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ふとんはふっとばない


「私とコンビを組んでくれないか」


…この人は今、なんと言った?

私の名前はセイラ・ジョゼフ
どこにでもいる子爵家の令嬢だ。
陽の光で輝くプラチナブロンドの髪に、空のように青い瞳を持っている。
貴族でありながら平民を愛し、領民からの信頼も厚い、笑顔の絶えない人望のある両親から生まれた。
自分で言うのもなんだが、見目は良し、両親に愛されて育ったおかげで素直な娘に育った。社交界でもそれなりに上手くやっている。


私には前世の記憶がある

前世では飲食店で働いていた。
よくある転生モノ小説(めちゃくちゃ好きでたくさん読んでいた な〇う系小説 悪役令嬢転生モノ)のように事故や病気で死んだわけでも、何かきっかけがあるわけでもなく、勤務中に突然6歳のセイラ・ジョゼフに意識が移ったのだ。

最初はそれはそれはもう狼狽した。パニックになり部屋をぐるぐると回り、目を回して倒れ、起きる頃には逆に冷静になっていた。心配そうに覗き込む父と母の顔は今でも忘れない。


幸い、私は転生前の「私」の記憶と「セイラ・ジョゼフ」の記憶の両方を持っていた。
おまけに前世で転生モノ小説を好んで読んでいた事もあり受け入れるのも早かった。
セイラは産まれた時からそれはそれは父と母に愛されて育った。貴族とはいえ子爵家ということもありそれほどまで贅沢ではないが何一つ不自由ない暮らし。2歳年下の妹はとても可愛いし、使用人も優しい。転生したからといっていじめられたり、虐げられたり、王子様と婚約が決まっていたりもしなかった。

………転生したんだし、そのうち素敵な殿方と素敵な恋愛をするのかしら

そんなことをぼんやりと思いながら人並みに勉強し、淑女の教育も受け、社交界デビューする頃には、秀でてこそはいないもののそれなりの令嬢が出来上がっていた。

この世界の令嬢は18歳から24歳の年齢で結婚することが多い。
具体的には、18から見合いをし、相手が決まれば1年ほど交際期間を儲けて、その後正式に婚約を結ぶのだ。

そして私は今まさに見合いの最中だった。

相手はなんと侯爵家の次男。
次男とはいえ子爵家の私からしたら雲の上の存在であることに変わりない。


レオナルド・フレミング
侯爵家の次男でありながら成績優秀。21歳。その若さで頭脳を認められ、貴族の学園で教師をしている。
桃色の髪に澄んだ緑色の瞳、微笑むと薔薇のように染まる頬。誰しもが認める社交界では有名な甘いマスクの貴公子である。
彼は博識、眉目秀麗だけならず人間性の面でも秀でていた。簡単に言うと優男なのだ。
困っている人あれば男女問わず手を差し伸べ、貧困層には惜しみなく援助をし、子を愛し花を愛でる。

そんな貴公子がなぜたかが子爵家の私と見合いをしているのかというと、なんと貴公子自らが私を指名したのだという。

彼とは以前侯爵家主催のパーティで話をしたことがある。主催者の侯爵は父と交流があり、見合いの頃合いになる私は父と共に招かれパーティに参加した。
レオナルド様とは確か、彼の学園での話や、私の仕事の話を少ししたような気がする。
正直そこで見初められるような話は多分していない…
ていうか侯爵家ほどの人になれば周りに美しい高貴な身分のご令嬢はゴロゴロといる。私には勿体なさすぎる。本当にいいんですか?

まさか何かの詐欺では………

などと思いながら半信半疑で身支度をし、フレミング家の迎えの馬車に震えながら乗り込み、フレミング家自慢の花咲き誇る立派な庭園で「とても良いお天気ですね〜」などというありふれた会話を紡いでいた、はず、だった、のに

「あの…今、なんと……?」

「君には私とコンビを組んで欲しいんだ」

聞き間違いじゃなかった…。

「今、『マンザイ』というものが貴族平民違わず流行っているんだけど、君は知っている?」
「ええ、まあ…」

そう、そうなのだ
この世界ではなぜだかお笑いが流行っている。
それも『漫才』が。

前世の私としての記憶が戻ってきた6歳の頃、両親に連れられ初めて『マンザイ』の舞台を見に行った時はそれはそれは驚いた。


なんでこんなオペラをやるような壮大なホールで漫才が………

当時『マンザイ』は、貴族の特別な娯楽として、王都を中心に流行り始めていた。
どうやらとある権力を持った貴族が、勇敢にも1人2役で漫才を披露してみせたのが大ウケしたらしく、そこから役者たちが取り入れるようになったという。

「実は私もそのマンザイに魅了された1人でね、初めて観た時は感動したよ…震えすらした。
時に涙を流し、日々のしがらみを忘れ、会場皆が揃って笑顔になる!
マンザイ!なんて素晴らしいんだ!」

レオナルド様はまるで天使を想うかのごとくうっとりと顔を赤らめている。
何も知らないご令嬢が見たら思わず見とれてしまうだろう。
これが想い人のための表情だったらどんなに良いか…

彼はグッと決意の顔をすると、私の方に向き直った。

ああいやだわ、この後に何を言うか予想できてしまう。
どうか外れてくれ、別の話をしてくれ、最初に聞いたセリフはなかったことにしてくれ。

「セイラ嬢、私とコンビを組んで欲しい」


言ったよコイツ!

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初投稿です。
なんかそれっぽくしてみました。
次回から怒涛の展開が待っています(予定)

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