奥多摩合宿ー6

小学6年のO君は、なぜか皆に「村長」と呼ばれている。がっちりした体格で、素直で誠実、嘘をつかず、常に人のためになるように行動を選択する。誠に「村長」に相応しい人物である。最初私のところへ来た時は勉強が苦手な子どもだった。だがカタカムナ音読とサイコロ学習を経て彼は「別人」に成長した。学力だけではない。特筆するべきことは文章が上手いことである。彼の書く文章はどこか気持ちが良い。人を酔わせる。これは声がきれいなことと同様の天から授かった「才能」であるが、彼を見ているとその性格だからこそ書けているように思えてくる。これまでこうした「才能」が受験勉強や学校教育で抹消されることを多く見てきたが、この「才能」が消えないように育てるのが私の役目である。今彼は、私の指示に従って、覚えるべき漢字を、①口で説明し、②部首(特に旁=つくり)が共通する別の漢字を想起し ③アタマの中ではっきりイメージした状態で1度だけ書き、しかもそれが文章中で使えるように記憶することを、声を出しながら忠実に実行している。時折随時漢字成り立ち辞典も使うようだ。これは恐ろしい。もし彼がこれらの漢字を使いこなせるようになると、彼の書く文章はさらに「風格」を増して、もはや読んだ人には子どもが書いたとは思えないものになる。結果、彼は行きたい大学に文章力で進学することになる。次に彼は歴史のテキストを音読しながら読むが、これがなかなかうまい。意味がよく取れている読み方をしている。これはカタカムナ音読法に真面目に取り組んだ「成果」だ。こういう「好人物」にこそ学問を与える価値があると思う。彼は学問を悪いことに使わないだろう。人のためになることに使う。そして「作家」になる。ひょっとして、本当に「村長」になるかもしれない。埼玉北部在住であるが、中学に入ったらリベラルアーツに参加して欲しい。
さて最後は小学4年生二人組だが、さすがに小学4年では午前中ずっとじっと学習することは無理なのは予めわかっていたことだった。しかし、ここでは靴を履けばすぐに外は自然である。歩き回ってくるだけで「学習」になる。
T君は、好奇心は強いが、ADHD兼空気読めない人の気持ちわからない子で、これはいうまでもなく子どもの時の私と同じである。これからこれで苦労することは目に見えている。またこの子の会話パターンは質問型で、これまた自分と同じ。人に話しかけるときに先ず質問で始めてしまう。私のことを「複雑で何を考えているかわからなーい!ビョーキ」と捉える家人は、この質問型の会話パターンが超飽き飽きの大嫌いで、始まった瞬間に沈黙する。無視する。仕方なしに生返事する。彼はこうした私自身の姿を浮かび上がらせる。だとすると、思春期に私同様自己嫌悪の地獄の苦しみを体験する可能性が高い。彼は親が用意してくれたテキスト類を紐解くことはなく、まずは持ってきたプラモデルを作り、あとは漫画を読むか、けん玉をする。周囲の迷惑を考える能力はない。やりたいことをする。まるで自分が子どもの時と同じ。庭へ出ると、もう一人の小4Y君を誘って、そこで野球を始める。これは、例えば禅寺などで他の者が修行中にその目の前の庭で声を上げて騒ぐことと同様となり、全く空気読めない行動になる。「おい、うるさくて迷惑だからあっちに行ってやってくれ」と言っても聞かない。彼は自分が何かしている時や考えている時には他人の言葉が耳に入らない。いや、脳に届かない。私と同じである。「おいヒマなら、サイコロをしよう」と誘うと、「だったらマンガを読みます」と即答する。これは苦労するね。10代後半のひどい自己幻滅が約束されている。結果、哲学科などに進むと笑えるが。関係ないが、このことを家人、いや「天敵」に話すと、「ハハハハハ。それは大人になっても治らない。貴方がその証左だ」と言う。
さて前述したもう一人の小4Y君は、驚くべきワガママ自分勝手な性格であるが、その結果が「知能犯」につながっている。すぐに周囲の者にもバレたが、彼はあと追っかけの言い訳をすることが実に多く、しかも次々にいくつも言い訳を思いついて口にするので、周囲のものをシラケさせる。これは一種の「ウソ」でもあるのだが、知能が高いために今のところ学校では同級生をこれでやっつけることができているのでそれが習慣化してしまっている。小4の彼にはそれが自覚できない。いうまでもなく、これは大変危険なことなのであるが、現段階ではいまだにその「修正」の兆しは見られない。彼は、男性の世界では、嘘をつくと認知される者が友人として相手にされないことを知らないのである。その嘘が習慣化されたとき、その癖を拭い去るのは並大抵のことではない。ものすごくひどい目に遭わなければならない。それは、人に愛されないと言うことである。こう言う人物は、ビジネスではなく法曹系に進んで欲しいと思うのは私だけだろうか。法廷でこの言い分けマンが相手に現れたときには、本当に嫌な気持ちになることだろう。
