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オリンパスブルーの憂鬱~カメラ事業売却に伴う理想と現実(3)⑳

「カメラ大衆化の旗手」と評されたオリンパスがカメラ事業の売却を発表しました。

前回と前々回でオリンパスのカメラ事業がフィルム時代・デジタル化の過渡期に挑んだレンズ交換式デジタル一眼レフ市場でどのような勝算を目論み、オープン規格フォーサーズと自社のラインナップ・レンズシステムE-SYSTEMを構築し、そしてどのように敗退をしたのかを元カメラ販売員(という名のカメラオタク)だった私がカメラの各世代の大まかな特徴を踏まえながら解説していきました。

ヒマでヒマでどうしようもない方はダラダラとお読みください。異論は認めます。

前々回:オリンパスのカメラ事業誕生とフィルムからデジタル一眼レフへの挑戦(2003-2005年)

前回:デジタル一眼レフ黎明期のオリンパスとライバル企業の動き、そしてフォーサーズ後期まで(2006-2010年)

今回は気が向いた時に書こうと思っていた第三弾。前半はフォーサーズからマイクロフォーサーズ(ミラーレス一眼)への挑戦、後半はフルサイズ・ミラーレスの台頭です。


ミラーレス一眼”マイクロ”フォーサーズの船出

2008年10月31日、パナソニックからレンズ交換式ミラーレス一眼「DMC-G1」が発売開始されました。

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これまでのレンズ交換式一眼レフ(フィルム含む)のミラーボックス(レフレックスミラー)を廃して、本体背面の液晶画面を観ながら撮影する(ライブビュー)というスタイル…いわば小型デジカメで当たり前にやってきた撮影スタイルも、やっと実用レベル※の入口に到達しました。※スポーツとかはまだキツい。屋内スポーツだと相当厳しい。

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レンズ交換式のマウント規格は同社が参加のフォーサーズではなく、ミラーを廃してより軽量小型化を目指した新規格”マイクロフォーサーズ”(センサーサイズは同じ4/3型)を採用しました。

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レンズ交換式カメラらしからぬ赤や青のカラーリングのボディにLiveMOS1210万画素、ボディ実売価格7万7千円、本体質量385gでミラーボックスを排除したことにより、可変式モニター搭載では発売当時世界最小・最軽量のレンズ交換式デジタルカメラとなりました。

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黒やシルバー(または白)ではないカラーリングは当時としては斬新で、一目でカメラと理解してもらえるフォルムはオリンパスのE-300のようなテツを踏みませんと宣言をしているようでした(´ー`)

もちろんパナソニックですからメモリーカードはSD/SDHCカードです(笑)

ファインダーは光学ファインダーではなく電子ファインダー(EVF)144万ドットで、これまでの小型デジカメに搭載されてきたEVF30万ドットから一気に高精細化されました。

オリンパス・フォーサーズは何が足りなかったのか?

圧倒的な小型・軽量なボディ?

やっぱりメモリーカード?

使い物にならないライブビュー撮影?

様々な仮説を立てて一つ一つ潰していこうとする意欲が感じられたパナソニック製のミラーレス一眼の初号機。

この発売から間もない2009年3月25日、早々と第二弾を発売します。G1に動画撮影機能を搭載した「DMC-GH1」。

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フルHD/AVCHD対応となり、本体背面には動画撮影ボタンが追加されました。

有効画素数やボディ質量はほぼ変わらず、さりげなく総画素数の向上によって暗所撮影に若干強くなったとしているが、動画対応の有無が最大の違いという点は変わらない。

元々、ビデオカメラを発売してきたパナソニックだけにフルHD/AVCHD対応は市場でも注目されていたが販売店の立場だとなんとも微妙な一台でした。

その理由は1年で一番忙しい年末商戦の入口という時期に発売してカメラ売場でいきなり値下げ競争にさらされ、実績も、マイクロフォーサーズの各種ラインナップもまだ十分に構築されていないG1という存在。(ぶっちゃけあまり売れていない上に単価の高いカメラ在庫が、色バリエーションとレンズキット・ダブルズームキットで更に膨らむという最悪の状態に加え、価格が揉まれて割安感のあるG1に対して、本来なら少しの価格差でGH1になるはずがG1との価格差は万円単位となっていた)

そして発売から半年も経たず、動画撮影も出来る様になりましたというGH1…え?これ、カメラ売場に展示するの?ビデオカメラ売場に展示するの?

位置づけ的には三洋電機のXactiに近い感じ…?でも交換レンズ式だからデジカメコーナー?

