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|massaging capsule|アームコルセット専門店

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|4th floor|デザイナー渋谷美緒。 脆く傷付きながら懸命に自立する人物像をイメージし、そのような人たちが強くあるための殻としての服飾品をデザインしている。ブランド名はE・…
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#massagingcapsule

massaging capsule|スカラップに魅せられて

 これっきりで廃番になってしまうというモダンな扇子柄のフリルレースを、どうしても今こそアームコルセットに使いたい、という強い思いからスタートしました。  人々がパフェのように甘い新しいジャズとモードを求めた20年代をイメージして、腕に沿うように離れるようにリズミカルな形を作りたかったのです。  ヴィクトリアンからアールデコの時代にかけてのファッション、とりわけ小物類にはこのレースのように半円の連続する「スカラップ」のデザインがよく採用されています。  美しい形をモチーフ

massaging capsule|路地裏、幻のカフェへ

 夏の午後。家の裏手にある木戸をくぐり抜けて、砂利道を足裏に感じながら私は出かけました。いつも途中で迷ってしまい辿り着けないカフェを目指して。  そう確か百日紅の大木がある家が曲がり角の目印です、間違えないように。満開の花の下を、猫の通り道ほどの路地の生垣を縫って進みます。  突き当たりに手書きの看板を見つけました。白い洋館風の看板建築は今日こそは目の前に佇んでいました。左右対照の大きな窓の木枠には旧い模様のガラスが嵌められて、泡立て器とボウルの擦れるリズミカルな音が中か

massaging capsule|月夜に駆けて

 今夜は、誰でしたっけ、たいそう高貴だとかいう紳士を紹介される予定と聞いていたのでした。今夜のために時間をかけて結い上げたヘアスタイルも優雅に仕上がっていました。   けれど、彼女は舞踏会を抜け出すことに決めました。混じり合った香水の強い匂いはそろそろ耐え難く、次から次に微笑む完璧な人達の、これまた完璧な社交辞令のお喋りには頭痛がし始めていました。それに何より、良く似合うドレスに着替えた、その直前まで夢中で読んでいた本の、しぶしぶ栞を挟んで閉じた物語の続きがどうしても気にな

massaging capsule|冬の舞踏室の記憶

 ある年の12月でした。私は友人と英国のブラックプールにいました。オフシーズンの避暑地は人もまばらで、夏には賑わう海辺の土産物店も、桟橋の遊園地もゲームセンターも閑散としていました。  街の名所である大きな塔に併設された、旧いボールルームを見学していたときのことです。  数歩先を歩いていた友人が、笑いながら振り返り、それから急に怪訝な顔になりました。「いま、トントンと肩を叩かれて、あなただと思って振り向いたけれど違った」と言います。またまた、と受け流しかけた私の耳に、小走り