📧日本人と日本企業に欠けているもの～ネット興亡記に学ぶ敗者復活の物語⑩(2021年2月)

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一昨日(2021年2月13日)の夜間に東日本ならびに関西・中国地方まで揺れる大きな地震がありました。被害にあわれた方の一日も早い回復をお祈りいたします。

あの未曽有の被害となった東日本大震災から間もなく10年、災害の記憶が徐々に風化していく中で被災地での大きな揺れは、フラッシュバックのように多くの人々の心へ恐怖を思い起こさせているかもしれません。

災害は忘れたころにいつやって来るか分かりません。余震ならびに日ごろから防災用品や避難場所の確認などをしっかりとしておきましょうね。

さて、GAFA(ガーファ)またはGAFAM(ガーファム)と呼ばれる米国の巨大IT企業群がコロナ禍による世界経済の停滞と減速による混乱と株式市場の暴落の中、それさえもバネに今や国家を超えた規模の資産を有する怪物へと変貌を遂げつつあります。
2020年4月末にはGAFAM5社の合計時価総額が日本の東京証券取引所1部に上場する約2,200社の合計時価総額を上回りました。

世界の株式市場においても米国株式の存在感は圧倒的で、
先進国株式指数(MSCI World Index)を観ても50%超を米国企業が独占。
米国GDPが2020年第二四半期(4-6月期)に過去最悪のマイナス32.9%となった中でも堅調な成長を続けていました。

GAFAMのうち、 Microsoft (1975)とApple(1976)を除く企業はインターネットの普及に伴う1994年以降に誕生しました。

Amazon(1994)、Google(1998)、Facebook (2004)…

第四次産業革命(Industry4.0)と呼ばれるインターネットによる情報通信革命の潮流に乗ったIT企業は「プラットフォーマー」と呼ばれ世界の各地で畏怖の対象にさえなり始め、国や地域によってはこれらの企業に対してだけ利益に対してではなく売上に対する税を課すところまで出始めています。

日本でもバブルの余韻が残る1990年代前後からIT企業が次々と誕生しました。

ソフトバンク、楽天グループ、サイバーエージェント、
livedoor、DeNA、mixi、ニコニコ動画、メルカリ…

中でもプロ野球などプロスポーツのスポンサーがかつての日本企業の強かった運輸・製造業ではなくIT企業へ変化し始めているのは象徴的な事でしょう。

しかしこれらの企業を日本版GAFAとは呼びません。

かつて世界の時価総額ランキング上位を独占していた日本企業たちが、世界で今や見る影もなく、日本企業で時価総額第一位のトヨタ自動車でさえ世界の時価総額ランキングトップ50位から今やランク外になったり返り咲いたりの境目にいます。

(2020年11月49位、同12月39位へ返り咲き、2021年1月はランク外)

『日本からGAFAが生まれないのは何故だ？』

今号では日経新聞電子版で2018年7月から2019年12月まで連載された
『ネット興亡記』を参考にあの日本のIT企業たちの勃興を振り返っていきたいと思います。

#日経新聞　 #ネット興亡記 #Paravi

日本人の殆どが使っているあのスーパーアプリはどう生まれたのか

恐らく今日、多くの日本人にとって利用されているインターネットサービスの一つは『LINE』ではないでしょうか。

メッセジーアプリである『LINE』は実は殆ど知られていませんが、日本におけるインターネット黎明期*の敗北者たちによって創られました。

今回の物語の主人公の一人は1977年神奈川県生まれの舛田淳(ますだじゅん)です。彼は学校生活に馴染めず高校をわずか1年で中退。

同級生より2年遅れ大検を経て1997年に早稲田大学へ進学をして、後にメルカリを創業する山田進太郎らと出会います。

舛田は卒業後にIT系シンクタンクを経て、27歳(2004年)で中国最大手の検索エンジン『百度(バイドゥ)*』の日本法人副社長へ迎えられます。

*日本では近年は日本語キーボードカスタムアプリ「Simeji(シメジ)」などを展開。

国内で圧倒的な存在感を示すYahoo!JAPAN(国内での運営会社はソフトバンク、以下Yahoo!)や破竹の勢いで成長し続けるGoogleが事実上の独占をしている検索エンジン市場へ挑みますが、勝機を見いだせず1年ほどで辞任。苦い敗北を経験します。