売場担当者同士の押し付け合いが始まった。

「こんなの売れないよ」というAV(テレビ・オーディオとかビデオカメラとか)担当者

「こっちはもうG1で場所取られているんだ」というカメラ担当者。

しかも季節は入学シーズンを控えた3月後半。

新製品や新機能に慣れているはずの売場販売員にとっても、まだレンズ交換式での動画撮影の需要が立ち上がったばかりで、これらのカメラがどういう位置づけなのか分かりづらかったのです。

しかもズームはズームリングを手動で回す必要があり、ビデオカメラや小型デジカメのボタンを押すだけ、レバーを引くだけではないアナログな点もユーザーにどのように響くのか。

確かにレンズを変えることで表現の幅を広げることは出来るけれど、レンズラインナップはまだ少ない。しかもカメラもレンズも決して安くはない。センサーサイズの大きいカメラで動画を撮るという事がどういうことかメーカーも実は明確な答えを持っていなかったように思います。

このような状態は恐らく携帯電話やテレビの発展過渡期にもあったように思えます。

「こんな機能、誰が使うんだ?」

技術的に実装が可能かどうかがが先立ち、ユーザーも販売員も置いてけぼり。そうこうしているうちに誰も使わない機能てんこ盛りで、テレビなら一回も押したことのないボタンで埋め尽くされたリモコンが出来る…みたいな。

でも新しい技術って最初多かれ少なかれそういうところがあるのは、電話やインターネットなどの発展の歴史から私たちは知っています。

開発者が想像もしなかった使われ方をして、気がつくとそれをもっと工夫したいとなってそれに合わせて今度は周辺環境が進歩・発展していく。

GH1はそういう意味で挑戦的で、カメラの進化の分岐点、手探りの時代に生まれた一台だったと個人的には評価しています。

尚、デジタル一眼レフを含むデジタルカメラで動画の撮影時間の長さに30分未満などの制限があるのは関税の都合。カメラ(写真)としての関税とビデオカメラ(動画)としての関税が違いがあり、敢えて機能的に制限を設けているんだとか。


動画を取り巻く環境について少し触れておくと2005年2月に米国でYouTubeが設立され、2006年10月にGoogleが買収を発表。

2006年12月には日本でニコニコ動画が設立してサービス開始。2007年6月にはYouTube日本語版が公開されました。

どんな使い方をするのかはユーザーによって変わりますが、YouTubeに撮影した動画をそのままアップロードできる動画形式のカメラは当時ニッチな存在でしたが、そこそこ需要がありました。カシオの小型デジカメEXILIMEや三洋電機のXactiなど。

GH1は、今で言えばユーチューバーのハシリみたいな人たちは飛びついたようですが、当時のインターネット回線はADSLや光インターネットなどの固定回線を自宅まで引いているユーザー以外は携帯電話の3G回線を利用したモバイルルーターなどで回線速度も高速ではなかった上にYoutubeがHD非対応(2009年末から順次対応)だったため、大多数のユーザーには馴染みが薄くお世辞にも歓迎という雰囲気とは程遠かったのを覚えています。

しかも手詰まり感満載のオリンパスのデジタル一眼レフ(フォーサーズ)がE-420/520にマイナーチェンジされてまだ半年。

またグレードが異なるとは言えパナソニックからG1が出た、ほぼ一か月違いの2008年12月にオリンパス・フォーサーズにおけるミドルクラスE-30が発売されたばかりです。

オリンパスのユーザーにとって、このマイクロフォーサーズなる新しい規格は不安が走ります。

「フォーサーズの開発は終わらない」みたいなメーカーの偉い人の発言を鵜呑みにするほどユーザーは馬鹿ではありません。この言葉には「今は」という言葉が暗に含まれているかもしれないと勘ぐり始めます。

またソニーはこの直前、2008年3月にα350でライブビュー撮影に本格参戦、同年10月にはα900でフルサイズ機を投入した時期。

キヤノン・ニコンなども一応つけました的な動画撮影機能をラインナップに拡充していきます。

オリンパスが主導した2003年のフォーサーズの船出とは打って変わり、2008年のマイクロフォーサーズはパナソニックが主導で始まりました。


小型・軽量を追求したファインダーレスなミラーレス一眼登場

2009年7月3日、オリンパス製のマイクロフォーサーズの初号機が発売されました。

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「OLYMPUS PEN」と名付けられ、かつてのフィルム時代のハーフカメラPENを彷彿とさせるようなデザインのE-P1(1230万画素、ボディ実売価格9万円、本体質量335g)は新しいデジタルカメラの一つの姿が登場します。

