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『ビバおじさん』第6話

      ◇◇◇

 4月27日。11時31分。玄関チャイムが鳴る。インターホンを覗くとブタがいた。決して社長への悪口ではない。まごうことなきブタが画面上にしっかりと映っていたのだ。

 玄関を開けるとブタを抱えた社長と綺麗な奥様、そして僕を睨みつける小学6年生の娘さん。全員アロハシャツを着ているが、旅行先はベトナムじゃなかったか?

「おはようビバくん!」
「おはようございます社長。それに奥様と、娘さんも」

 奥様が「いつもお世話になっております」とお辞儀をすると娘さんは玄関に置いてあった枝を1本、手に取った。それは良い枝だ。見る目がある。

「こら、ビバくんの枝を勝手に」
「良いんですよ。気に入ってもらえたなら」

 と、話していると娘さんはその枝をぽい、と捨てた。気に入らなかったのかな。拾い上げていると「すまないね」という社長の困った声が聞こえる。

「そ、そうだ!もう我々は空港に向かわないといけなくてね。ヒルトンを頼むよ」
「ヒルトン?」
「ミニブタの名前さ。先月で5歳になった。これが1週間分のエサ、これがオモチャ、あとヒルトンの好きなぬいぐるみ」

 ヒルトンが地上に降り立った瞬間、どすん、という衝撃がこちらに来た。かなりの重量がありそうだ。インターホン越しに見た時から気になってはいたが、ミニブタと呼ぶにはあまりにも大きい。基本はピンクの表皮だが、左の耳元にリボンのような模様があって可愛らしい。

「今日の昼ごはんは与えてあるからよろしくね」
「社長、これ本当にミニブタ......」

 そう尋ねようとすると、社長たちはすでにタクシーに乗り込むところだった。社長はタクシーの窓を開けると「あ、ゴールデンウィーク最終日の昼頃に迎えに来るから!」と言い、こちらに笑顔で手を振る。憎たらしい。

 こうして僕とヒルトンの奇妙なゴールデンウィークが始まったのだ。



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