📧"季語"米国債務問題でどうして再び円安になったの？⑬(2023年06月前半号)

2023年6月15日 10:00

※投資は自己責任です。将来の為替レートを保証するものではありません。
投資市場やニュースの見方、読み解き方の一つとして読んでください。

経済ニュースを見ているとここ暫くは壊れかけのラジオのように「米国債務危機が…」「米国デフォルト懸念」などとオウム返しに不安をあおるような報道が相次いでいました。

日本を代表する経済番組の一つであるWBSさえも…
日経新聞はテレビ東京の筆頭株主32%超を保有している。

5月28日にバイデン大統領と野党で大筋の合意がされたことで、こうした事態は議会の承認を待つばかりとなり最悪の事態は概ね回避されたと言えますが、長期で資産形成を目指している方にとってさえ、きちんと勉強をしている人はともかく、多くの人にとっては難のある報道だったと言えます。

そもそも本当に米国が破綻をするような危機であれば為替相場はドル円で言えば円高/ドル安になるものです。

しかし実際には円安/ドル高となり、為替レートは140円台まで急落しました。つまり為替レートは今回の事を危機ではないと捉えていたと語っていたのです。

ニュースというのは大衆マスに向けて発信しています。
そして世の中には様々な人がいます。

見る人のスタンスによって捉え方も大きく変わります。メディアの不安をあおるような論調に長期の資産形成を目指す人が一喜一憂する必要は全くありません。

しかし世の中は驚くほど、また呆れるほど合理的ではありません。長期資産形成をする人たちが世界的に増える中で、短期投機家という人たちがこの短期と長期という市場の歪みを利用し、日々の市場の新陳代謝や心臓でいえば脈動による変動を利用して短期的に儲けようとします。
(そして失敗するのまでがセットです)

ちなみに短期投機家で5年で〇億円とか、10年で資産〇〇億円のような資産を築いた人が稀に登場しますが、このくらいの奇跡的偶発性による資産家が現れるのはSBI証券(2023年3月1000万口座)や楽天証券(2023年4月900万口座)の規模でも各社に1~2人くらいの世界です。

雑誌や書籍でもそうした人たちを称賛するほうが儲かるので散々持ち上げますが、誰もがマネをしてお金持ちになれる方法ではないことにいい加減気づいてほしいものです。

為替相場は再び円安基調？

日本最大の経済新聞であり、平気で誤報を飛ばす事で知られる日経新聞でさえこの事を「米債務上限問題」と報じているにも拘らず、日本のダメディア(ダメなメディア)は「米国債務危機」と呼び続けました。

資本関係のあるテレ東の報道番組(WBSなど)でさえ「危機」とのたまっていたのですから、きちんと経済を報道する番組としての矜持を持って臨んでほしいものです。

さて、本記事でもあえて「米国債務問題」と呼びたいと思います。結論から言えばまったく心配をする必要がなかった理由と、危機と煽る報道とは逆に為替が円安/ドル高になぜ動いたのかの理屈を解説したいと思います。

ドル円相場は、昨年後半に日銀の複数回の為替介入によって一旦は126円前後まで押し戻り、ここ暫くは130円台(130-135円前後)で一時均衡していました。

しかし「米国債務問題」の報道を受けて、5月下旬に久しぶりの140円台となり、半年ほど前の円安基調が復活しつつあるようにも思えます。

元FXのデイトレーダー的な視点で言えばですが…為替は二国間の需給で常に変動しており将来予測が困難とされていますが、個人的にはこの130～150円前後は再び当面の均衡点になるだろうと考えています。

ちなみにこの当面というのはアップルが想定レートを見直すまでのという意味です。私は自分の見立てよりアップルのiPhoneに適用される想定為替レートを近年(リーマンショック以降)もっとも信用しています。

とはいえ、短期的には様々な要因で動く可能性も多分にしてあります。つまり為替相場とは金融政策や二国間の経済の変動などの影響をとても強く受けるものだということです。

また金融政策などは状況に合わせて行ったり、据え置いたりするために未確定な未来のこうした変動を予測することはできないなのだから、何年後にいくらの為替レートになるというのを予想するというのは不可能なのです。

但し、為替レートが円高や円安などの傾向としてどちらに今後傾倒していきそうかというのは少し長い時間軸で見つめると傾向を予想することはできます。

長期トレンドラインは既に変化

それはトレンドラインと呼ばれる、過去からのチャートの推移を一つの傾向として結ぶもので捉えることができます。

(トレンドラインは過去のデータを結び傾向を把握するもので、将来を約束するものではありません。またこんな長期(5年超)のトレンドラインはFXトレーダーは殆ど使用しません。日々のトレードにとって意味がないから。)

