バトル描写好きに勧める『第六猟兵TRPG』

 『第六猟兵TRPG』の紹介をします。

PBWのTRPG版

 これはプレイ・バイ・ウェブ『第六猟兵』(以下、“PBW版”)をもとにつくられた、TRPG版にあたるものです。内容はかなりの大部分でPBW版と一致しています(もともとプレイ・バイ・ウェブとTRPGは隣接分野のホビーですしね)。たとえばPBW版のユーザーなら、5分とかけずに流し読みだけでプレイできるでしょう。(あ、筆者はPBW版のユーザーでもあります)

どんな立て付けのゲーム?

 オフィシャルの解説がよくまとまっているので、それを眺めるのをオススメします。

 アバウトな類型としては、PCは特殊固有能力――『HUNTER×HUNTER』の“念能力”や『ジョジョの奇妙な冒険』の“スタンド能力”、あるいは『Fate』の“宝具”などがイメージに近いでしょう――を持ち、世界をおびやかす敵とたたかう……系統です。既知のTRPGでいうなら、『アルシャード』や『コード:レイヤード』などが同じ系統と言えるでしょう。

マクロな行動単位

 さて、実際にあそぶと、どういうゲームなのでしょうか?

 その最大の特徴は、「戦闘の行動単位がマクロである」ことです。

 ……というだけでは、よくわからないかもしれません。例をあげてみましょう。

  ◯マクロな行動単位での戦闘:まずは相手が放つ拳銃の弾をさばく。弾道を見切って、急所にあたるものだけを腕で防御。いくらかの被弾はしょうがない。反撃はそのあと、再装填の瞬間だ。一秒もないだろうが、それで充分――彼我の距離は十メートルそこらで、オレの踏み込みは音速を超える。接近の勢いのままに掌打。銃や、それを持つ腕を優先的に狙う。「さぁ、もっかい試してみようぜ。てめえの銃とオレの拳、つぎはどっちが速いかをな」

 ここまでがワンセットの宣言です。段階的・多角的な戦闘のながれが、ひとつの行動単位にふくまれています

 これがたとえば、マイクロコマンド型(※小さい単位の宣言をつみかさねていく形式、という意味の独自語です)だと、次のようになるでしょうか。(あ、どちらがいいとかわるいとかの話ではありませんよ?)(この例は架空のゲームです)

  ◯マイクロな行動単位での戦闘:行動値を比較 → 敵の手番が先 → 攻撃宣言 → 命中 → PCが《とっさの護り》スキルでダメージを軽減する → PCの手番開始 → 移動タイミングで隣接 → 攻撃タイミングで《ヘビーパンチ》スキルを使用 → 命中 → ダメージ → 相手に命中ペナルティ効果が付与される → キメの演出

 これで伝わるでしょうか?(前者=マクロ側の例も、演出ではなくて宣言です、ねんのため)

 つまり、「細かい単位で逐次的に解決するのではなく、大きな単位で総合的に解決する」戦闘なのです。

 これによって、個々の瞬間瞬間の表現ではなく、ある程度まとまった流れの表現が可能となっています。
 言い換えましょう――「上で挙げたマクロ型の宣言のような描写を、セッション中に、ダイスを振るまえに、まとめてできる(し、することが推奨される)」のです。これは、「カッコイイ戦闘描写」を好むプレイスタイルにとって、非常に快適なルールです。(逆に、戦闘描写にとくに興味がないのであれば、奏功しないルールではあります)

 マクロ宣言はなにも“とっぴ”な設計ではなくて、マイクロ宣言型ゲームにしばしばみられる“情報収集判定”にちかいものです。“情報収集判定”も、たとえば「現場の痕跡から容疑者の逃走経路を絞り込み、目撃者に聞き込みをしながら、追跡していく」などの段階的・複合的な表現を、ひとつの宣言&判定に託しますよね? それを戦闘にも適用しているとかんがえれば、理解しやすいでしょうか。

能力が均等

 『第六猟兵TRPG』が有するもうひとつの特徴は、「PCの能力が均等である」ことです。

 これは建前や、「だいたい均等になるように調整されている」のではありません。断じて均等なのです――なぜならば、キャラクター依存の数字のやりとりが存在しないからです。

 このゲームに存在するデータは、ルール上の数字をもちません。たとえば、つぎのふたつの技があるとしましょう。(※実在しないデータですが、雰囲気は踏襲しているハズです)

  《ホーリースラッシュ》――聖なる光を神剣バルムンクに宿し、対象を攻撃する。それは防御力を無視し、特に吸血鬼・死者・竜に大きな威力を発揮する。

  《ラピッドショット》――またたきの間に6発の弾丸を、20メートル以内の対象に撃ち込む。不意をつければ命中率は2倍。

 「防御力」「威力」「吸血鬼・死者・竜」「6発」「20メートル」「命中率」「2倍」などのワードがありますが、これらはすべてルール上に存在しません。フレーバーテキストです。言うなれば、データはフレーバーテキストのみを持ちます
 ゆえに、数値的な優劣が存在しません――上のふたつの技に、優劣のつけようはないハズです。

 そして、これらの技は、ルールブック内に定義されたものもありますが、一定の規則下で自作もできます。これが超楽しいです。詳細はオフィシャル記事の『ユーベルコード例』をながめてください。

バトル・ストーリーテリング・ゲーム

 非公式にジャンル定義をするならば、「バトル・ストーリーテリング・ゲーム」とでも言えるでしょうか。戦闘のストーリー(※広義で解釈してください。“バトル展開”みたいなニュアンスです)を表現していくゲームです。

 ストーリーテリング・ゲームと言うと、いわゆる心情系を連想するひともいるかもしれません。(ほかの多くのTRPGシステムがそうであるように、『第六猟兵TRPG』もまた)やろうと思えば心情系のあそびもできますが、ゲーム構造上の軸はバトルにあります。――なにせ、世界の敵とたたかうゲームですから。
 (上でも引用した『アルシャード』や『コード:レイヤード』がそうであるように、『第六猟兵TRPG』も)敵との戦いが軸です。そのうえで、戦闘をとおして心情を描写するのもまた、可能なあそびかたですし、メジャーなストーリー類型のひとつでもあるでしょう(『鬼滅の刃』とか、そうですよね)。

まとめ

 まとめると、

  ◯固有能力(自作可)を持つPCをつくって、世界の敵とたたかうゲーム

  ◯バトルの行動単位が大きく、段階的・複合的または込み入った表現が容易にできる

  ◯キャラクターに依存する数値のやりとりがないので、PC間で完全に均等な能力

 が特徴のゲームです。

 電子版もある(というか電子版のほうがさきにリリースされました)ので、外出も配送も必要なく、ワンクリックで買えます。バトル描写が好きなひとに、たいへんオススメです。

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