丁寧なヲタクの暮らし入門


「丁寧な暮らし」
それは一日一日を丁寧に、大切に、自然と調和しつつ生きるライフスタイル。シンプルで素晴らしい生き方だ。

丁寧な暮らしとヲタクの暮らしは、どうにも真逆のようにも思われる。

あきらかにグッズ棚のサイズが足りてないのだが、棚ごと買い換えてらんないからそのへんの袋に入れてしまう。毎日2回着替えても余るぐらいTシャツがあるのにまた買う。電池が使い終わったやつかどうかわからないまま、脱出ゲームみたいな場所に安置されている。ヲタクなら誰の部屋にもあるという、同じCDを何枚も積んだオベリスク。その脇を固めるはいつか整理すると言い続けて早十年のチラシ...

あきらめてはいけない。スピードと物量勝負のヲタクにだって、丁寧な暮らしは許されているはずだ。きっともっと、丁寧に心を込めて推しを愛せるはずだ。心にゆとりを持ち、丁寧に暮らすヲタク、なってみたいじゃないか。

思い立ったが吉日、丁寧な暮らしといふものを、さっそくヲタクもしてみむとて実践するなりよ〜。

CDを丁寧に愛する

まず、聞きかじったところによると、部屋をスッキリきれいにするには、ときめきというものを大切にすべきであるようだ。掃除にときめきの使い所はわからない、だけどときめき力なら履歴書に書けるほど自信があるのがヲタクである。

お酢だけで一日かけて家中をきれいにするような気概をもって、ときめきだけでまずはCD棚をきれいにする。


アーティストごとにそれなりの適当な並びになっていたCDを

画像1


ときめく順に大胆チェンジ

画像4


アーティストの垣根を越えて整列、さらに他のCDが見えなくなることもいとわず、予約特典でもらったサイン入りジャケットをときめき優先で前面に。こころなしかジャケ写の大介も誇らしげで嬉しい。


グッズを丁寧に愛する

ヲタクがライブで買うグッズは、だいたいにして光りまくったりド派手だったりする。それが存在意義なのだが、部屋にあると少々ガチャッとしがちなのも事実である。


君らの居場所はそんなところじゃないはずだ

画像3



魅せる収納で名実ともにヲタクの人生を明るく照らす

画像4

だんだん丁寧なヲタクが板についてきた。
この調子でまだまだ丁寧になっていきます。

チラシを丁寧に愛する

チラシというのはとにかく、あっという間に溜まる。同じチラシなんだからもらわなくてもいいのに毎度手が勝手に受け取っている。DAの名がついてるものをそのへんに放逐するわけにいかないから持って帰る。丁寧な暮らしの人は炊いた玄米やぬか床なんかを寝かせるが、ヲタクが寝かすはチラシ一択である。

そんな使いみちのなさそうなチラシは、紙としてのオリジンに目を向けてみたい。原点回帰。素材主義だ。

ほら、チラシが語りかけてきた。
ファンクラブsmile会員募集中。内なる想いが歌うようだ。

折り目の柔らかさ、美しいツヤ、広げたときの音。
会員募集したいというスピリットが素材レベルで立ち上がってくる。

目を閉じて。チラシをカサカサ揺らす風の声...

待機列も半泣きのすごい雨風が吹いていた日。飛行機が止まるほどの豪雪の中半袖だった日、40℃の真夏日にハコのエアコンが壊れてた日。打ち上げで飲みすぎて気づいたらライブ翌朝どころか翌夕だった日...
チケットの半券はなくしても、チラシだけはどんな日もシワシワになりながらカバンの底にいつも必ずあった。チラシこそ、ヲタクライフを一緒に生きてきたベストフレンドだったのだ。

さらなるマイフレンドとの一体化を目指し、声に出して読み上げるのもいい。

「4月7日(日)なんばHatch 開場16時 問合せ サウンドクリエイター」

忘れていた過年度のツアースケジュールに思いを馳せる。声にもだんだんゆとりが溢れてくるのを感じる。これが丁寧なヲタクであると言わずしてなんと言うか。

DVDを丁寧に愛する

片付けばっかりしていてもつまらないから、やっぱりDAの映像を見たくなるな。今日の気分はどのDVDかな〜、どれどれ...

驚くことに最近のDVDケースは、軽く押すとギミックで飛び出してくる。一昔前みたいに力を入れて押したら割れた、なんて無粋なことは起きないのだ。思わず、このケースを作ってくださった誰かに感謝する。

ケースの設計の人、営業の人、工場の人、このケースを採用したレコード会社の人。これをポチったサイトのWeb受注プログラムを書いた人、商品発送作業の人...その家族...DVDプレイヤーを買うためのお給料をくださった前職の社長...通勤に使った地下鉄の運転士さん...運転士の母校の先生...鉄道の父井上勝......

これまで気にもしなかったたくさんの人間の営みに気づく。全員に丁寧に感謝する。

DVDがプレイヤーに吸い込まれる音、ジジーと回るロード音。ASMRとしての効能を見出す。リモコンのボタンの感触も味わい深い。イッツァSONY。逸品なり。ここでもひとつひとつに感謝をする。感謝に30分ぐらいかけてからやっと、再生ボタンを押せる。

ライブDVDラストのスタッフロールもコマ送りして全員に感謝することになるので、さらに時間がかかる。丁寧なヲタクには時間がたっぷりと必要なのだ。本編の倍は所要時間をみておきたい。日々の掃除の時間などを感謝の時間にあてることもやぶさかでない。

丁寧とヲタクはどこまでも

丁寧なヲタクを目指していたはずが藤岡弘、みたいになってくるという予期せぬ展開。これが丁寧の末路ということなのだろうか。丁寧な暮らしはジャングルの奥地に眠るのかもしれないし、違うかもしれない。

ただ悪い気分はしないので、時間がしぬほどあまった時にはやってごらんになるのもよいかもしれないし、やっぱ違うかもしれない。

丁寧にカレンダーの水平を合わせる、丁寧にツアータオルの穴をかがる、丁寧にピンバッジの台紙をラミネート加工する...etc

ヲタクの部屋にはなんせ億万とモノが溢れているので、なろうと思えば永久に丁寧のなりでがある。丁寧ののびしろに溢れていると換言することもできる。その間ずっと推しのことを考えていられる。
ヲタクはつくづく、果報者である。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?