ハンドアウトの文面の話
ハンドアウトの話をします。
ハンドアウトの、おもに自由記述形式の文面を作成するうえでの要点とか、そういうやつです。
自分が説明するときのベースを明文化しておきたかった、という理由が主です。各々が利用したいように利用してください。
ところで、ハンドアウトといってもいろいろあります。
本稿において、「ハンドアウト」というのは、「TRPGの、セッション本編の開始前に、すべての参加者に対して提示される、❝プレイヤーキャラクターにもとめる性質やふるまい❞を記述した文書」と定義しておきます。「エントリー」とか、ほかの呼び方をされるケースもありますね。
つまり「NPCのハンドアウト」とか「一部のプレイヤーのみが閲覧できるハンドアウト」とか「セッション中に提示されるハンドアウト」とかは対象外です。
あと、「プレイヤーは(ハンドアウト等の)事前に提示されるいくつかの情報をのぞいて、シナリオの全容は知らない」ことを前提としています。
◉ハンドアウトの目的
ハンドアウトは道具です。そして道具とは❝何かを改善する❞べき、ひらたく言い換えるなら❝メリットをもたらす❞べきものです。
たとえば、多くの本にある「目次」や「索引」なども道具です(――そしてこれらは❝読者が参照したい情報にたどりつきやすくする❞メリットを期待されています)。
適当な本、たとえば現在すさまじいブームになっている『鬼滅の刃』の単行本(リンク先はAmazon、試し読みできます)などを見ても、本編のまえに「人物紹介」「あらすじ」「目次」(もっというと「表紙」や「口絵」)などがありますね。これらも道具です。
「道具」を「手段」「方法」と言い換えてもよいでしょう。
では、ハンドアウトという道具=手段=方法に期待されるメリットは何でしょうか?
いろいろかんがえられますが、端的にまとめてしまうならば、つぎの2点に集約されます。
◯興味をひく
◯展望を共有する
このふたつのメリット=目的を実現するのが、よい(※❝目的に適う❞というニュアンスです)ハンドアウトといえます。
◉目的1:興味を引く
ハンドアウトに課されるひとつめの目的は、「興味をひく」ことです。
これが発揮されるタイミングは、3つに分けられます。
①シナリオとしての頒布時やプレイヤーの募集時など、「シナリオ自体への興味が問われる」タイミング
②ハンドアウト希望の検討時など、「プレイヤーキャラクターの位置づけへの興味が問われる」タイミング
③ハンドアウトを踏まえてセッション中のふるまいを構想する、「セッションへの興味が問われる」タイミング
まぁ、この3つはきっぱりと(明確に)分かれているものともいえなかったりはします。募集に応募する段階で「このハンドアウトをもらって◯◯したい」などと考える場合もあるでしょうし、応募と希望提出が同時の場合もあるでしょうし、応募時にいだいた興味はそのあとも続く場合がおおいでしょうし。
裏を返せば、興味が問われる機会は多く、広いということでもあります。だから「興味をひく」のは重要です(――応募者がいなくて立卓しないのも困るでしょうし、誰からも希望されないハンドアウトがあっても困るかもしれませんし)。
……と言うまでもなく、まぁ、あつまってセッションをしよう(あるいは頒布するシナリオを手にとってほしい)という場面で、興味関心が重要だ、なんてことは、みなさんおおむね、体感として知っていることでしょう。
さて、ハンドアウトにいだく「興味」とは、具体的にどういうものでしょうか?
