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エヴァ・デマルチク

8/28(水)、喜多直毅クアルテットで公演を行うのが両国シアターχです。

演劇や芝居など、ここで上演されているのはユニークで一筋縄ではいかないものばかり。 劇場としても骨がある、のを感じます。 僕もこの劇場では何度も出演させていただきました。 その多くはダンスでした。

今回、こちらで自分のユニットで演奏会をさせていただきますが、打ち合わせに行った時、館長さんからポーランドの大歌手エヴァ・デマルチクさんを招聘した時のお話を伺いました。 僕はただのエヴァ・デマルチクファンなのですが、館長さんはポーランドまで足を運んで直に会ったのだから凄い。

音大生の頃、立川駅の駅ビルに新星堂というCDショップが入っていて、そこで良く色々なCDを買いあさっていました。 当時、新星堂にはオーマガトキというレーベルがあって、シャンソンとかタンゴとかのCDを出していたのです。

その中にはロシアのウラジーミル・ヴィソーツキィのCDやブラート・オクジャワのコンサートビデオもあったのですが、真っ黒いドレスを着た女性の写真がジャケットのCDもありました。 これがエヴァ・デマルチクのCDでした。 ポーランドの浅川マキ!?みたいな感じに思えるかも知れませんが、歌や音楽の雰囲気はもう少し欧州のカバレットとかシャンソンみたいな感じ。 浅川マキさんはジャズとかブルースとかロックの香りが濃厚だけど、エヴァ・デマルチクからはアメリカの匂いはしません。

元々、アメリカとか英国のポピュラー音楽のカルチャーって物凄く強力で、世界中どこの国に行っても普通にロックとかポップスみたいな音楽にその国の言語を載せて歌ったりしてますよね。 英語がどこの地域に行ってもそこそこ通じるのと同じように、音楽形式としてのロックやポップスが存在する。音楽グローバリスム。 グローバル音楽? どっちだろう。

僕はそういうのではなくて、その国の育んできた音楽文化の上で、若い人が葛藤や苦悩や政治に対する怒りを謳っているのが好きなのです。 そう言った意味でヴィソーツキィやエヴァ・デマルチクの歌は僕の好みにピッタリでした。

とにかくオーマガトキが無かったら、新星堂が無かったら、ロシアや東欧の素晴らしいアーティスト達には巡り会えませんでした。 大感謝です。

若い頃に買って今も聴いているCD。

エヴァ・デマルチクの一番好きな歌を紹介します。 詩はオシップ・マンデリシュターム。

ヴァイオリン弾きのヘルツォヴィッチ

かつてヘルツォヴィッチというヴァイオリニストがいた
彼は楽譜を見ずに演奏するのが得意で、 シューベルトの曲をまるで宝石のように、 まさに奇跡のように仕上げることができた。

毎日、朝から晩まで、 カードのように使い古された 同じ永遠のソナタを、 まるで宝物のように大切に奏でていた。

「どうしたんですか、ヘルツォヴィッチさん? 外は暗闇と雪… もういい加減にしなさい、セルツォヴィッチさん! これが人生ですよね?」

凍りつく寒さが続く間、 シューベルトの後に続いて、 シガンカ(ジプシー)がハーモニカを奏で、 ソリの跡をつけて進んでいく。

私たちは音楽と共にいるので、 突然の死も恐れることはない。 そして、まるでハンガーにかけられた 羽をむしられたカラスのコートのように吊るされるんだ。

もうずっと前に、セルツォヴィッチさん、 すべてが雪に覆われてしまった…
もういい加減にしなさい、シェルツォヴィッチさん! これが人生ですよね?

この歌を聴いて、歌詞を読んでいると息が苦しくなってくる。 擬似的に死を味わおうとしているのか!?

8月28日(水)
喜多直毅クアルテットコンサート『Tokyo No Way Out』
~沈黙と咆哮の音楽ドラマ~ ※シアターXカイ提携公演

出口無き風景に流れるララバイ、眠りを妨げるノイズ、夜の鉄路に響く跫音…、都市の葛藤を集積した音楽。

出演:喜多直毅クアルテット    
   喜多直毅(作曲・ヴァイオリン)    
   北村聡(バンドネオン)    
   三枝伸太郎(ピアノ)    
   田辺和弘(コントラバス)
内容:喜多直毅オリジナル作品

日時:2024年8月28日(水) 19:00開場 19:30開演 20:30頃
※終演後、新しいCDの販売とサイン会がございます。
会場:劇場 東京・両国 シアターΧ        
   〒130-0026 東京都墨田区両国 2-10-14 両国シティコア 1 階    
   JR 総武線両国駅西口下車、左へ徒歩約 3 分    
         都営地下鉄大江戸線両国駅 A4・A5 出口徒歩約 8 分

料金:予約4,500円 当日5,000円
ご予約・お問い合わせ:violin@nkita.net
メールタイトルは「喜多カル8月」、メール本文に「代表者氏名、人数、連絡先電話番号」を必ずご記入の上、お申し込みください。

主催:喜多直毅 提携:劇場 東京・両国 シアターΧ

泥をよけずに踏み固めるかのごとき直截さは、聴き手がふだん目を背けている深層心理を抉り出す。とりわけヴァイオリンを中心に、個々の楽器は前衛的な奏法を随所で前面に出すが、立ち現れる音はどれも本質を突く。感情の襞に真っ向から突き刺さる。ひとつの擦弦が、打鍵が、ピッツィカートが、刻々と意識の深化を誘発し、あたかも落下する砂時計の砂を直視するような臨場感。一音が含みもつ情景の多様さ―楽器の属性を飄々と飛び越え、自在に混ざり合いクラッシュしては、多面的に動く。トゥッティでのスタミナは驚異的だ。
JazzTokyo #1196 「喜多直毅クァルテット/沈黙と咆哮の音楽ドラマ」文章:伏谷佳代

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