同年9月18日にはパナソニックからDMC-GF1(1210万画素、ボディ実売価格7万円、本体質量285g)が登場しました。

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G1やGH1同様にOLYMPUS PENもパナソニックGF1もミラーボックスを廃したことでミラーレス本来の軽量化をしただけでなく、単焦点のパンケーキレンズを標準のキットにして手にした時の軽さと薄さを強調しました。

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そう、これで良かったんです(涙)

オリンパスはE-300の時、いえ遅くともE-410のレンズキットは標準ズームレンズではなくこういうので良かったんです。

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ヒントはありました。2005年あたりからペンタックスのパンケーキレンズ(DA Limited)に注目が集まっていましたから。

フォルム的に近いオリンパスのE-300やE-330は軽い・薄い・小さいとは一般のユーザー的には言わないレベルのものでしたが、これらのミラーレス一眼はまさに軽量・小型と呼ぶに値するものでした。

そして最大の特徴はレンズ交換式と小型デジカメとは決定的に異なるセンサーサイズの大きさでした。

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これは小型デジカメの中でもハイエンドデジカメと呼ばれるセンサーサイズの大きなカメラや明るい単焦点レンズなど一芸に秀でたカメラとマーケットが重複を始めたことを意味し、リコーのGR DIGITALやGXR※、キヤノンならPowershotGシリーズ、パナソニックならLUMIX LXシリーズなどが囲い込んでいたユーザーを真っ先に取り込むように思えました。

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※GXRはカメラユニットごと交換するタイプ。ゴミ問題などの解決、レンズ交換に対する一つの解答だった交換式ユニットがデジカメ一台に匹敵する価格となってしまいシステムとして不利になってしまった。

しかし、ここにもヒントがありました。

ズームのできないレンズ、いたずらに増やさない画素数、数年に一度のマイナーチェンジ…リコーのGR DIGITALは何故、ヒットしているのか?

フィルム時代からのGRファンもいますが、多くはデジタルカメラのGRを支持しました。

ぶっちゃけリコーだよ?(笑)デジタルカメラのイメージを持っている人は殆どいません。

でも2005年9月の発売以来、ハイスペックデジカメの先駆者としてズームできないのに売れまくっていました。

ズームという利便性ではなく、明るい単焦点の描写力という魅力と機動性はフォーサーズの理念だった軽量・小型と本来なら相性が良かったはずです。

オリンパスはこだわるべき点を見誤り、そして気づいた時には手綱をパナソニックにしっかりと握られていました。


またそれ以外にも小型のミラーレス一眼の登場は小型デジカメでは物足りないけれど、デジタル一眼レフだと重すぎる・大きすぎるというユーザーの移行を促しました。

「大きい・重いから持っていかないが一番勿体ない」

「撮影の瞬間、手にしていないカメラはどんなにハイスペックでも無意味」

ミラーレス一眼の登場は交換レンズ式という表現の幅を広げ、軽量・小型化による機動性も手に入れました。

当時、ネット通販のバイヤーになっていた私はフォーサーズが本来目指したカタチがマイクロフォーサーズの登場で実現しつつあることを感じました。買わないけど(笑)

「ミラーレスで本格的なマニュアル操作も本格的に出来るようなモデル(GH1よりハイスペック機)がオリンパスから出てきたらフォーサーズはいよいよ終わるなぁ」

これが当時の私の率直な意見でした。当時は後にOMシリーズが出る事は当然知らなかった訳ですが想像は出来ました。だからフォーサーズ機の買い替えやレンズの拡充を見送る事にしました。

その後、OLYMPUS PENやパナソニックGF(上位モデルGX)シリーズは何度かのマイナーチェンジを繰り返してミラーレス市場の拡大に貢献していきます。

ソニーのミラーレス市場参入、まさかのAPS-Cセンサーで登場

マイクロフォーサーズがミラーレス市場に先鞭をつけて、独走中の2010年6月3日、ソニーがミラーレス市場にα NEXブランド(後にαに統合)で参入しました。

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まさかここまでボディを削ぎ落とすのか…カメラボディからレンズマウントがはみ出すフォルムは当時多くのレンズ交換式カメラファンに衝撃を与えました。

センサーサイズはAPS-Cサイズ1610万画素、ボディ質量287g、ボディ実売価格8万円…メモリーカードはSD/SDHCカード対応。動画はAVCHD対応。

ソニーはデジカメにおけるメモリーカードに長らく自社規格のメモリースティックを採用してきましたが、この数年前からSDカード兼用スロットの採用を始めていました。

そして、何よりまるでマイクロフォーサーズのおカドを奪うような軽量・小型のカメラが登場した事でミラーレス市場は活気付きます。

そしてセンサーサイズが小さい=カメラ本体が軽量・小型になるというオリンパス・パナソニックの方程式が崩れました。

最軽量のパナソニックGF1とボディ質量2gの差はもはや誤差と言って差し支えないでしょう。フォーサーズ・マイクロフォーサーズだから軽量・小型とは何だったのかという話になります。