❝そもそもなぜハンドアウトで興味をひくのか❞という話をさきにしましょう。ハンドアウト以外にも、いろいろな道具――タイトル、セッショントレーラー、イメージ画像、レギュレーションの提示、著者やGMのネームバリュー、システムの種類など――があり、それらにも「興味をひく」効果はありますし、それを狙って仕込んだりもします。しかし、ことプレイヤー向けの効果をねらうなら(=プレイヤーからの興味を期待するなら)、その最も中心的な役割を担うのは、ハンドアウトだと考えます。
なぜなら、(いろいろな道具のなかで)「プレイヤーキャラクターに最も近い位置にあるのはハンドアウト」であり、「プレイヤーはプレイヤーキャラクターを通してセッションに参加する」からです。プレイヤーにとっての起点はプレイヤーキャラクターだ、ということですね。あたりまえのようではありますが、これは非常に重要な点です。たとえば私(筆者)は、セッショントレーラーより優先して(さきに)ハンドアウトを見る場合がおおいです。
話をもとに――「ハンドアウトにいだく興味とは具体的になにか?」にもどすと、「どういうキャラクターをやればよい/やってよいのか」「キャラクターでなにをすればよい/してよいのか」が、その答えです。「このハンドアウトからすると、◯◯をすることがもとめられていて、そうか、□□もできるな」といった感想(理解)をプレイヤーにいだいてもらえて、それがハンドアウト作者の意図に合致していて、それがプレイヤーにとって刺激的ならば、おおむね成功=目的の達成です。
なお、シナリオ頒布の場合、そのシナリオを入手(購入)する際にプレイヤー的思考があるとはかぎりません。そのため、募集/応募時や希望提出時などにくらべると、いくらか、ハンドアウト中心的ではない思考をする=それ以外の道具(イメージ画像など)がより重要になるといえます。
◉目的2:展望を共有する
ふたつめの目的は、「展望を共有する」ことです。「シナリオの(展望)」でもありますし、「セッションの(展望)」でもあります(――いざセッションをする段においては、両者の区別はあいまいですし)。
よくある❝ハンドアウトの書きかた❞みたいなガイドは、この目的にフォーカスしているものがおおいような気がします(※ただの体感ですけれど)。というのも、もともとこの目的のために発展してきた道具のはずなので、自然なはなしといえるでしょう。
まずは例(架空のハンドアウトです)をひとつ。
▼ハンドアウト
あなたは買い物の用があり、辺境から王都までやってきた。
すると、街は陰鬱な雰囲気につつまれているではないか。
住民をつかまえて聞いてみれば、「王が虐殺をしている」と言うのだ。
なんたる邪智暴虐の王か。生かしてはおけぬ。
あなたは短刀を手に、王城へと向かった。
元ネタは『走れメロス』(太宰治)の冒頭部です。
このハンドアウトは、「プレイヤーキャラクターは邪悪をにくむ心をもち、それにもとづいて王を誅戮すべく、王城へと乗り込む」ことをもとめています。たぶん、暴君を暗殺する筋書きなのでしょう。並み居る警邏の兵をなぎ払い、またはかいくぐり、刃を王へと届かせる。あるいは荊軻(『Fate / Grand Order』で有名になりましたね)を連想するひともいるかもしれません。
さて、ここで、『走れメロス』の内容をご存知のかたは疑問されたことかとおもいます。実際の『走れメロス』は、暴君を暗殺する話ではありません。その試みは早々に失敗します。殺害を決意した次の段落で、「王城に向かい、進入して、捕縛される」顛末をあっさりとたどります。暗殺の意志は、ただの導入の一手順でしかなく、作品の主要部分(=❝殺されるために走る❞)はまだ姿を見せてもいないのです。
さてさて、上に挙げた架空のハンドアウトにもどりましょう。この架空のハンドアウトをもつ架空のシナリオの中身が、『走れメロス』同様だったとしたら?
プレイヤーは、❝王を暗殺するシナリオ❞、言い換えると❝暗殺の過程と結末を演出するシナリオ❞だとおもっています。実際のシナリオでは、暗殺などまるで重要ではないのに。これはおおいなる不幸というものです。セッションは導入部で暗礁にのりあげることでしょう。ナムサン!
