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絵本紹介②「T&M〜たーちゃんとみみちゃんの冒険〜」

この絵本紹介シリーズでは、VIVITA BOOKS 2020でつくられた絵本10作品がどのようにして作られたのをご紹介していきます。
2作品目はキャラクターの表情がとってもキュートな「T&M〜たーちゃんとみみちゃんの冒険〜」。子ども作家のももかと大学生編集者のふくよしさんは、いったいどのような旅を経て絵本をつくっていったのでしょう?
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こんにちは!はじめまして
大学生編集者の福吉孔志郎です。(ニックネーム:ふくろう)

▽略歴
武蔵野美術大学 造形学部 工芸工業デザイン学科
インダストリアルデザインコース モビリティデザインゼミ 卒業
武蔵野美術大学 大学院 造形研究科 デザイン専攻 工芸工業デザインコース 修了

大学では人乗せて動く乗り物(モビリティ)のデザインを研究していました。他の編集者と違い、大学院生のときに絵本プロジェクト参加、プロジェクトの途中で大学院を修了しデザイン会社に就職しました。

高校の美術の授業で初めて絵本づくりを体験し、自作絵本も作るようになり、デザインを学ぶきっかけとなったのも絵本でした。本格的な絵本づくりを体験したいと思ったのが、絵本プロジェクトへ参加した理由です。

『はじめに』


卒業・就職・コロナ渦というめまぐるしい環境の中でも、こども作家で小学五年生のいしがももか(ニックネーム:ももろう)ちゃんと一緒に協力して絵本を作り上げることができました。初の協働での絵本づくりのなかで得た体験や発見を全5章に分けてご紹介したいと思います。

第1章『ペアは一目で決まった!?』

絵本プロジェクトの一番初めの活動である、キャラクターづくりのワークショップに僕も参加しました。そこでは、こどもたちが絵本のアイデアを自由に考え、大学生編集者と話し合える場でした。後にペアとなるももろうは目があった時、はつらつな笑顔で返してくれましてくれたのを覚えています。ももろうの考えているアイデアを聞くと、自分の想像もどんどん広がっていき、気づけば二人で絵を描きながらブレストをしていました。初めて話すのにアイデアのキャッチボールが対等にできたのです。その時の手応えから、この子とは何か作れそう!と心の中でビビッと来ていました。ペア決めの編集者会議のときには率先して手を挙げ、ももろうとペアを組むことができました。二人の絵本プロジェクト物語のはじまりです。

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第2章『超アクティブ!驚きのクリエイション』

絵本づくりの作業のなかで、僕たちのペアは絵を描くだけでなく、あらゆる立体物を作りました。絵本でどんな場面があるか二人で話し合い、話の中で登場するキャラクターを立体にしてみたり、登場するレストランは絵を描く前に実際にジオラマを作りました。ももろうはとにかく作業が早く、発想の瞬発性には驚くものがありました。VIVISTOPに置いてある素材はなんでも使い、試してみたいことはどんどん試します。僕も手を動かしている方がアイデアが出やすいタイプで、二人での作業はとにかく手を動かしていました。

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主人公たちが訪れる、森のレストランのジオラマ。話し合いながら細部にわたり作り込んでいきました。

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背景の草の制作。木くず・ボンド・絵の具をまぜて立体的な表現にしました。発想が自由で柔軟で、感心していました。

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買ってきたコーヒーで紙を染めて、古い地図の質感を表現しました。コーヒーを何度もかけて色合いを調整しました。あえてクシャクシャにしたり破くことでビンテージ感を出しています。数日経ってもコーヒーの香ばしい香りが漂っていました。

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背景に出てくる花やダイヤを、折り紙を使って立体制作。ユーチューブを見ながら何度も作り直していました。

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作中での花火のシーン、どんな表現がいいかキラキラ折り紙を使って試行錯誤。色の配色と大きさのバランスを気にしながら作っていました。

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物語のキーになるダイヤモンドをグルーガンを使って試作。立体のダイヤの形に透明グルーでコーティングしました。グルーガンが気に入ったらしく、永遠とグルーを付け足し続けダイヤが最終的にグルーボールとなりました。

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ももろう自前の3Dペンによるダイヤモンドの試作。色味はどれがいいかなど、実験をもとにサンプルを並べて意見を聞いてくれました。


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透明フィルムを使いライトで照らしてるように見える仕掛けの試作。ももろうは絵本の仕掛けに対する関心が強く、様々な仕掛け絵本を知っていました。お母さんのサポートもあり具体的なしかけ絵本のアイデアがどんどん出てきました。やりたいことがたくさんありましたが、今回はこの仕掛けを絵本の見せ場に盛り込んでいくことになりました。

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絵本の背景や色の素材作成。この時が作業の中で一番エキサイトしていました。様々な色で筆を走らせたももろうは止まることなく、買ってきたロール紙をほとんど使い切りました。ももろうは色に対して敏感で理想の色味を目指して水分量を気にしたり、時にはニスを混ぜたりして、いい色ができるととても喜んでいました。あまりのエキサイトに友達をも巻き込んでライブペインティングのようでした。思いのままに描いた絵は、活き活きとしていて何とも言えない色味や雰囲気がありました。二人で話しながらどんどん色を乗せていくことは、アーティスティックでとても気持ちがよく、遠慮のない良い協働作業になったと思います。

