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国プロ一問一答 03_補助金における「仕入控除税額の報告制度」とは

はじめに

補助金制度のなかで、1,2を争うくらい難しい概念がこの仕入税額控除制度です。なぜ難しいのかといえば、まずは消費税の仕組み(間接税)をしっかりと理解したうえで、補助金独特の考え方を導入しなければならないからです。
さらに、様々な省庁で交付されている補助金では手続きを簡便化するために例外的な取り扱いが広く行われていることも理解を難しくしている一因です。
本稿では、補助金制度における仕入税額控除制度の原則と例外、そして実務的には例外が広く採用されるに至った背景を説明したいと思います。

1.消費税の仕組み(通常の仕入税額控除制度)

消費税は、皆さんもよくご存じのとおり、買い物などの支出に対して支払う税金です。税率は基本的に10%であり、商品の代金などを支払うときに、店などに支払うことになります。すなわち、直接消費者が納税事務を行うのではなく、店やその取引先を通じて、最終的に政府に納付される仕組みになっています。税金を負担する人(消費者)と、税金を政府に納める人(売り手)が異なる税のことを「間接税」と言います。

この場合、各事業者が申告・納付する消費税額は、原則として、その課税期間中の課税売上げに係る消費税額(仕訳でいうと仮受消費税)から課税仕入れ等に係る消費税額(仕訳でいうと仮払消費税)を控除して計算することとなります。この消費税上の処理を「仕入税額控除」 といいます。
ここで、消費税の申告時点において、課税仕入れ等に係る消費税額が課税売上げに係る消費税額を上回る場合には、すなわち仮受消費税<仮払消費税である状態であり、消費税をいわば払いすぎていることから、その分(控除不足額)が事業者に還付されることになります。
(以下の図は国税庁ホームページ「消費税はどんな仕組み?」より一部抜粋しています。なお、図中の消費税率は8%を前提に計算していることにご注意ください。)

2.補助金交付時の問題点

さてここで、事業者が補助事業に必要な物品を購入したとします。その場合、(様々な前提条件は省略するとして)一般的に購入価格には消費税が含まれることになります。
上述したとおり、将来的に補助金により充当される経費についても、消費税の納税のタイミングでは仕入税額控除の対象となり、仮受消費税<仮払消費税であれば、当然ながら還付を受けることが可能となります。

この図を使って説明すると、仕入¥20,000(税込)のすべてが補助金による調達の場合にも、課税売上に係る消費税から控除して消費税を計算(図中②-①)することが可能となります。
この場合、補助事業者は自らの費用負担なしに、補助金で調達した経費に係る消費税分だけ、申告時に減額効果を得られることになってしまいます。すなわち、納付税額が仮受消費税ー仮払消費税の引き算で計算されるところ、補助事業で支払った消費税は将来的に仮受消費税から控除することが可能(=消費税の減税効果をもつ)がであり、条件によっては国庫から還付を受けることが可能な状態になるわけです。
この状態は、事業にかかる経費を補助金で負担してもらうだけでなく、消費税の減額メリットを享受できてしまうことになり、補助事業者を不当に利する結果となってしまいます。

3.補助金制度における原則的な制度設計

そこで、補助事業者が消費税の課税事業者である場合には、補助金の精算を受けることにより得られた消費税の減額メリットないし還付金の発生事実を報告し、必要に応じて国庫に返還しなければならないとされています。
以下のとおり補助事業主体の性質に従って、消費税仕入控除税額による補助金減額及び返還の有無を検討する必要があります。
これは、言い換えると消費税の減額・返還可能性の有無に従って、交付決定時点で予算計画金額が税抜きか税込みかを判断すべきということを意味します(これが補助金における原則的な制度設計です)。

特定収入割合の区分については、さらにややこしいので別の機会にご説明することにします。
覚えておいていただきたいのは、この図のなかで「有」と記載されている部分に該当する事業者は、税込金額で予算計画を策定し、税込金額で補助金の精算を受けることが可能であるが、一方で以下のルールに従って将来減額ないし返還を行う可能性があるということです。

[1]返還額が 0 円の場合
  ア 仕入控除税額の計算結果を示す資料
  イ 返還額がない理由を証する書類
  (例)簡易課税制度で申告している、特定収入割合が 5%を超えるなど

[2]返還額がある場合
  ア 仕入控除税額の計算結果を示す資料
  イ 返還額を示す確定申告書
  ウ 課税売上割合・控除対象仕入税額等の計算過程がわかる資料
 (エ 特定収入割合の計算過程が分かる書類)

4.実務において広く採用されている例外的処理とは

しかし、補助金の予算計画書を提出するときの実務上の対応はどのようになっているかというと、これまで説明してきた考え方とは異なる簡便的な手続きが行われることが多々あります。
ここでいう「簡便的な手続き」というのは、仕入税額控除の発生の有無に関係なく、どのような事業者であっても一律で税抜金額による交付決定が行われるということを意味します。

上述のとおり、一般的な課税事業者であれば、補助事業に関する予算計画で計上する金額は税込み金額だと思います。それは、事業者からしてみれば消費税は物品等を購入した際に必ず支払わなければならないものであるし、また税抜きで予算計画を作らせられたら、「じゃあ消費税分は補助金でまかなってもらえないの?」となってしまうわけです。
一方で、補助金を出す側としても後から報告を受けて必要であれば返還してもらえばいいから、税込みで予算計画を作らせようと考えるのが普通です。

しかしながら、皆さんのなかには、自身の課税状況に関する判定を事前に受けることなく、一律税抜き金額で予算計画書を作成させられたという方もいらっしゃるのではないでしょうか。それはこんな理由からなんです。

①補助事業者の認識不足、補助事業の精算時期と確定申告の時期の相違等の理由から、報告及び補助金に係る消費税仕入控除税額の返還がなされないケースが頻発した。つまり、補助金の出し手も受け手も事業が終了したあとにまで気が回らず、報告や返還の手続きを忘れてしまうケースが頻発した。したがって、最初から税抜金額のみを補助対象とすることにより、手続き上の不備がそもそも生じないようにした。

②交付決定時点で、補助金に係る消費税相当額の金額が明らかであることはまれであるため、過去に税込金額で交付決定された事例がほとんどなかった(単に前例に従って税抜きとしたケース)

③税抜金額を補助対象とすることにより、補助事業終了後において補助金の出し手(政府等公的機関)が消費税仕入控除税額の返還及び報告有無について追跡調査を行う必要がなく、煩雑な事務手続及び複雑な計算が不要となり簡便であるというメリットを重視した。

しかしこの取り扱いは消費税の納税義務のない事業者にとっては非常に酷な話です。
具体的にいえば、補助対象には納税義務者に該当しない機関が存在するため、そもそも仕入税額控除という制度の適用がありません。これでは、単に消費税分は自己負担しろと言っているのと同じことです。特に資金繰りの厳しい事業者にとっては、高額な物品調達等に伴う消費税負担の原資がなく、事業遂行に重大な支障を来す恐れもあります。

これまでみてきたとおり、原則的な制度設計としては、事業者が納税義務者か否かによって、税込みか税抜きかを細かく判別しなければなりません。
単に役所側の手続き負担を軽減するだけの理由で一律に税抜き金額とすることは実は不公平が生じかねない状況にあるということです。
したがって、もしご自身が納税義務者に該当しない事業者については、補助事業の遂行に支障を来さないためにも、消費税を補助対象経費に含めるよう合理的な理由をもって交渉することも必要です。

本日はここまでにしたいと思います。
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