ニクソンショック以来、変動相場制に移行してからのドル円相場をトレンドラインで区切ると、1971年以降～2013年のアベノミクス直前まで4つの大きなトレンド(①～④)があったことがわかります。

そしてこのトレンドラインを破ったブレイク時にトレンドはそれまでの勢いから異なる動き(トレンドの転換)を見せるようになります。

そして近年、何よりも大きい転換が発生したのが⑤アベノミクスでした。これによってそれまでおよそ42年間続いた円高トレンドがブレイクされて以降、トレンドが緩やかに円安傾向に変化し始めているように見えます。

加えて1998年6月に146円台まで円安が進んだ際を鏡写し(⇔)にするように、アベノミクスから9年後には2022年10月には1ドル151円台まで一時円安が進みました。

つまりかなり明確なトレンドの転換と思われる現象が、アベノミクスを機に始まったと考えることができるのではないかということです。

しかもこれは既にブレイク済みなので、再び151円台を突破すれば、今度は1990年の160円台を目指すことは十分にあり得そうです。

(それを超えれば1979年の179円台…と過去の一度トレンドラインとチャートが接したところまでは戻り余地というものが心理的に生まれてしまう)

こうなるとあとはこの繰り返し、1ドル＝360円まで戻るかはわかりませんが当面は1ドル＝170円台を目指す時代というのはありそうな話となってしまい、アップル社のiPhoneなどの想定為替レートというのはその中間点を抑えておりアリ寄りのアリと言えてしまうのです。

為替と日米金利差など「為替と金利の基礎」についての考え方は下記動画記事でも解説していますのでご関心のある方は参考にしてください。
(お金の基本中の基本です。)

さかのぼると1985年の②プラザ合意に始まった円高トレンドの終着点が東日本大震災のあった2011年には1ドル＝75円台をつけた超円高の時代であったとすれば、2013年にアベノミクスが始まってから長く100-120円前後で均衡していたドル円相場が、2022年10月21日には1ドル＝151円台。

この円安基調の号砲となったのは同年3月から始まった米国中央銀行FRBによる政策金利の引き上げ、つまり利上げでした。

現在まで続くこの利上げは何故行われたのでしょう。

コロナ禍に入った2020年3月、新型コロナウィルス感染症は未知のウィルスだったこともあり各国、各都市で外出自粛や都市封鎖ロックダウンが行われると深刻な資金不足が発生するという懸念がおきました。

経済活動が抑制されるわけですから、企業や個人は売上・利益はこれまでように立ちませんが賃料や返済などの支出は発生し続けます。

そこで米国の中央銀行FRBは2020年3月に二度の緊急利下げを行なって、2016年以来の久しぶりにゼロ金利台(0.00-0.25%)としました。

またロシアによるウクライナ侵攻が発生。
経済制裁として多くの国がロシア産の原油や天然ガスの輸入を見送ったことでエネルギー価格が高騰することも重なりました。

そしてコロナ禍からの脱却(休業手当や補助金などの過剰流動性)と、その反動による物価高を相殺しようと2023年3月から米国を中心に世界の主要先進国では利上げが段階的に行われてきました。

2020年3月中旬に政策金利は0.00-0.25%。金利が二つ表示されているのは実質金利と最低金利。
最低金利はこの場合、0.25%。(0.00%だと誰もお金を借してくれないので)
2023年5月27日現在は5.00-5.25%で5.00%が最低金利

今日までのわずか1年3か月ほどの間に0.00％から5.25％ですから、急激な変化に対応できず次々と銀行が世界の各地で破綻や危機を迎えるのもなんとなく想像ができるものです。

中央銀行は「政府の銀行」であり、「銀行の銀行」と呼ばれます。

中央銀行にはいくつかの権限が与えられており、そのうちの一つが「金融政策権」です。

「政策金利」は中央銀行が金利を決定する1年以内の金利で「短期金利」とも呼ばれます。

この金利を操作することによって中央銀行に預けられる各銀行の当座預金に適用され、各銀行はこの金利をもとに企業や個人の預金金利(普通預金)を決定し、世の中に供給する資金量をコントロールしています。

政策金利の変更は、その国の経済動向に大きな影響を与え、その国との貿易など経済的影響はグローバル社会の現代において世界中に広く波及します。

詳しくは下記記事でも触れていますので、ご参照ください。

季語「米国債務問題」はプロレス

中央銀行による金融政策も為替の変動要因は一つのリスクと呼ぶことができますが、この数年以内に投資を始めた人でもなければ、今回の「米国債務問題」は投資・資産形成の世界においてはもはや一つの「季語」と呼んで差し支えないでしょう。

