階段で転んだ話
この日は私はいつも通り夜の仕事だった。
コロナになってからは自分のお客様が来る日以外出勤することはないので、家でのんびりすることも増えた。週に3〜4回出勤する生活にすっかり慣れてしまって、突然来店して下さるお客様を逃してしまうこともしばしば。
夕方3日に一度は連絡しているお客様から顔を見に行くよ、と連絡が来た。
同伴ではないし不安な気持ちを抑える薬を飲む必要もないのに、薬を飲むとやはり気持ちが落ち着くしなんとなく飲んでしまった。
予定が決まっていれば朝のうちに薬を飲む。2時間後くらいにやたら眠くなるからだ。
なんとなく眠たいまま出勤して、シャンパンを飲んだ。
ただ私がマメに連絡をくれるからという理由だけで会いに来て下さるお客様がまだこの街にはいる。その気持ちが嬉しくてその人に会うとすごく幸せでたくさんお酒を飲んでしまう。
お客様は70歳を超えているのに、コロナなんて気にしていない。
楽しい時間はあっという間で、お客様はアフターに私を誘うわけでもなく帰っていった。
夕方バタバタとしていたのでろくにご飯も食べておらず、案の定お腹がすく。0時くらいにお腹がすくのはこの仕事をしている人間ならばよく分かると思う。
ラーメンの汁だけ飲みに行こうと思って店を出ようとした時、新たに私の店に面接に来た女の子と黒服が同じ店に行くと言うので、酔っぱらいの私は一緒に行こうと2人を誘った。
ラーメン屋は地下にあるのだが、階段を降りている時に私はヒールを引っ掛けて転んだようだ。
なんだかよく覚えていない。
面接に来た女の子は看護師だからと言って絆創膏を貼ってくれた。
そのあとその子とうちのお店に入って欲しいという話を2時間くらいした気がする。
次の日になって絆創膏を貼り替える時が痛かった。ていうか今でも痛い。
薬のせいだかはわからないけど、酔っ払っても派手に転ぶことは最近はなかった。
一体何をやっているんだろうという気持ちになる。あの女の子は、こんなお騒がせ女がいるお店に入ってくれるだろうか。
私は陸上部でハードルをやっていたので、昔はよく転んでいた。反対の脚の同じ場所を怪我してテーピング用のテープを顧問の先生に貼られたことを思い出した。
心が弱っている時はとにかくろくなことがない。
お客様とお店の人に念のため報告したら病院に行けとうるさいので渋々行った。
傷パワーパッドで問題なかった。
ほらやっぱり。と思った。
こんな傷でもまぁまぁ痛いのだから、やっぱり死ぬのはもっと恐いのだろうな。
ラーメンの汁が、前よりしょっぱくて美味しくなかった。やっぱり、誰と食べるかで食事の味って変わるよね。
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