しかもボディに触れれば分かる通り、剛性もNEX-5にはそれなりにあります。

加えてソニーは廉価版α NEX-3(基本性能一緒、動画はMP4撮影)297gもほぼ同時に発売してミラーレス市場で攻勢に出ました。


そして私事ですがNEX-5の発表と同時に予約して、発売日に入手。そして翌月に家電量販店を辞し、ファイナンシャルプランナー(FP)、後に現在のファイナンシャルアドバイザー(FA)に転じました。

カメラ市場がこれからミラーレスで活性化していくのに?

いいえ、カメラ市場があと5年後にはほぼ生き残れないレッドオーシャンになると確信したからです。


富士フイルムのマイクロフォーサーズ非参入と独自規格Xフォーマット登場

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2012年2月、富士フイルムからX-Pro1が登場。既に2011年から同社のレンズ一体型のハイスペックデジカメとして発売されていたシリーズのレンズ交換式。

クラシックな雰囲気のフォルム。決して最軽量を最重視はしていないけれど、デジタル一眼レフではなくミラーレスとして画質や操作性を重視して設計された軽量設計、本体質量400g。

富士フイルム製X-Trans CMOSセンサーはローパスフィルターレスのAPS-Cサイズ1630万画素…。

そして何よりマイクロフォーサーズには参加せずに富士フイルムは独自のマウント規格Xマウントを掲げてミラーレス市場へ参入をしました。

フォーサーズ開始初期からの協賛企業の一角の離脱はフォーサーズ(マイクロフォーサーズ含む)に見切りをつけた事の象徴でもあり、Kodakに代わり富士フイルムがオリンパスにセンサー供給をしなかった政治的駆け引きか、ビジネス的なディールがあった事を想像させました。

その後、富士フイルムのミラーレスカメラやレンズラインナップは順調に拡大を続けて三強(ソニー・キヤノン・富士フイルム)の一角を確立します。

また悪戯に軽量化を追求せず、我が道を行くスタンスに一定の支持が集まります。

オリンパス不正会計とフォーサーズ終焉、OM-D登場

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富士フイルムのフォーサーズ離脱の直前にあたる2011年11月、バブルの頃からオリンパス歴代経営陣による損失の”飛ばし”と呼ばれる不正会計が明るみに出ます。

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上場企業ですから不正会計はあってはならない、投資家を含めた株式市場、いえ社会への背任行為です。

人為的なミスではなく意図的に、それも何代もの経営者がそれを知っていて行った隠蔽体質で私はオリンパスへの信頼がゼロを振り切ってマイナスになりました。

客観的にはカメラ事業と不正会計は関係ないと言えるでしょう。確かに直接的には関係ないのです。

カメラに責任はありません。プロダクトそのものが不正を働いた訳ではないのですから。しかし、信頼を築くのには時間がかかる一方で信頼を失うのは一瞬です。

こんなあり得ない綻びが起きたと言う事は、その経営陣がまともな判断能力を逸している状態…カメラ事業に対しても冷静な判断が出来ないということが、数々のラインナップや機能の拡充。提携企業の離脱を間接的に招いている温床にもなっている…私にはそう思えました。事実かどうかよりも、納得できてしまったのです。

何故、オリンパスが、フォーサーズがうまく行かなかったのか。

経営陣が無能だった、市場や周りの声を聴く能力がなかった、で説明ができることだったのです。

しかも傾き、沈みかけたオリンパスに救済の手をあげたのはなんとソニーでした。オリンパスがシェアを持っていて新規参入の困難な医療機器への参入を合弁会社を作る事で参入…。※ソニーは新規市場へは合弁会社で参入が通例。(そして軌道に乗ったら合弁を解消するまでがセット。2019年に合弁は解消される)

そんな中でフォーサーズとマイクロフォーサーズの併売…2つのシステム活かしながら走れるほどオリンパスのカメラ事業に余裕があるはずがありません。

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不正会計を世論がまだ忘れていない2012年3月31日、マイクロフォーサーズでの本格的一眼、OM-D E-M5を発売開始。

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「伝統のOM復活」

まるで錦の旗を振る如く持ち上げるオリンパス。不思議なもので新製品のリリースに対してメディアでは批判的な意見というものがまず出てきません。まるでメーカーに対して忖度をしているようです。(最近はニコンに対して同じものを感じます)

