パブとタイ料理、の話。
ロンドンの暮らしで最も気に入っているもののうちの1つ。
パブである。
今住んでいる街からなかなか離れ難いのは、いいパブが多いという理由も多分にある。
週末の夜は多くの若者で賑わうパブ。
少し価格設定高めの、でも丁寧に作られている料理を楽しみながらゆっくりできるパブ。
スポーツ観戦にうってつけのパブ。
目的やその日の気分に合わせて行くパブを選べるなんて、こんなに素敵なことはない。
生粋のイギリスの人々は、もちろん一般化はできないが、何もご飯を食べずにずっと同じ種類のビールを飲み続ける人が多いように感じる。
ロンドンに来た当初はどうしてもその飲み方が体に合わず、かと言って自分だけ食事を頼むのも気が引けて、ポケットに入る小袋サイズのポテチを家から持参してひっそり食べながらビールを飲んでいた(店員さん、ごめんなさい)。
最近はビールだけ飲むスタイルに慣れてきた気もするが、とはいえ、美味しいご飯とビールを一緒に楽しめるに越したことはない。
パブのご飯と言えばフィッシュ&チップス、ハンバーガー、日曜日であればサンデーローストなんかが定番だが、イギリスのいくつかのパブでは少し意外な取り合わせの食事を楽しむことができる。
それがタイ料理。
なぜパブ×タイ料理なのか。
調べてみたところ、21世紀初頭にタイ政府が観光戦略の一環としてgastro-diplomacy campaignなるものを開始したことが発端のようだ。これは世界各地にタイ料理レストランを増やすことでタイ料理をさらに普及させることを目指していて、進出先にはイギリスも含まれていた。
イギリスでは新しくタイ料理の店舗を構えるよりも、既存のパブを利用して料理を提供する方がリスクが少ないと考えられたことから、パブのスペースを利用したタイ料理店が増えていった。
さらに、タイ料理はもともと屋台での提供がベースとされているため、広大なスペースを必要とせず調理も素早い点、エスニックな料理はビールとの相性が良い点なども相まって普及が進み、現在では少なくともロンドンにある30のパブがタイ料理を提供しているという(参考:https://www.economist.com/culture/2023/02/08/thai-restaurateurs-and-british-pubs-have-proved-a-perfect-pairing)。
この事(史)実を知って以来、パブとタイ料理の組み合わせを私はずっとどこかで探していた。
あえて調べて行ってみてもいいけど、どうせなら、ばったりと出会ってしまいたかった。
ある日友人と遊んだ帰りにご飯を食べることになり、近くにあるお店を探してみると、パブとタイレストランがくっついたような店を見つける。
おお。ついにパブでのタイ料理を試す日がついにやってきた。
そのパブには中庭があって、タイレストランはその中庭を利用して設られていた。植物がもりもりと生えていて、何だか異世界に誘われそうである。
飲み物はそのレストランスペースで頼んでもよし、パブで頼んだ飲み物を飲んでもよし、というスタイル。
適当に何品か頼んでみる。やはり提供は素早く、注文してから比較的すぐに出てきた。
食べてみる。
…おいしい。かなり本格的。うれしい。
ロンドンに来て2年。
まだ年数は浅いながらもこれまで色々な場所でご飯を食べたけれど、このパブ×タイ料理という組み合わせは、私の好みと欲求を真っ直ぐに貫く、なんとも心強い存在になっている。
おしまい。
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