類似のもので有名なものは"Sell in May, and go away; don't come back until St Leger day."5月に売って、9月半ばに再び市場に戻ってこい！でしょう。

これもある種の経験則に従ったアノマリーことわざで論理的な根拠はそれほどないのですが、多くの人に意識されることによってそれが引き寄せられる現象は往々にして起こります。

株式市場は論理的な面と、合理的ではない面があります。このため論理的ではないのにそれが起こることもよくある…

しかしそれをアテにして投資・資産形成をするというのはかつてあった高校野球における「甲子園優勝旗は白河の関*を超えられない」などにも見られ、強豪校で実力はあり、春のセンバツなどでは優勝経験があるのに、なぜか夏だけ優勝できないのような話です。

*白河の関…現在の福島県白河市にあった関所。ここを超えるとみちのく(東北)に入ることになる。田中将大選手(マー君)が駒大苫小牧(北海道)で2004年、2005年に津軽海峡も超えて達成してジンクスは崩れ、2022年には仙台育英高校が東北勢初優勝をした。

過去そうであったから、今回もきっとそうだろうと考えるのは車の運転で言えばバックミラーばかりを見ながら運転をするようなものです。

そんな運転では事故を起こしてしまいますよね。見るべきはこれから進む方向と周囲、そしてサイドミラーやバックミラーを通して死角を極力なくし、全体を知らなければいけないのです。

もし米国が本当に債務の返済が不能となる債務不履行デフォルトをしてしまった場合には、メディアが報じるような世界経済へとてつもない影響が考えられます。

これは報じられている通りの懸念があることは事実です。

しかし、そもそもこの「米国債務問題」はプロレスで、そうしたことにはならないのです。(プロレス好きな方、ごめんなさい)

試合を盛り上げるためにわざと憎まれ役(ヒール)を買う側と、
それを倒してヒーローになる側という構造のわかりやすさの台本がプロレスにはある

「米国債務問題」は米国議会上院と下院によるねじれ議会となっている時に頻発します。

何故なら上下院ともに勢力が二分し、しかも拮抗しています。
与党の思惑どおりに議会の承認を得られないためです。

米国財務省が発表している数字によると1960年以降、今年までの63年間の間で米国議会はこの債務問題に78回陥っています。

つまりほぼ1.2回/年以上の債務問題が起きている計算になります。

しかし世界経済が大きく混乱するような米国債の破綻は過去一度も起きておらず、現在に至ります。

だからほとんど「季語」なのです。

ちなみに債務の上限が承認されないと米国では政府が公開する国立公園や機関・施設などは閉鎖されます。

こうした時、旅行をした人にとって不運ですが、たとえばNYの観光名所の一つである自由の女神像も閉鎖されます。

リバティー島にある「自由の女神国定公園」
連邦政府閉鎖に伴い観覧できないことが告げられた看板(2013年10月)

2018-2019年にトランプ大統領時代の中間選挙でもねじれ議会は発生し、その時には35日間も合意しませんでした。

2019年1月に一時閉鎖された施設一例

ワシントンD.C.
国立アフリカン・アメリカン歴史文化博物館、国立アフリカ美術館、国立航空宇宙博物館、スミソニアン・アメリカ美術館、国立アメリカ歴史博物館、国立アメリカ・インディアン博物館、アメリカ美術アーカイブ、芸術産業館、フリーア・ギャラリー、ハーシュホーン博物館、国立自然史博物館、国立肖像画美術館、国立郵便博物館、レンウィック・ギャラリー、S・ディロン・リプリー・センター、サックラー・ギャラリー、スミソニアン協会本部（キャッスル）、スミソニアン・ガーデン

ワシントンD.C.近郊
アナスコティア・コミュニティ博物館、スミソニアン国立動物園、国立航空宇宙博物館（スティーブン・F・ウドバーハジー・センター）

ニューヨーク
クーパー・ヒューイット・スミソニアン・デザイン博物館、ニューヨーク国立アメリカ・インディアン博物館

https://bijutsutecho.com/magazine/news/report/19183

これは実にアメリカ人的な考えで日本人では到底起こりえないと思うのですが、国立公園で働く人たちは賃金が債務上限の引き上げに合意すれば後からもらえるからとりあえず働こうなどとは考えず、またサービス残業や休日出勤をしようなどとは考えず、賃金がもらえないならもらえるようになるまで働きませんと公園を開園しないのです(笑)

それが人として正しい行動なのかはともかく、ストライキやデモなどの態度で表す…欧米人はわかりやすいですね。