この例は極端だとお思いかもしれませんが、似たような事例はままあります。ようするに「❝ハンドアウトからプレイヤーが読み取った展望❞と❝実際の展開❞が食い違っていると問題が起きる」ということです。
◆「人食い竜とおそれられるドラゴンを討伐しに行ってみれば、じつは本来のドラゴンは善良で、邪悪な魔術師に洗脳されていただけだった」
◆「依頼を受けて宝探しに繰り出してみれば、じつはその依頼は、かつてプレイヤーキャラクターの仕事で不利益を負った依頼人が、プレイヤーキャラクターを抹殺するための狂言だった」
◆「大軍相手に決死の防衛戦を余儀なくされるが、じつは秘密の通路から敵将の暗殺という秘策がある」
――などのように、「初期時点で提示される光景と、実際の展開がことなる」作劇はよくあります。よくあるのは、それがエキサイティングだからですが、TRPGにおいては少々事情がことなります。プレイヤーは(提示された一部の情報(ハンドアウト等)をのぞいて)展開の全容を知らず、しかしその状態で展望をもつからです。
上記の「じつは」以降の部分をプレイヤーが想定できない場合、言い換えると❝想定できないようなハンドアウトを提示していた場合❞、本来はエキサイティングなはずの局面が大惨事へと変わります。
【ハンドアウト】「人食い竜とおそれられるドラゴンを討伐せよ」→
【プレイヤーの想定】「家族をドラゴンに殺されて復讐だけを考えているキャラにしよう」→
【実際の展開】「このドラゴンは被害者にすぎない」
【ハンドアウト】「宝探しの依頼」→
【プレイヤーの想定】「夢見がちな新米冒険者をやろう」→
【実際の展開】「プレイヤーキャラクターが過去にこなした仕事で不利益を負わされた依頼人による報復」
【ハンドアウト】「大軍相手に決死の防衛戦を敢行せよ」→
【プレイヤーの想定】「いかなる状況でもひるまず正々堂々とたたかう英雄的戦士をやろう」→
【実際の展開】「隠密行動によって敵将を暗殺せよ」
どれもまったく大惨事ですね。その場の参加者がうまければ、あるいはなにかがうまくいけば、まるく収まるかもしれませんが、だからといって好ましい事態でないことは、まずまちがいないでしょう。収拾に時間やエネルギーをとられますし。
じゃあ、これを避けるには、どうすればよいのでしょうか? その答えが本題、つまりハンドアウトの目的2「展望を共有する」ことです。
というか、本来はむしろ、例示してきたようなミスマッチ(❝事故❞ともいえます)を避けるための道具が、ハンドアウトなのですよね。誘導のツールなのです。誘導効果の先が、正しからざる方角に向かってしまう可能性もある、というだけで。
ただしい(=シナリオが想定する)方角に向かわせるためには、ハンドアウトに工夫が必要です。といってもそれは単純なもので、「最終的に向かわせる方角までをハンドアウトで示しておく」だけです。
例をあげます。
ハンドアウト
人食い竜とおそれられる、強大にして知恵あるドラゴンがいる。
あなたはその討伐を依頼された傭兵だ。
しかし先行偵察隊の報告によると、ドラゴンはまるで正気をうしなっているようであり、周囲には人間の姿も見えたようだ。
ハンドアウト
あなたは宝探しの依頼を受けた。
報酬は相場より上。悪い仕事ではないはずだが……宝の在り処として指示された場所が、あまりにも荒唐無稽。
この仕事、なにか裏があるのかもしれない。冒険者として培ってきた勘が、そう告げていた。
ハンドアウト
あなたは騎士だ。あなたが護るべき街は、いま敵国の大軍に包囲されている。
決死の防衛戦を敢行したところで、勝ち目はきわめて乏しい。
だが、軍師が秘策をもたらした。秘密の地下道を通れば、敵将がいる天幕の近くまで接近し得ると。
このくらい書いておけば、「じつは」以降の部分をプレイヤーも想定できるでしょう。すくなくとも、「じつは」の前の部分のみの想定で臨んでしまうリスクは激減します。
シナリオのすべてを書いておけ、という意味ではありません(――そんなことをしたら、シナリオ全文に匹敵する長文になりかねませんし)。重要なのは、「シナリオのメイン部分のレールまでただしく誘導する」ことです。『走れメロス』でいえば、村から「雨中、矢の如く走り出た」あたりまで誘導できればよいのです。川や山賊のくだりまで誘導する必要はありません。
たとえば、上の❝宝探し❞のやつは、あいまいな書き方しかしていません。「依頼には裏の意図があり、それを警戒すべき」というところまでの誘導にとどめています(ついでに、しれっとベテラン冒険者を要求しています)。プレイヤーには、そのあとの展開が「依頼人はプレイヤーキャラクターへの報復を企図している」なのか「依頼人は犯罪の片棒をプレイヤーキャラクターに担がせようとしている」なのかはわかりません。しかし、いずれにせよ「シナリオの本題は宝探しより依頼人の背景」という誘導は読み取れるはずです。つまり、そこで❝レールに乗っている❞という判断です。もちろん「あの依頼人には見覚えがあるような」などと書いて、過去の因縁をほのめかしてもかまいませんけど。
◉まとめ
◯ハンドアウトの目的はふたつ:「興味をひく」「展望を共有する」
◯プレイヤーはプレイヤーキャラクターを起点にセッションやシナリオをとらえる。「◯◯をすることがもとめられていて、そうか、□□もできるな」という理解&意欲を引き出せれば成功。
◯ハンドアウトでは、シナリオのメイン部分のレールまで誘導する。導入の途中で投げ出さない。逆方向への転換があるなら、ほのめかしておく。
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