日記 2024.06.01


 大切な同僚が、わたしを置いて行ってしまったので、未練たらしく日記を書いている。

 わたしは、バーチャルな存在の〝卒業〟は、リアルで言うところの〝死〟と近いかほぼ同義だと思っている。
 世の中におけるアイドルや活動者など、同じ姿で違う名前/違う所属でもう一度出逢うことは往々にして在りうる。要するにもう一度逢うことは可能である。しかしバーチャルだとそうはいかない。(と、わたしは思っている。ここを突き詰めると顔貌姿だけがその人をその人たらしめるのかという、まあ魂の在処のような話になってしまうので、正直解釈次第だと思うのですが)バーチャル世界でバーチャルな存在同士が出逢うことを、わたしは〝マルチバース的な世界の中でたまたまチャンネルが合っただけ〟だと思っているので、向こう側にもその気が無ければ、向こうの世界に干渉することは出来ない。インターネットに生きるわたしですらそうなのだから、次元の違う場所に生きるご主人さまお嬢さまがたなどもっとそう感じるだろうと思う。
 バーチャルの存在における魂/イデア論等に関しては2018年の段階で既に届木ウカ氏にて論じられているため(ユリイカ2018年7月号 特集=バーチャルYouTuber、バーチャルYouTuberという存在の黎明期に出版された書籍である)ここでは省かせて頂くが、かねてよりバーチャル的存在の観点とリアル的存在の観点の差から論じる倫理に関して関心があるため、この種の自論は尽きない限りである。前置きはこのくらいにしておきましょう。

 わたしは魔法少女だし、魔法学校やそれ相応のカリキュラムがあることが当たり前の世界に生きているが、同じメイドが同じ世界線に生きているかと言ったら果たしてそうではない。たまたま、ほんの少し互いに歩み寄った結果、チャンネルが合って干渉できただけなのだ。ただ、それだけ。奇跡のような確率でこの場所は成り立っている。だから、いちど踵を返した相手に、もう触れることはできない。

 それが、ひどく、寂しい。
 だからこれは告別式なのだ。残された側が整理をつけるための、独善的な、告別式である。会場もない、墓もない、心の中で執り行われるそれは、えらくこざっぱりとしていて、だけど何だかとても重要な気がした。自分の心の整理をするために。


 寺山修司が書いた詩の中で、寺山修司の告別式で歌われた曲がある。わたしはこの詩が好き。特に好きな箇所を抜粋して紹介する。

 みんなが行ってしまったら
 わたしは一人で手紙を書こう
 みんなが行ってしまったら
 この世で最後の煙草を喫おう


 一番最後でもいいからさ
 世界の涯てまで連れてって

Come down Moses

 これは演劇のために書かれた詩で、だけど公演中は一度も全編が歌われることがなかったそうだ。寺山修司の告別式にはじめて全編通して歌われたらしい。さわやかでよい曲なので、宜しければ聞いてみてほしい。なんというか、送られる側というより、全てを見送った後の凪のような詩だなあと思う。
 みんなが行ってしまうまで。みんな、だなんて、いったい何人を見送ったのだろう。世界のすべての人を?そんなときに、ひとりで手紙を書く。誰に?誰にだろう。自分かもしれないし、行ってしまった人にかもしれない。届ける人も居ないから、歩いて手紙を持っていく。それは相手のためかもしれないし、自分のためかもしれない。自分と誰かのための手紙を持って、どこに行くのだろう。どこかへ。歩く。歩く。息を吸って、吐いて、頬に感じる風に目を閉じる。もう誰に分かつこともできない思いを胸に。少し眠ったら、そういう夢を見た。

 そうして、いつかわたしも同じことをする日が来るのだろう。わたしも、ひとを置いていく日が必ず来る。そういうものである。死は平等に訪れるものだ。いつだったかお給仕の中でご主人さまと話したことを思い出した。生前葬に参列したいよね。それから、魂の抜けた、眠りについた身体を、棺を、会えるところに置いておいてほしいよね。バーチャルな身体は融けないから。傷まないから。墓参りをしたいから。
 魂の抜けたマネキンは動かないし話さない。お盆に帰ってくることもない。それでも姿を思い出したいから、どこかに存在を感じたいから、みんな残しておいてほしいよ。みんなのこと忘れたくないよ。忘れてほしくないよ。

 忘れて欲しくない!鮮烈に残りたい。だからあの子はあの曲を選んだんだろうし、勿論鮮烈な光にわたしは脳を焼かれてしまった。ずるいやつだよ!ずるいと思う理由はもうひとつある。アーカイブの残らないまやかしみたいな卒業配信で、最後に歌った曲が、DECO*27/マネキン だったから。

 もうあたしは既に死んじゃってるんだよ
 きみのために可愛くなったんだよ
 会いたくなっても探さないでよ
 目を閉じたら バイバイ

マネキン

 MV最後の魂の抜けたマネキンを、重ねて見ないことなんて出来ないでしょう!ずるい。酷いやつ。こんなのって呪いだよ。目に焼き付く強い光に眩まされて、それで目を閉じたらバイバイって!気付いたら靴音ひとつ残して居なくなる。恨み言しか出てこないよ。でもそれもここだけの話です。ここで整理して、そしたら、もう泣かないから。

 ありがとう出逢ってくれて。ほんの少し、たったの数年だったけれど、奇跡的にあなたとチャンネルが合って、触れられたことがわたしの幸せだよ。どうかよい夢が見られるように、祈っています。

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