1605万画素の新Live MOSセンサー、本体内蔵五軸手ぶれ補正、ボディ質量425g…素晴らしいスペックです。

ボディ実売価格10万5千円と価格も良心的です。頑張りました。しかし、もはや全く心に響きません。

悪意のある言い方を敢えてするならパナソニックのGH1をオリンパス風のミドル機に改良しました的位置付け。※悪いカメラでは決してないが、私からすればフォーサーズに終わりを告げる死神に等しい存在。

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2013年10月にオリンパスからマイクロフォーサーズ機OM-DフラグシップE-M1が発売されました。

ボディ内5軸手ブレ補正機構、マイナス10度の環境下でも動作を保証する耐低温性能、防塵・防滴で、ボディ質量443g。

センサーは像面位相差AFを実現する新開発の1628万画素LiveMOSセンサー…(もう何も言うまい)

ボディ実売価格14万5千円。

価格も質量も、スペックに現れる数字は立派です。しかしこの機種が登場した事でフォーサーズは終焉を迎えることが確定しました。

メーカーは“オリンパスはE-M1の発売で、同社がこれまで有してきたフォーサーズとマイクロフォーサーズのシステムを統合する。今後、レンズ交換式デジタルカメラの新規開発はマイクロフォーサーズ対応製品に絞る。フォーサーズの新製品について、「ボディ、レンズとも計画はない」(同社)としている。なおE-5や現行のZUIKO DIGITALレンズ(フォーサーズ対応レンズ)の販売は当面継続する。”と発表しましたが、もはや鵜呑みにするユーザーなどいません。

フランジバックの異なる二つのシステムがシームレスに統合されることがあり得ないことはおバカちゃんでもわかります。物理的にそれはあり得ないのです。

オリンパスのフォーサーズは開発を打ち切られ、保有するカメラもレンズも今後は段階的に販売が縮小され、修理しようにもできない日がやって来ることが明言されたことになります。

そしてメーカーを信じていたユーザーはマイクロフォーサーズか他のメーカーシステムへの移行という名の撤退をメーカー側から強いられたのです。


もっと小さい、もっと軽いを追求したレンズ交換式カメラたちの挫折

ここまで長々とデジタル一眼レフ黎明期からミラーレス一眼の登場までオリンパスの機種を中心に振り返ってきました。

フォーサーズは言うに及ばず、マイクロフォーサーズが市場で存在感を失っていく過程を小型・軽量のレンズ交換式カメラとしての優位性を失ったと捉えるのは早計です。

もし小型・軽量のレンズ交換式というスペックで覆るのだとしたら、ペンタックスが2011年6月に発売したナノ一眼、Qシリーズの販売が停滞していることの説明がつきません。

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有効1,240万画素、1/2.3型の裏面照射型CMOSセンサー。

本体質量150g…レンズキット実売価格7万円。

センサーサイズを小型デジカメ並みにしたレンズ交換式ミラーレス一眼。言い換えればレンズ交換が出来る小型デジカメ。

そこそこのヒットにはなりましたが、ミラーレス一眼市場で存在感を発揮する事が出来ませんでした。


またニコンは2011年10月20日にミラーレス機Nikon 1 J1(1010万画素、本体質量234g、薄型レンズキット実売価格7万円)を発売。

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フォーサーズよりは小型、ペンタックスQシリーズよりは大型の1.0型(1/2.3型の2.3倍の大きさ)という中途半端なセンサーサイズを搭載した事で共々同じ運命を辿る事を予見できなかった悲劇のシリーズです。

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この遠回りをした理由も良くわかるし、でもこの遠回りがなければニコンは今のように追い込まれた状況になっていなかったとも…すべては後の祭り。(後からなら何とでも言える)


では日本では2010年を境に普及したスマートフォンの影響でしょうか?

私はそこまで単純な話ではないと考えています。小型デジカメ市場におけるスマートフォン普及の影響は破壊的であると考えていますが、レンズ交換式においてはメーカー経営陣の怠慢、いえ勇気のなさ、この一言につきます。

何故なら未だにその解決の入口にさえカメラメーカーは対策を講じていないからです。

そしてその躊躇している間にソニーによってフルサイズミラーレスという市場をいいようにも持っていかれました。


マイクロフォーサーズがソニーと競うようにミラーレス市場の拡大に突き進む中、対する王者キヤノンのミラーレス機参入はどうだったでしょうか。
2012年10月12日、キヤノンがAPS-Cサイズのミラーレス機初号機EOS M(1800万画素、本体質量262g、実売価格7万円前後)を発売開始。