退職の挨拶をメールで各所に送っているとNAVER(ネイバー)という韓国系IT企業の日本法人で働く森川亮(後のLINE初代社長)から食事でもしませんかと返信が届きました。

NAVERは主要国で数少ないGoogleに検索エンジン市場を明け渡さなかった実績があり、韓国で検索シェア70%超を占める大手検索サイトでした。

検索エンジンはエンドユーザーのインターネットにおける最も利用される「入口」となり、そのポータルサイトとなれば膨大なアクセス数を基にニュース・広告・ショッピング・金融など多様な収益化の可能性を秘めています。

しかしそのNAVERも2000年に日本国内で検索エンジン市場への参入を目指しましたが、Yahoo!・Googleの牙城は崩せないと2005年に一度日本から撤退をしていました。

「NAVERはもう一度、日本市場に参入をするから力を貸して欲しい」

舛田は森川との食事で説得され、来日したNAVER本社の担当者と会うことになりました。NAVER本社はエースエンジニアのシン・ジュンホを開発責任者として送り込んできました。

舛田はまだ日本語を話せないシンとホワイトボードを使いながら2時間かけて語り合い、シンとNAVERの熱意を確認します。

「私は家族も連れて片道切符で日本に来ました。ここで成功するまで帰りません」

舛田はNAVERで再度の検索エンジン市場への挑戦を決意。日本人の心に刺さる検索エンジンの開発を模索します。

新サービスを次々にリリースしますが、Google・Yahoo!の牙城を崩せません。いつまでも活路を見いだせないNAVERで、舛田の脳裏には再び撤退・敗北・退任の言葉がよぎりました。

なんとかしようと芽の出そうなIT企業をM&Aすることによって成長までの時間を買う生き残り策に奔走していました。

2010年、そんなNAVERで働く舛田の元へ「ウチを買ってくれませんか？」と買収交渉を持ち掛けてきたのは、かつて日本のIT企業の象徴だったlivedoorでした。

堀江貴文社長による積極的なM&Aで急成長。50年ぶりの新球団としてのプロ野球参入を表明(2004)、ニッポン放送買収(2005)などで世間を賑わせた同社はライブドア事件(上場廃止)によって時代の寵児から転落、既に世間では過去の会社となっていました。

しかし既に終わった会社と思われていたlivedoorは調べると、月間利用者数3,000万人、キャッシュもあり、コストを抑えて黒字企業だったのです。

堀江前社長からバトンを引きついたオン・ザ・エッジ(livedoorの前身)時代からの盟友、副社長:出澤剛が社長として会社を支えていました。

”livedoorの事業はNAVERとの親和性も高い…”

そして何よりも舛田を驚かせたのがlivedoor全盛期を築き上げた優秀なエンジニアが殆ど残っていたことでした。

舛田はlivedoor買収を決意します。

livedoorをグループに迎え入れるにあたりNAVERは買収後のlivedoorとの交渉で“5つの約束”を交わしました。

しかし買収される側であるlivedoorはかつてM&Aで急成長した企業、買う側の論理は知っていました。この約束はやがて一方的にNAVER側から反故にされるだろうと。
それでもNAVER側は経営ポリシー・経営体制・成長支援・雇用・ブランドの5つを守ることを約束すると真摯に説明してくれました。
幾つかの買収先の候補からlivedoorはNAVERに買収されることを選びます。

2010年4月に63億円での買収発表後、NAVERからの検索エンジンの技術提供と相互の人材交流を行いながら、これまでのパソコンによる検索エンジン市場から本格的な普及と利用者の急増し始めていた新たな市場、スマートフォンへの移行期にチャンスを伺っていました。

そんな船出からおよそ一年が経とうという頃、2011年3月11日に東日本大震災が発生。最大震度7、観測史上最大の津波が発生。東日本沿岸部の広い範囲に壊滅的な被害を与えました。