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第3章『予想外!バランス崩れて作業難航』

二人の作業はとにかくアクティブでスピード感があり、順調に作業が進んでいる手応えがありました。ミーティングの度に新しいアイデアが生まれていき、楽しい作業の日々が続いていました。
そんな二人にもうまくいかない時期がありました。それは、背景の配色を決める段階の時です。僕はできるだけももろうの意思を反映したいという思いが強くあり、全てをももろうに委ねてしまったのです。
ここの配色はどうしたい?色を自由に塗ってみて?などももろうに投げかけてばかりでした。すると、ももろうもあまりノリ気ではない感じでいつものスピード感を失い、集中が切れ、しまいには作業に飽きてしまいました。作業の早いももろうならすぐ仕上げてくれると思っていたので、この時は本当にどうしたらいいのかわからない状況でした。自分が決めてしまってもいいけれど、それでは絵本が完成した時にももろうが自分の作品だと実感できないんじゃないかと悩み、何とも言えないどん詰まり感がありました。
しかし、ももろうのある一言で道が開けました。あるミーティングでももろうが配色を色えんぴつで決めている時「ふくろうも一緒に塗って!」と言ってくれたのです。そこでハッと気づいたのですが、完全に任せたことがやらされている感につながってしまっていて、いくら作業の早いももろうでも一人だけの作業は楽しくなかったのです。二人で作業するから、楽しい、アイデアを出し合って、閃きがうまれる。二人の得意なかたちをももろうが取り戻してくれたのです。それからはバランスを何とか持ち直し、作業は進んでいきました。


実はあまりうまく作業が進んでいない時の風景。多くをやらせてしまい、宿題をやらされているような感じだったなと、今では思います。

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第4章『コロナ襲来、大胆な方向転換!』

コロナが襲来し、VIVISTOPでの作業ができなくなりました。ライブ感のある協働作業を得意としていた二人にとっては、かなりの向かい風でした。ZOOMミーティングが基本となり、会えないなかでもお互いに描いたものを見せ合い、話の脱線は多々ありましたが、一緒にミーティングに参加していただいた笹川さんに支えてもらいながら作業は進んでいきました。
会えなくなってからは基本的に僕が作業を進めていき、チェックしてもらいたいところをももろうの意見を聞いて取りれていきました。絵本も仕上げの作業に近づいていたので全ページにわたり膨大な量をこなしていくことになり、作業量に押され、思っていたスピードで作業が進まず、やる気との戦いでした。ところが、あるミーティングで一気に作業は加速します。
主人公たちの絵を最終的に僕が描いていく予定でしたが、ももろうがどんどん意見をくれているうちに「キャラクターの絵を全部描こうか?」と言ってくれたのです。僕は驚きましたが、同時にすごく嬉しかったです。あまりうまく描けないと言っていたももろうが、自分から描こうとしてくれている。僕自身も、最終的にキャラクターを全部描いてしまっていいのだろうか、という違和感をずっとどこかで感じていたのです。
今まで作ったキャラクターの下書きを全部差し替えることになりましたが、作業量を上回るやる気と熱量があったので、二人でそれでいこう!となりました。それからのももろうの作業は凄まじく早く、ZOOMミーティング中に原画を仕上げていくという、驚きのアウトプット量でした。それに呼応するかのように、ももろうの描いてくれた原画からエネルギーをもらい夢中で仕上げ作業に取り掛かりました。ZOOMミーティングは離れているからといって、悪いことばかりではなく、少し離れているから気づけることがあったり、お互いに良い距離感で作品を見つめたりすることができました。
大胆にも方針を変えた作業になりましたが、二人の絵本にとって良い方向に舵を切れたと思います。

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第5章『ももろうとふくろう、終わりなき物語』

ももろうとの作業は、いつも対等に意見し合い相乗効果の出やすい良い関係でできたと思います。僕が作業を仕切るのではなく、時にはももろうが「ちょっと散歩しよ!」とブレイクタイムをとってくれました。

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散歩中も水の動きに関心を持ったり、移動は基本的に走ったりと、ももろうの探究心とアクティブさが出ていました。

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柏の葉キャンパス駅の近くの植物トンネル。綺麗だね、絵本に使えそう!と二人で良いスポットを見つけました。後に絵本に出てくるこまち山の入り口のモチーフになりました。

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このように、二人はフィールドワークをやったりと常に動いて活動していました。主人公の二人が協力して冒険をして行くように、同時に僕たちも絵本づくりという冒険をしていたように思います。作業の難航も二人でアイデアを出し合ってなんとか乗り切りました。絵本づくりを通して、ももろうとはなんでも作れそうだなと思えるくらい、相性が良かったと感じます。今回の絵本づくりは、プロの編集者さんや、VIVITAの方々にもたくさん支えられなんとか達成することができました。

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しかし、ももろうとふくろうの物語は終わりません。絵本の入稿後も作業は続きました。絵本のなかに出てくる「たぼライト」を実際に作ったり。キャラクターのグッズがあったらいいね、などアイデアは増えていきました。お互いの母親をも巻き込みぬいぐるみ作りまで発展しています。

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さらには、続編を作りたいねとお互いに話していて、プロジェクト外でも自分たちで絵本をつくりたいと思っています。初めて会ってからの勢いそのまま、ももろうとふくろうの物語はまだまだ続きそうです。


『おわりに』

読んでいただきありがとうございました。大学でものづくりを体験していましたが、ももろうから教わることはたくさんありました。初めは絵本をつくるだけのプロジェクトだと思っていましたが、協働制作として多くを体験をし、二人で作業スタイルを作っていく、クリエイター同士のコラボレーションのように感じました。ペアとして対等な関係を築くことができ、より人間的にももろうのことを知ることができたと思います。二人のアイデアとこだわりがてんこ盛りの一冊となっているので、絵の隅々まで楽しめると思います。これからの、ももろうとふくろうの活動にも要注目です!お楽しみに!

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TO BE CONTINUED


【ふたりの旅路】

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