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APS-Cサイズ専用マウントEF-Mマウントを採用しました。

がっぷりです。しかもソニーと同じくAPS-Cサイズ…つまりマイクロフォーサーズが市場ではマイナーな存在に転落を始めた事になります。


ソニー独壇場のフルサイズ・ミラーレス躍進の5年間と大手の後発参入

キヤノンがミラーレスに参入したその僅か1年後の2013年11月15日、ソニーから35mmフルサイズ機α7/α7R*が発売開始されました。

*Rはローパスフィルターレス機。

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なんと言っても特筆すべき点はソニー製APS-Cサイズのミラーレス機と同じレンズ互換Eマウントで、フルサイズ対応となった点でしょう。

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フルサイズ機にAPS-C用レンズを搭載すると、フルサイズで撮影してAPS-Cサイズで切り出す(クロックアップと呼ぶ)…これを自動的にやる事にしたのです。ニコン等がデジタル一眼レフでもやっていた方法ですね。

個人的にソニーがAPS-Cサイズとフルサイズの両方に一つのレンズマウントで対応した事は後述するキヤノン・ニコンとの大きな差だと考えています。


二大巨頭の一角、ニコン初のフルサイズ・ミラーレス機は2018年9月28日でした。Z7(4575万画素、本体質量585g、ボディ実売価格44万円)と同年11月23日に発売されたZ6(2450万画素数、質量585g、実売価格27万円前後)。

レンズマウントは新規格Zマウント

え!?あんなに「不変のFマウント」とか掲げていたニコンがFマウントではないマウントを採用…つまりFマウントではフルサイズ・ミラーレス機が難しいと宣言をした事、これまでのレンズ資産やユーザーへの買い替えを宣言したことになります。

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またキヤノン初のフルサイズ・ミラーレス機は2018年10月25日にEOS R(3040万画素数、本体質量580g、ボディ実売価格25万6500円)が発売されました。

こちらもニコン同様にフルサイズ専用の新規格、RFマウントを採用します。

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キヤノン・ニコンはカメラメーカーとしての矜持もあったでしょう。レンズだけ装着できてもクロックアップ(切り出し)する撮影に何の意味があるのかと。確かにフルサイズセンサーにフルサイズ専用レンズが理想です。

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だからEFレンズと新しいRFレンズはマウントアダプターで…キヤノン・ニコンの戦略は当たり前。マウントアダプターはキヤノン純正EF-EOS Rマウントアダプターで質量130g(1万5千円前後)、ニコン純正FTZ(Fマウント-Zマウント、質量135g)で4万円前後。


しかし、それはフィルムからデジタルに移行した時に自らがやった事の否定でもあります。

かつてフィルム時代からのレンズ資産を持っているユーザーの多くが何故同じメーカーへ移行したのか?それを待っていたのか。それは画質や画角は兎も角、レンズ互換があったからです。

フルサイズ・ミラーレス機で最適化した新レンズマウント…マウントアダプターを介せば確かに今までのレンズも使えます。

でもユーザーが求めているのはただ単に使えるではなく、簡単・気軽に使えるという事だったのではなかったのでしょうか。

現にキヤノンのEOS MとフルサイズRFマウントに互換性はなく、EOS Mユーザーはフルサイズ機にステップアップするためにはレンズの買い直しからはじまります。(言い換えるならEOS M開発段階でフルサイズミラーレスを想定できなかった)


マウントアダプターを介してまでして使う人はかなりの少数派です。だってアダプター持ち歩くのも着脱も面倒だもん。

そしてレンズ”資産“と呼ぶように、ソニーのAPS-Cミラーレスからユーザーがステップアップしてフルサイズ・ミラーレスを利用する際にマウントアダプターを求めず使えるとしたら、それはまさに”資産”です。

但し、この選択が今後いつまでも有利かはなんとも言えません。

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APS-Cは兎も角、フルサイズまで同じマウントで対応させたEマウントはマウント径ギリギリの設計。Eマウント設計時からフルサイズを前提に設計していたとも考えられるが・・・。

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ニコンのZマウントは径55ミリ、キヤノンのRFマウントは径54ミリ。対して先行したソニーのEマウントは径46ミリと一回り小さいことが後々には影響を及ぼす可能性は否定できないからです。その前にニコンが脱落してしまえばソニーの勝ちが確定になるでしょうか。


現にキヤノンはRFマウント開発時の話として”EF-Mマウントでフルサイズカメラを実現することも検討したが、目標とする性能が出ないなど、満足のいく結果が得られなかった”ために、EF-MマウントではなくRFマウントを新たに開発したとしています。

