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自立した魅力ある審判員を目指して―レフェリーをレフェリーから学ばないという視点

 日本サッカー協会のホームページなどに目を通すと,昨今,「自立した魅力ある審判員」の育成を,重要なミッションの一つとして位置付けているように看取される。しかし,このミッションは中身の面(例えば,何をもって自立した審判員と定義するのかなど)で,判然としないことも多い。敢えて明確にしないことで,「審判員やインストラクター自身が,自らでこれらについての考えを深化させ,導かれた結論をフィールド内外で発揮せよ」という意図があるようにも感じ取れる。しかし,具体的にどうすればよいのかといったロードマップのようなものがなければ,この抽象的なミッションを達成することは到底できない。

 そこで私は,自立した魅力ある審判員になるためには,敢えて「レフェリーをレフェリーから学ばない」ことが重要だと結論づけた。現在の日本の審判員の育成システムを概観すると,試合,研修会,トレーニング会といったものが全国各地のFAで展開されている。全国どこにいっても,同じような育成システムであることは大きな強みである。その一方で全国各地同じような育成形態であること,また現在の育成システムが審判界のみの閉ざされたものであるがゆえに,それぞれの個性や魅力を引き出すことはむつかしいように思われる。要は,画一化された育成システムの中で,魅力などを求めるのには無理があるということだ。

 そのため,敢えて審判界以外,もっと広い意味で捉えるとサッカー界以外の,他業種・他業界・学問分野から学びを得ることが,今後ますます重要になってくると考えられる。わかりやすい卑近な例をあげると,例えば,心理学を学び,心理学で得られた知見をマネジメントやゲームコントロールに生かすといった具合である。筆者はこれ以外にも,オーケストラや航空業界などからも知見を得ている。

 このように,サッカーとは一見無縁な異業種などから学び,そこで得られた知見をサッカーに結びつけること(学びの親和・学びの転移)で,それぞれが他者と差別化を図ることができ,魅力的な審判員になることができるだろう。また,そのような視点でもって,意識的に学び続けていると,自ずと学ぶ姿勢が身につき,審判員としても自立すると考えられる。ただし,そうはいっても,審判員としての基礎基本(正しい判定を積み重ねること,そのためによいポジションをとることなど)は忘れてはならず,また,それらは常に,活動の中心に位置づける必要があることは言を俟たないが,自立した魅力ある審判員になるためには,敢えて「レフェリーをレフェリーから学ばない」という視点も重要だといえるのではなかろうか。


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図 「自立した魅力ある審判員の育成に向けた学びのモデル」(筆者作成)

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