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本日、【ビキニ】で失礼します

スペインの第二の玄関口バルセロナ。スペインが生んだ天才建築家ガウディの代表的建築物であるサグラダ・ファミリアとグエル公園はあまりにも有名。バルセロナ見学をする時間がなくても、この二箇所でピースをして記念撮影をしておけば、「バルセロナに行ってきてん」という証拠写真となる。

しかし、それでは余りにも味気ない!

そこで、せっかくバルセロナに行ったのだから、もう一つ、お土産話のネタを収集してみよう。

方法は簡単。バルセロナのバルで、『ビキニ』を注文する。『ビキニ』といっても、セクシーなビキニを着けた美人のスペイン人女性のが踊り出てくると思ったら大間違い。鬼が出るか蛇が出るかはもう少し先へ。


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バルセロナ領事館へ立ち寄った際、朝食がてらにフラッと入ったバルのカウンターに座る。

「『ビキ二』と『カニャ』を一つずつ!」
「……。」

無駄にカッコいい無愛想な店員が一人。バルセロナを含むこの辺りには、こういうカタいタイプの人間が多い。カタルーニャ地方と言う。ちなみに、『カニャ』というのは小さなグラス生ビール。お兄さんは無言でグラスを傾けて、汗をかいたビールサーバーから生ビールを直接注ぐ。

(朝からビール?)という突っ込みは、今回は無視させていただきます。

間もなく、冷たい生ビールが運ばれてくる。やっぱり無言でカウンターにサッと出されたのは、鉄板でカリッと焼かれた二枚の角食パンに、ヨークハムとチーズが挟まれたホットサンド。中央で斜め半分に切ってある。

そう、これが『ビキニ』

スペインの他の地方では『ミックス・サンドイッチ sandwich-mixo』と呼ばれているのに、なぜかバルセロナ一帯でだけ『ビキニ』と呼ばれている。当然、食べ物とは全く関連性のない『ビキニ』という名は、一体どこから?と、想いを馳せてしまうのだけど、まず、思いつく理由がこれ。

パンが上下に分かれたセパレーツタイプだから。

おまけに、二枚のパンの間にハムとトロリと溶けたチーズが挟まっている。B90W60H95の悩殺プロポーションではないものの、ちょと豊満なおネエさんだと思えば、想像できなくもない。いや、きっと、そういうことだろう。

そして、よせばいいのに、お兄さんに聞いてしまった。

「ということは、蓋になる上のパンがないオープンサンドは『トップレス』?」

「…………。…………ふぅ。」

撃沈……。
無言の沈黙に続くため息。痛すぎる。これがバレンシアあたりのバルなら、「いいねぇ、トップレス! 上下ナシとかいうのもあるのかねぇ~」と軽くノッてくれかもしれない。期待した私が悪い。ただの怪しい東洋人のおばちゃんになってしまった。あぁ、悔しい。

まあいい。トロッと解けたチーズが程よく伸びる。パンには薄くバターが塗ってあって、チーズが伸びるのにあわせてフワリとバターの香りが漂う。

オリーブオイルが中心のスペインでは、バターが使われていることがあまりない。豚食文化が根強く、バターではなくラードが使われるからだ。クロワッサンをはじめ、バターを使う食べ物が美味しいのも、ヨーロッパ諸国への玄関口フランスと国境を共有するバルセロナならでは。

さて、肝心の『ビキニ』。

種明かしをすると、『ビキニ』は1953年にオープンしたビキニというダンスホールの名に由来する。今までになかったテラス席やミニ・ゴルフを設置するなど、新しい切り口満載のダンスホールは、人気の社交の場となり、特に、『お店のボカディージョ』と呼ばれた食べ物は、瞬く間にバルセロナっ子の間で話題となった。

実は、この『お店のボカディージョ』こそが、かの有名なフランスの『クロック・ムッシュ』だった。当時はフランコの独裁政権により、英国風やフランス風といった海外の風は遮られ、フランス産だと公言したものなら危険すら伴う時勢。苦肉の策で名づけた『お店のボカディージョ』は、その謎めいたネーミングが逆に高じて、次第に、どこの店でも『ビキニで作っているもの』と求められるようになり、ついには『ビキニ』という名が定着してしまったらしい。やってみるものだ。

ヨークハムとチーズを挟んだパンがサックリと音を立てる。何度か噛むと、口の中でハムとチーズ、バターが混ざり、パンがそのマッタリした脂分を程よく和らげたところに冷たい生ビールを注ぐ。

ぷはぁ~~!!

どう呼ばれてもいい。美味しいものは美味しく食べてこそ意味がある。そして、こういう食べ物の裏話が、更に絶妙な隠しスパイスとなると思ってもらえると嬉しい。

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