但し、それは必ずしも言葉通りそのまま受け取ることはできないかもしれません。

私にはキヤノンの奢り、またはブラフ・牽制である可能性も否定できないと勘繰っています。


ソニーの勝算はセンサーメーカーとしての強み

キヤノン・ニコンの大手2強がフルサイズのミラーレス機を本格投入し始めたのは2018年秋からとごく最近になってからです。

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普及価格帯に至っては、ニコンは2020年8月28日、普及価格帯のZ5(2432万画素、本体質量675g、ボディ実売価格18万2,600円前後)

Z7、Z6に続き3機種目の市場投入です。


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キヤノンはフルサイズ・ミラーレス機を2020年7月30日、EOS R5(4500万画素、本体質量650g、ボディ実売価格50万6千円前後)、2020年8月下旬にはEOS R6(2010万画素、本体質量598g、ボディ実売価格30万5千円)を発売します。

EOS R、EOS RP、EOS Ra(天体撮影用)に続く4~5機種を市場に投入しています。


他方、ソニーがミラーレス・フルサイズ機を投入したのは2013年秋。それまでの5年という歳月の間にソニーはα7(2430万画素・本体質量416g・実売価格15万円前後)、α7II(2014年12月05日・2430万画素・本体質量556g・ボディ実売価格42万円前後)、α7Ⅲ(2018年3月23日・ExmorR*2420万画素・565g・ボディ実売価格23万円前後)と着実に進歩させてきました。

ローパスフィルターレスのα7R(2015年8月7日・3640万画素・本体質量407g・ボディ実売価格47万円前後)もα7R II(2015年8月7日・ExmorR*4240万画・ ボディ実売価格35万円円・本体質量582g)、α7RⅢ(2017年11月25日・ExmorR*4240万画素・本体質量552g・ボディ実売価格35万円)、α7RⅣ(2019年9月6日・ExmorR*6100万画素・本体質量580g・実売価格40万円前後)。

画素数の追求ではなく1画素あたりの受光面積を追求した高感度、低ノイズ、高ダイナミックレンジを追求したα7S(2014年6月20日・1,220万画素・ボディ質量446g・実売価格23万円前後)もα7S II(1220万画素・本体質量584g・実売価格33万円前後)、α7SⅢ(2020年10月9日・ExmorR*1210万画素・本体質量614g・実売価格42万円前後)と10機種を投入して着実に進化してきました。

*ExmorR=ソニー製の裏面照射型CMOSセンサーの愛称

2015年にα7RⅡでフルサイズの裏面照射型CMOSセンサーExmorRの搭載が始まり、フルサイズというセンサーの大きさに加えて、高感度や低ノイズ・高ダイナミックレンジなどセンサーメーカーとしてドコを伸ばすか、ソニーは目的に合わせてセンサー開発を行える環境を着々と整えてきました。


ニコンのデジタル一眼レフに搭載のセンサーメーカーは何処ですか?

キヤノンのセンサー市場での存在感はどれほどですか?

ニコンの強みは光学レンズ開発技術の蓄積と実績です。弱みはコダック・パナソニックに依存せざるを得なかったフォーサーズの運命、またはデジタルに求められるフィルム時代のカメラと異なる点という意味でコニカミノルタとも似ています。

またキヤノンの強みはニコンに似ていて、やはりカメラ・レンズメーカーとしての実績と経験。弱みはセンサー等の独自開発能力は富士フイルムに近く、自社製品などに細々と搭載するに留まっています。つまりこれは販路や開発の環境が限られており早晩行き詰まる可能性が高いと考えています。


フィルム時代のような状況であれば光学機器としてのレンズ等の開発の優位性や、メカトロニクスにおける優位性がカメラメーカーとしての市場競争力に直結しました。

しかしデジタルが普及・進歩・発展をすると小さくても高性能、むしろ小さい方が高性能という開発における逆転現象が起こり始めます。

それはさながらCPUにおける生産プロセスに似ています。

小さく作れるほど高密度で高性能なマイクロプロセッサが製造できる…これはキヤノン・ニコンにとって見落としてきた、または軽んじてきた大きな誤算なのではないでしょうか。


フォーサーズ・マイクロフォーサーズの大誤算、センサーの発展性

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つまりフォーサーズ・マイクロフォーサーズの誤算は競合したAPS-Cに負けたのではなく、将来センサーサイズが大きな方へ向かっていくだろうカメラの発展性の未来を見誤った当初からの戦略に大きな誤算があったように思えます。

またキヤノン・ニコンなどソニー以外のメーカーでもこれと同様のことが言えます。APS-Cよりも大きなセンサーサイズ(フルサイズ)のデジタル一眼が普及価格帯にまで浸透することに対して積極的ではありませんでした。

