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トゥパック・シャクールと再会するQB氏「オールド・スクール・バック 」は神回

毎回その知識力(およびトピック毎の予習力)に圧倒される、丸屋九兵衛氏のYouTubeチャネル。氏が最近始めた"OLD SCHOOL BACK"では、その深い洞察力と、小ネタを挟みつつオリジナルな語り部としてフロー(流れ)を作り出す氏の芸風が90分という長尺で味わえる。特に先日公開されたep3は素晴らしかったのでそれについてノートさせていただきたい。

(ブラック・ミュージックに興味のある方は、スグにでも九兵衛氏のYouTubeチャネルへと向かっていただきたいところであるが...。)

今回のエピソードを神回と呼ぶのにはワケがある。ドライブ中は地元LAのヒップホップ放送局をつけっぱなしにする自分はいつでも"California Love"を聴くとアガってしまう。言うまでもなくその歌い手(ラップ手?)トゥパック・シャクールが今回の主役である。エピソードを聴き終えた感想は「自分はトゥパックを何も知らなかった」である。

「やはりLAのドライブのお供はこの曲だ」なんてしたり顔で運転していた自分が情けなるぐらいの情報量がこのエピソードには詰まっていた。なんとトゥパックはNY生まれでありカリフォルニアに住んでいたのはわずか2年間に過ぎないのだという。

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特にエピソードの最後、アメリカの副大統領となったカマラ・ハリス氏の一言が泣かせる。自分がカリフォルニアに住んでいたことを感謝したくなる、まさに「カリフォルニア・ラブ」な発言。(唐突であるが、氏の母校であるUCバークレーを最後に訪れたのはポップ・グループ Postal Service の再結成ライブだった。バンドのMCがそのステージの合間に「むせかえるようなスモークの匂い」と、筆者自身が感じたことをそのまま話してくれたのが印象的だった。)

なお以前の神回は ep. 2 The Timeの回。ザ・タイムが「ヴァニティー・シックスにとっての坂上忍」になった瞬間である。

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なお同エピソードでは「プリンスが坂上忍になったモーメント」にも触れられているので、そちらも必聴である。

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話はエピソード3、トゥパック・シャクールに戻る。このエピソードの中で印象に残ったのは主に2つある。まず、トゥパックの台詞とシェークスピアの台詞との比較である。

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いや比較というのは正しくないかもしれない。ある台詞が「トゥパックのものかシェイクスピアのものか」という問いかけは、果たしてトゥパックが何処から来て何処へ行ってしまったのか、我々の想像力を補ってなお十分余りのあるクエスチョンだと言っていいだろう。なお上記の「フローの仕方を教えてやろう。」はシェイクスピアの「テンペスト」からの引用だと言う。

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再びのネタバレ失礼だが、「それはイルなフレーズだ」は「ハムレット」の台詞だそう。

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そして御大クインシー・ジョーンズの娘さん、ラシーダの話が出てきて俄然、盛り上がるのは私だけではないはず。筆者は(ラシーダではない方の)クインシーの娘さんが、トゥパックと関係があったことすら知らなかった。

ここで私が思い出したのは(本noteでも度々翻訳させていただいているアニメーションの総合情報サイトである)Cartoon Brewの数年前の記事である(上記リンク)。クインシー御大の血を引く才女であるラシーダ氏が「トイ・ストーリー・4」の脚本家としてクレジットされていたことは、実はあまり知られていない。それもそのはずで、彼女は制作途中で降板したのである。

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詳細は上記リンクの記事を見ていただくこととして、(少なくともNew York Timesの記者のツイートの限りでは)彼女は「制作チームの間でマイノリティの意見が尊重されていない」と感じた、らしい。

もちろんトゥパックの活躍とラシーダ氏の最近のクリエイターとしての活動には何の関係もない。しかしこの事件を聞いた時「やはり現在でもクリエイティブの世界でこういう衝突は起こるのか」と思ったのだ。トゥパックがお隠れになってから25年の時が過ぎようとしている。

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25年という歳月の長さはちょうど彼が我々と同じ世界を共有した時間の長さに等しい、という。この世界の片隅でも、我々はまだ前に進もうとしている、と信じたい。

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