見出し画像

vol.536「経営者が困ったときに『すがるべきもの』とは」


2019年から5年経ちました。
成田空港はコロナ前の7割まで
利用客が回復しているようです。
株高もあり、経済は当時の活況を取り戻しつつありますね。

コロナ前の2019年、弊社は大忙しでした。
というのもこの年は、
2025年を見据えた2025年ビジョンを作る仕事が
非常に多かったからです。

御縁を頂いたクライアントからの依頼に加え、
経営者が大勢学んでいる研修機関の依頼で
大勢の経営者の皆様のビジョンづくりを
指導させていただきました。
その数、トータルで40社以上です。

あれから5年経ちました。
間もなく2024年度のスタートです。
そろそろ2030年ビジョンの開発ラッシュに
なりそうな予感がしています。

そんな中、若手経営者が20人ほど集まる研修会で
ビジョン開発の講師を務める機会がありました。
既に社長になった人もいれば、
これから社長になる人もいる研修会です。

そこで私は以下の問いを出しました。
「あなたの会社には中期ビジョンは必要でしょうか?
必要だとお考えの場合、なぜ必要なのか?
社長にとってのメリットの観点から考えてみましょう」

すると、主に以下の意見が出ました。

社長にとってのメリット
1)公表するときに覚悟ができる
2)意思決定のスピードが上がる
3)設備や人材がいつまでにどれだけ必要かが分かる
4)自社の現在地が分かり、ズレを修正できる
5)資金調達時に協力、理解が得やすい
6)迷いが生じたときにそこに立ち返ることができる

このうち、2)3)に関しては本当にその通りだと思います。
19年にビジョンを作ったある会社は、
翌年国が公募した「事業再構築持続化補助金」に
「これは使える!」とすぐさま応募しました。

こうした制度の応募開始時は、
審査のハードルは往々にして低いものです。

即座に採択されると
ビジョンに描いた工場の再構築に乗り出します。
22年には新工場が稼働。
地域の人の見学コースを兼ね備えたその工場は、
多くの人が集う場にもなりました。

工場が再構築されたことで生産性が向上し、
経営の安全余裕率が上がりました。
そのため、昨今の賃上げ要請に対応。
人財の採用にも成功しています。

こうした素早い動きをした会社と、
今頃になってようやく申請し、
応募者多数の中でなかなか採択されない会社では
大きなタイムラグが生じています。

ビジョンがあると、経営者は世の中の動きに敏感になり
即応することができるのです。

また「6)迷いが生じたときにそこに立ち返ることができる」
効果も大きいです。

ビジョンを10人の幹部社員と一緒に
創り上げたある社長は、
コロナ禍の影響もあり、就任直後に赤字を経験しました。

自分の力不足を感じ、落ち込みます。
この時、精神的な支柱になったのが
幹部皆でつくったビジョンでした。

社長は自分たちで描いたビジョンシートを眺めながら
「私にはこのビジョンがあるじゃないか。
皆で創り上げたこのビジョン通りに進めていけば、
間違いはない。きっとうまくいく」
と確信し、そこから立ち直ったといいます。

コロナ禍のように一時的な変化に
思うように利益が出ないことは幾度もあることです。
そのような時に慌てず騒がず、
やるべきことに集中して、それをやり切る。
ビジョンはその胆力をもたらしてくれます。

さらに研修会では次の問いも出してみました。
「ビジョンがあることの
社員のメリットは何だと思いますか?」

すると以下の意見が出ました。
1)わが社の方向性が見えて安心する
2)自分に必要なスキルが見えてくる
3)評価基準がわかり給料アップが期待できる
4)今よりも仕事が楽になる未来が見える
5)トップの考えが理解でき意思決定ができる
6)権限移譲されて、自分たちでPDCAが回せる

この中では特に4)の効果は大きいでしょう。
社員はとかく
「できません」「無理です」「辛いです」と
こぼしがちです。

そうしたときに会社がDXへの取り組み方針や
魅力的な福利厚生制度の導入を方針として示すことで、
「自分たちが頑張れば報われる」という
主体性を引き出すことができるからです。

そうした効果があるビジョンですが、
さらに以下の問いも出してみました。

「世の中には『中期ビジョンなど必要ない』という
社長もいます。どんな会社には必要ない、とお考えですか?」

すると以下の意見が出ました。
1)ワンマンな零細企業
2)個人事業主
3)某大手の下請色の強い会社
4)固定客がついている老舗の和菓子屋
5)市場が拡大している成長期の会社
6)一過性のトレンドを追った業態(タピオカ屋など)

これを聴きながら、まさに我が意を得る思いでした。
特に、5)の右肩上がりの市場では、
マーケットサイズはどんどん大きくなるので
今年と同じことをしていたら、売上は拡大します。

そのようなときは「**を目指す」という
ビジョンは不要です。わが国の高度成長時代に、
理念とビジョンがなくても経営できたとのは
そのせいです。

が、昨今は、昨年と同じことをしていたら、
売上は減少し赤字に転落する
成熟期から衰退期を迎えています。

それを打破し、自社を再び成長軌道に乗せるには
何をどうすればいいのか、
それを描いたビジョンが必要です。

上記の1)~6)に該当しない会社は
ビジョンを作られるといいでしょう。

わたしのクライアントの社長の
ビジョンを描いた方針書は、
様々な書き込みがしてありボロボロです。
普段から持ち歩いていて、
気づいたことがあればそこにメモるからです。

その使い方に感心していると、彼は、
「私にはすがるものはこれしかないですから」と
とポツリと言いました。

誰からもあれしろ、これしろと
指示されない社長にとって、
ビジョンだけが、迷ったとき、壁にぶつかった時、
チャンスに遭遇したときに、すがるべきものなのです。

今年はビジョン開発イヤーです。
是非、あなたと幹部社員の先見力を磨いて
2030年ビジョンを描いてみてくださいね。

 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?