フルサイズを前提としたシステム構築に対してプロやハイアマチュアだけが使うものという思い込み(奢り)がメーカー側にもあったのではないでしょうか。

またデジタル一眼レフからミラーレスへの移行。これはミラーボックスというカメラメーカーとしての積み重ねてきた技術・特許の塊を省略しました。ソニー・パナソニック(オリンパス)がレンズ資産を大量に持つキヤノン・ニコンを自分たちの得意とする土俵に不本意な状態で引きずり込んだとも言えます。

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そして更にそこからミラーレス・フルサイズまで、センサー供給メーカーであるソニーが一気に機種を投入して市場を作ってしまった。

マウント径の小さなソニーEマウントがフルサイズ機を積極的に導入できるのもExmorRという伝家の宝刀を、やがていよいよとなれば抜けるからというのは極端な意見でしょうか。

マウントサイズぎりぎりまで攻めた設計をしたソニーにとって、センサー性能が上がればフルサイズでも十分このマウントのままでいける、それが厳しくてもクロックアップで対応できる…もしミラーレス市場に参入した時にそこまでの可能性を織り込んでいたとしたら見事としか言いようがありません。


元カメラ販売員としてのつぶやき

こう振り返ってみると現状のソニー一強時代はセンサー開発メーカーであるソニーの優位性が殊更強調された結果のように思えます。

しかし元カメラ販売員として誤解がないように言いたいのは、

「好きなカメラ買ったらいいじゃん」です(笑)

スペックがどんなに良くても5年も経てば最新のカメラが次から次に登場し、5年経てばバッテリーもヘタってきますし、メーカーの修理体制も維持できなくなります。

様々な機能的・性能的向上もあります。

悩む時間は楽しいですけど、無駄です。

だからスペックとにらめっこするよりも、自分が撮影したいニーズを叶えてくれるカメラを買って撮影をすることを楽しむことの方がよほど大事です。

”弘法筆を選ばず”ではありませんが、良い写真が必ずしもカメラ性能・レンズ性能で撮れているわけではないのです。

それよりも自分が表現したいものを表現できること、センス…そういったことの方がよほど大切です。(基本は当然色々あるけど)

モデルチェンジでこれまで出来なかったことが出来るようにはなりますが、それは表現の選択肢を広げているに過ぎません。


販売員はお客様の目的に合ったカメラ・レンズ・システムを提案するのが何より楽しいのです。(ネットじゃなくて、買ってもらえると尚うれしい)

カメラ・レンズを買っていったお客様が撮影した写真を持ってきて撮影したときのことを話してくれることが何より嬉しいのです。※忙しい時を除く

「撮影しようと思った時、持ち歩いていないカメラはどんなに高性能・多機能でも価値がない」は私の販売員時代のモットーでした。

「値段だけ観て帰ろうと思ったら、声をかけられて気がついたら買っていました。」

「子どもが生まれて、ちょっといいカメラが欲しかったんです。今日買って帰ったら、今日から撮影できます。ネット通販で明日か明後日届いても、今日のお子さんの表情は今日しか撮影できませんよと言われて気がついたらクレジットカードで買っていました」

会社にお客様から後日お手紙が届きました。私自身いつもやっていたことを同じようにしていただけでしたが、こんなうれしいお言葉を頂いたことがあります。


さっさと買って、バシャバシャ撮影して使い倒すくらいで良いと思います。

フィルム時代と異なり、買ったら一生ものなんてデジタルの時代にあり得ないのですから。


次回は私がカメラ業界がレッドオーシャンの斜陽産業に2010年以降5年で陥ると考えた幾つかの理由を気が向いた時にあげたいと思います。


つづきの記事はコチラ。


2020/09/06追記

そうそう、そうなんだよねーという記事を見つけたので追記。

“高いカメラを買えばいい写真を撮れるようになれますかと聞いたら「6色クレヨンを64色色鉛筆に変えても絵がうまくなるわけではありませんからねえ...」と希望を打ち砕いてくるヨドバシ店員”

本当これですね…(*´-`)

腕が、センスがカメラの性能に追いつかないんですよね。

っていうか、表現したいものやイメージが持てるかの方が遥かに大切なんですよね。

しかしそこを見落として商品選びだけをカメラ選びと思っている人が多すぎますね。

WHY?(なぜ、カメラを買おうと思うのか?)

HOW?(どうやって、カメラを使おうと思っているのか?)

WHAT?(どのカメラを買おうと思っているのか?)

一番大切なのは、WHY?の部分ではないのでしょうか。


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