合宿二日目にして彼は「禁断症状」」を呈し始めた。ゲームのことばかり口にするようになった。ゲームをすることだけを考えるようになった。合宿に参加した→ゲームができない→ゲームをするにはどうしたら良いか→母に訴えて迎えに来てもらう→そのためにはその理由が必要だ。まずこのようなことを考えていたに違いない。明らかに自らは自覚し得ないゲーム依存症である。
文句ばかり言う彼に呆れ果てて、N君がちょっかいを出す。Y君が怖がるミミズをつまんで追いかける。Y君が逃げる。しばらくこれが繰り返された。明らかに暇つぶしの遊びである。Y君も面白がっていた。しかし、実は「知能犯」のY君はこれを待っていたのである。これを「いじめ」と捉え、母親に連絡して帰宅したいと訴えた。30分ぐらい話していただろうか。やがてニンマリして部屋に入って来た。N君によると、「あいつ、親にここいることを我慢すると約束することによって、帰宅後すぐにやれるように新しいゲームソフトを2本買ってもらうことになったんだとよ」。
「最低」である。
これでは、家に帰ったらすぐにこれまで以上にゲームやりまくりになるだろう。これまでいったい何人のゲーム依存の子に付き合ってきたか、そして、それを回復させるためにどれほどの労と協力を用いて焚き火教育を実践してきたことか。だが、「地獄」の味わいが好きな人はそれでもしょうがない。人生を撹乱と混乱の中で生き抜くことを選択することは「ギャンブル」であるが、それを自覚的ではなく選択することは愚かなことであると、一応「哲学者」の自分は思う。
私は、人のアタマの中で行われていることを観察する「作家」である。そしてその結果がどのようなことに結びつくかを知悉した教育哲学者である。だが、よく周囲の人が知るように、私は必ずしも「お人好し」ではない。やや不親切なところがある。「危ないよ」と注意しても聞かない人には再度注意することは意味がないと考える。本人が怪我するまで気がつかない。自分の掘った「落とし穴」に自分で落ちるのは「墓穴」である。そして人の人生の部分はその連続である。ゆえにそれを待って「見殺し」にする。いいじゃあないか、他の人は気づかないことなんだから。なかったことと同じ。それにその人の人生なんだから。
許容と倫理放棄。
ゲーム依存は単なるゲーム依存で終わらない。それはやがて、引きこもり、無気力、栄養不足、運動不足、不健康につながり、それをあらかじめ予測しないことは、かなり愚かなことに思われるが、それが「一般」である。テレビをマに受ける「一般庶民」にはそれを撥ね付ける力はない。だが、外資系に勤めた経験がある者はそれを知る。PISD、先進国の男子の学力知能水準が共通して低迷する原因は明らかにゲーム依存犠牲者が多いことによる。女子万歳。男子の多くは自分から奴隷的状態の人間になることを選択している。ゲームやらない女の子の勝ち。逆に男子は、自らの精子に意味を付加することができなければ、「生き残る」ことができない世の中がくる。いや、世の中を支える「奴隷」になることを無自覚に選択する事になる。セックスの「捨象」なんて簡単だ。女なんて空想の中で思い通りにできる存在に過ぎない。これを抽象化すると、ギャンブルならぬゲームを止めることができない男子は、世代交代を放棄していることに繋がることが見えてくる。ゲーム第一なんて思う男と、どんな女が一緒に暮らそうと思うものか。バカしかない。だから、たとえ偶然できたとしても、「世代交代」は悲劇的な結末になるのは見え見えの可能性が高い。
これまでとことんまでゲーム中毒になった子どもたちを助けてきたが、全部を助けることができたとは言い難い。ボロボロになってしまった子も何人か見た。しかし、 その回復の「代表例」が、SFCダブル合格のH君であるが、彼はゲーム依存と言っても、うるさい母親の目のあるところではゲームができない。だから、スマホなどのデバイスを巧みに使って、おそらくは電車内、ゲーム喫茶なども利用してゲームをやり続けた。高校からはE-Sportsとして堂々とゲームをやった。しかしやがて彼はこれから抜けて受験勉強に打ち込んだ。上野先生に導かれて、英語で時事問題を読み、論文も書くようになった。おまけにIT系の器具の利用はお手のものである。私は長年東大早慶などに多数の生徒を送り込んできたが、これまでSFCダブル合格は見たことがない。受かる者は、たまたま小論出題が、自分がよく知ることとの結びつきが強かった偶然の場合のみ。つまり、SFCでは高レベルの教養と小論記述能力がなければ受からないと言うことである。これが両学部ダブルで合格するとは、並々ならぬ教養と文章力が備わっていることの「証左」である。彼に聞くと、「うちは、母親のせいで食事がしっかりしているから、すぐに回復しちゃうんですよね」とのこと。ゲーム依存の子どもを抱える母親には栄養面での知識が必要ということになるのか。
ウソつきのY君を迎えにきた父親が、「ソフトを買う約束はウソだった」と言うとどうなるのか、Y君の反応が知りたい。

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