📧老後2000万円問題から一年、我々は何故投資をする必要があるのか⑥(2020年6月)

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昨年6月に金融庁が何度も議論を重ねてやっと公開した「老後2000 万円問題レポート」(金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」)で俄かに資産形成の必要性に多くの国民の注目が集まりました。

発表時に粛々と必要性を語った金融担当大臣は参議院選挙前に突如、一部の表現が不適切として事実上の受け取り拒否をしました。

まだ読んでいないという方はいらっしゃらないと思いますが、もし読まれていない場合にはこの機会にご自身で読んだ上で本号を読み進めて頂ければと思います。

老後2000万円問題で露呈した日本人の思考停止の危うさ

さて、老後2000万円問題の報道後に実際に多くの人が取った行動はiDeCo、一般NISA、つみたてNISA、どれが自分にとって有利な制度か比べるというものでした。

これほどレポートの主旨からかけ離れた愚かな行動はないでしょう。

その後、日本で開かれたG20(20カ国・地域財務省・中央銀行総裁会議)でも各国が共有し、最優先課題として挙げたのが税制優遇制度の充実や認知度向上ではなく、「はじめにプランありき」でした。

“プラン作成には公的年金、医療・介護保険制度、相続などの幅広い知識を持つ専門家による助言が欠かせない。”
“包括プランという土台があれば、投資や保険といった個別の分野について助言を受けることも有効”
“税金については税理士に、法律問題は弁護士に相談して手数料を払うのが当然なのに、金融の分野では常識が通用しない場合が多い”
引用：日経新聞2020年3月30日掲載経済教室「資産形成、生涯プラン前提に」千葉商科大学(人間社会学)

どの制度を選択するかが間違いなのではなく、全体像を把握せずにどうしてどれかを選べるのかという問題です。

老後2000万円問題 で最も重要だったのは「老後の生活が年金だけでは足りない」ではありません。

年金だけで人並みの生活が成り立っている世代など今の高齢者でさえ存在しません。
それにも関わらず多くの人はメディアが仮摘んで取り上げた一部だけを鵜呑みにしたのです。

つまり多くの日本人たちは老後2000万円問題で”自分のどちらの制度を選ぶではなく、まず自分の頭で考える”という最も大切なことを放棄したのでした。

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自分の頭で考える「投資哲学」の重要性

この”自分の頭で考える”部分を我々は「投資哲学」と呼びます。
投資哲学とはいわば投資における価値観です。

小中学の教科で言えば投資哲学とは国語と道徳・倫理です。
問題文にどんな問題が書かれているか理解せずに、どんな科目でも問題が解けることはありません。

投資哲学を自身の中で確立するためには自分自身と家族、そして社会という投資環境への理解が不可欠です。
前者はどう生きたいかの価値観でライフプランと呼ばれます。

それを後者、社会という投資環境と結びつけ組み合わせて解決策としての制度や商品を選択していかなければなりませんが、日本人の殆どはこのどちらでもなく、解決策にいたる選択肢である制度・商品をいきなり選んでいます。

何故、「プランありき」と言われているのでしょうか。
計画を立て、どれくらいの資金が必要か全体像を把握し、そして過不足を調整するリスクマネジメントを経て、ようやく手段の選択である制度・商品を”余剰資金で検討できる”段階に入ります。

しかし、これらを無視して手をつけてはいけない資金で投資をしようとする人が後を絶ちません。
株式市場の下落に右往左往したり、慌てて売却をして市場価格の下落を助⾧する一翼を担ってしまっています。

例えばコロナウィルスの蔓延による市場の下落はこれらの投資に、本来であれば回してはいけない資金が投資市場に投じられていたものを、一気に資金繰りが厳しくなるかもしれないと慌てて引き上げようとして暴落に結びついていた側面でもあります。

私たちは何故、投資をしなくてはならないのか？

・貯金と利息だけでは自分の考える将来の十分な資産を築けないから
・インフレリスクによって目減りする資産価値を補うため
・時間を味方に有利に資産を築けるから
・国や社会保障制度への信頼性が瓦解しかけているから

どれも我々が資産形成を始める理由には尤もかもしれません。
しかし私はこう考えています。今日の私たちが生きている社会の根幹を成す
イデオロギー(人間の行動を左右する根本的な物の考え方の体系、社会観念)がアメリカに代表される”資本主義”だからです。

これに対立するイデオロギーが社会主義・共産主義です。
歴史を振り返り、経済を学ぶことは投資をする上で不可欠な要素です。

私が歴史や経済の話を様々語るのは投資の世界に正解と断言できるものなどないからです。疑問や関心を持って、それを自分の頭で考えることが何よりも大切だと考えているからです。

投資家は自己責任においてその情報を投資判断する必要があります。

断言をするFPやIFAがいたら詐欺師かペテン師です。

今回の最後に私なりの歴史と経済のイデオロギーを駆け足で振り返っていきたいと思います。

資本主義・社会主義・共産主義…イデオロギーの基本

資本主義とは資本を投じて資本を増やし、またその資本を投じて資本を増やす循環の社会です。
富を集める能力を発揮できる人は富を増やせる一方で、富を集める能力を活かせない人は富を生み出せる者に搾取される、「経営」と「雇用」の関係に代表される社会観念です。

社会主義とは社会で生み出された利益は弱者や困窮者などのために再配分されるべきであるという主義です。
富の再分配や格差是正とも呼ばれ、一般的にはリベラルや革新派、左派などと呼ばれる社会観念です。
社会主義の究極が共産主義です。社会主義で生まれる格差を排除して完全な平等社会となる事です。

才能がある人はどれだけ能力を発揮しても得られた富を、富を獲得する能力を発揮できない人のために搾取されます。その結果、多くの才能ある人がその能力を発揮する意欲を失います。
年金や健康保険・介護保険などの社会保障制度の保険料で補いきれない分を徴収した税で補う今日の日本は果たしてどこに位置するのでしょうか？
私たちは長らく資本主義社会に生きて来ました。だからつい資本主義が正しいと思いがちです。

しかし資本主義が正しいわけでも、社会主義が間違っているわけでもありません。
生まれて、そして過ごしてきた時代と社会のイデオロギーが偶々、資本主義だったそれだけです。
労働意欲・経済格差・人権・個人情報などではどちらも問題がないわけではないことを我々は改めて知る必要があるのではないでしょうか。

時代の変遷とイデオロギーの推移