろぼろと落ちるそばから消えていった。

かくして、猫はその書店に居候を始めた。



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