見出し画像

私的メモ ─内閣府の『ムーンショット型研究開発制度』がSFで楽しい

つい最近、内閣府のウェブサイトに以下のようなページがあるのを知った。


『ムーンショット型研究開発制度』

ムーンショット型研究開発制度は、我が国発の破壊的イノベーションの創出を目指し、従来の延長にない、より大胆な発想に基づく挑戦的な研究開発(ムーンショット)を、司令塔たる総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)の下、関係省庁が一体となって推進する新たな制度です。


「ムーンショット」とは?

ムーンショット(Moonshot)という言葉をご存知だろうか。その語源は、米国のアポロ計画におけるジョン・F・ケネディ大統領の「1960年代が終わる前に月面に人類を着陸させ、無事に地球に帰還させる」という言葉とされる。
転じて、ムーンショットは、未来社会を展望し、困難な、あるいは莫大な費用がかかるが、実現すれば大きなインパクトをもたらす壮大な目標や挑戦を意味する言葉として使われるようになった。近年では国家だけでなく、Googleなど先進企業においても企業戦略としてムーンショットを発表している。


『ムーンショット目標』

1. 2050年までに、人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現
2. 2050年までに、超早期に疾患の予測・予防をすることができる社会を実現
3. 2050年までに、AIとロボットの共進化により、自ら学習・行動し人と共生するロボットを実現
4. 2050年までに、地球環境再生に向けた持続可能な資源循環を実現
5. 2050年までに、未利用の生物機能等のフル活用により、地球規模でムリ・ムダのない持続的な食料供給産業を創出
6. 2050年までに、経済・産業・安全保障を飛躍的に発展させる誤り耐性型汎用量子コンピュータを実現

……………。

SF小説さながらのワードが並んでいて、SF好きな私としてはそれだけでワクワクしてしまうのだが、どれほど実現性の目算がある話なのだろうか?
個人的に特に興味があるのは〈ムーンショット目標1〉だ。


ムーンショット目標1

2050年までに、人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現
「誰もが多様な社会活動に参画できるサイバネティック・アバター 基盤」
・2050年までに、複数の人が遠隔操作する多数のアバターとロボットを組み合わせることによって、大規模で複雑なタスクを実行するための技術を開発し、その運用等に必要な基盤を構築する。
・2030年までに、1つのタスクに対して、1人で10体以上のアバターを、アバター1体の場合と同等の速度、精度で操作できる技術を開発し、その運用等に必要な基盤を構築する。

ここでいう「アバター」というのがどういうものなのか今ひとつピンと来ないが、以下のような動画があった。

まさに自分の分身として動くロボットだ。2030年までに、つまり10年後には1人の人間がこういうロボットを10体以上サクサク操るようになるというのことなのか?2020年現在で私は1体も動かしたことが無いのに。
なかなか信じがたい話だし、そもそもこの制度は実現を明確に見込むような計画とは質の違うものなのだろう。しかし、ページ内にある「研究開発構想」のPDFを開くと、その日付は奇しくもコロナ直前の令和2年2月となっている。「アバターで社会活動に参画する」という構想は、この時点では、コロナ以降常態化していく可能性がある「リモートワーク」を念頭においたものでは無いと思うが、結果的に有用性がより高まったのかもしれない。

しかし個人的にもっと興味があるのはこっちだ。

「サイバネティック・アバター生活」
・2050年までに、望む人は誰でも身体的能力、認知能力及び知覚能力をトップレベルまで拡張できる技術を開発し、社会通念を踏まえた新しい生活様式を普及させる。
・2030年までに、望む人は誰でも特定のタスクに対して、身体的能力、認知能力及び知覚能力を強化できる技術を開発し、社会通念を踏まえた新しい生活様式を提案する。

ぜひ「身体的能力、認知能力及び知覚能力をトップレベルまで拡張」してみたい。そしてアバター技術との組み合わせで「身体、脳、空間、時間の制約から解放」されてみたい。まさに新世界だ。

SF作品に触れながら、いつかそういう未来が来るのだろう、でも一体いつになるのだろう、そんな風に思っていたが、その未来が内閣府のウェブサイトに割と大真面目に書かれていることにワクワクしてしまう自分がいる。

と、ウェブサイトの文面だけ軽く読んで無責任に楽しんでいるわけだが、現実にはこの制度そのものに批判はいろいろとあるようだし、巨額の予算も投入されているので単に夢物語では済まされないのだろう。しかし正直な気持ちとしては、こういう話が現実の政策の文脈に上っているのを見るだけでも、現に自分が生きている世界がSFのような未来に進みつつある感じがして、嬉しくならずにはいられない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?