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「東武ワールドスクウェア」のミニチュア成田空港と飛行機がマニアックすぎた

先日、世界各地の名所がミニチュア化されていることで有名な東武ワールドスクウェアに行ってきました。
「現代日本ゾーン」と題されたゾーンに「新東京国際空港 第2ターミナルビル」という展示物があるのですが、これが航空ファン的にも「マニアックなところを突くなあ……」という感じで面白かったので見どころを紹介しようと思います。

せっかく航空ファン目線なので細かい話まで踏み込んでみようかと思いますが、航空に関して詳しくない方でも読める内容にしているつもりです。

なお、2004年に「成田国際空港」へと改称されていますが、東武ワールドスクウェアにおける展示名は「新東京国際空港 第2ターミナルビル」だったため、これに準拠します。

展示概要

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入ってわりとすぐのところにあります。

多種多様な航空会社のものが展示されていますが、モデルとなっている機種はすべてボーイング747-400のようです。下の写真を見ていただくとわかるのですが、747-400は主翼の端部にウィングレットが装備されています。
ウィングレットは空気の流れを整え、燃費を改善して航続距離を伸ばすためのものです。(乗りものニュースの解説が参考になります)

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それでは展示機種を見ていきましょう。

なお、展示機種の解説で「機体記号(レジ、レジスタ)」という語を用いますが、これはいわゆる「機体番号」のことです。日本は JA8901 や JA21MC のように数字が主体ですが、海外では B-HKG (香港)や EC-KXN(スペイン)のように、アルファベットのみを使うところもあるので「番号」とは言わないようです。

日本航空 (JAL/JL)  

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レジ(機体記号):記載なし
まずはおなじみのJAL。
日本エアシステムとの統合後にみられた旧塗装(5代目)、いわゆる「サンアーク塗装」です。

日本航空 貨物機 (JAL CARGO) [マニアック]

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レジ(機体記号):N211JL
実物の運用期間:1982年12月~2008年11月(1997年12月よりJA811J)
JALの貨物事業。いまは採算上の理由で保有していませんが、かつては貨物専用機を保有していました。

これ、機体記号に注目していただきたいんですが、「JA」で始まっていないんですよ。「N211JL」なんです。Nというのはアメリカ籍を示す記号で、このN211JLは日本航空の機体ながらアメリカ籍という珍しい機体でした。正確な理由は公表されていませんが、リース会社が保有していた関係とか言われています。(ただ、JA登録の海外リース機も存在しているので詳しい事情は不明です。)
普通にJA登録の貨物機も沢山いたのに、なんでこれ選んだんでしょうね。
なお、実際のN211JLは747-200貨物型です。-400じゃないのが惜しいですが、そこはまあ。

日本アジア航空 (JAA/EG) [マニアック]

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レジ(機体記号):記載なし
名前も塗装もJALのパクリみたいな雰囲気が漂っていますが、れっきとしたJALの子会社でした。(現在はJALに吸収されています。)

日本アジア航空(JAA)は中華人民共和国と中華民国(台湾)の政治的対立の影響で設立せざるを得なかった航空会社です。1972年の日中国交正常化(および台湾との断交)に伴って日本から中国本土への就航が出来るようになったのですが、中国本土に乗り入れる航空会社の就航を台湾政府が認めなかったため、台湾路線を「別会社」に分離したものです。

これと同様の理由で設立された子会社が世界各地に見られます。
・エールフランス→エールフランスアジア
・ブリティッシュ・エアウェイズ→ブリティッシュ・アジア・エアウェイズ
・KLM→KLMアジア
・カンタス航空→オーストラリア・アジア・エアラインンズ
・スイス航空→スイス航空アジア

いずれも名前が明らかに親会社と似ていたり、親会社の塗装と似た塗装になっていたり、機材が共通運用だったりと、いかにも名目上別会社に分離されたことが明らかなものでした。そんなのを「別会社」として就航させて良かったんですかね、当時の台湾政府は……

ちなみにJAAは貨物事業も行っていたのですが、JALと共通で利用する機体で「JA CARGO」という謎の社名を掲げ、本来はロゴマークが入る垂直尾翼に機体記号を大きく記載するというかなり衝撃的な姿の機体も存在していました。
(画像: Wikimedia Commonsより)

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全日本空輸 (ANA/NH) 

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レジ(機体記号):JA8960
実物の運用期間:1993年12月~2014年3月
皆さんおなじみ、ANAのジャンボジェットです。漢字で「全日空」と表記されている、2つ前の世代の塗装ですね。
なお、実物のJA8960は747-400D(日本向けの国内線専用機)だったため、ウィングレットがありません。

日本エアシステム (JAS/JD) [マニアック]

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レジ(機体記号):記載なし
実物の運用期間:就航せず
なにがマニアックかってこれ実在しない飛行機なんですよね……これで1本記事書けるまであります。

かつて日本エアシステム(JAS)という航空会社がありました。いまは日本航空に統合されています。
現在でこそ自由化されてLCCも多数就航している日本の空ですが、かつてはかなり国策でガチガチに縛られていました。この体制を45/47体制とよび、日本航空(JAL)が主に国内幹線・国際線、全日空(ANA)が主に国内線、東亜国内航空(TDA)が主に国内ローカル線を運航するという役割分担が行われていました。
1985年に45/47体制が廃止されることになり、全日空や東亜国内航空も国際線に参入できるようになりました。この際、全日空は問題なかったのですが、東亜国内航空はアジア諸国に就航するにあたって社名の「東亜」が「大東亜戦争」「大東亜共栄圏」を連想させる……という政治上の問題が発生しました。そのため、「日本エアシステム」へ社名を変更することになりました。
その後、1990年にJASはボーイング747-400を発注したとの情報があります。この時の「導入時のイメージ図」として、まさにこの模型に施された塗装のボーイング747-400が航空雑誌に掲載されていたようです。(参考:JA8094's 航空機 Diary 幻・・旧JASが747-400発注の記事を発見!
しかし、この発注はキャンセルされてボーイング777-200に切り替えられました。つまり、JASの747は幻の747なわけです。

ちなみにこの塗装、かなりボーイングに喧嘩を売っています
旧TDA/JASが保有していたエアバスA300の塗装はこんな感じです。
さらば、ヨーロピアン・エアバス A300 - (2) - Tenkuu Cafe - a view from aboveより引用)

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そして、当時使われていたエアバスのハウスカラー(航空機メーカーが航空会社に売り込む際に使う、デモンストレーション用機材に施される塗装)がこちらです。
Wikimedia Commonsより

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似てませんか?似てるというより完全に同一です。
エアバス社がエアショーにて、自社のハウスカラーに加えて「東亜国内航空 TDA」というロゴ塗装した状態でデモ機のA300を披露しました。その際、TDAの幹部がそれに感動し、ぜひエアバスの塗装をうちの会社で使わせてほしい――と頼み込んで実現したのがTDA/JASの塗装です。

話を747-400に戻しましょう。
ワールドスクウェアの模型もそうですが、当時の雑誌に掲載されたJASでの導入予想図は「エアバスカラーをまとったボーイング747」です。
結果的に747のオーダーがキャンセルされましたが、仮に納入されていたとしても、ボーイングは「納入時にライバル社の塗装を自社製品(それも当時のフラッグシップモデルである747)に施してほしい」というリクエストに応えることができたのでしょうか。
そういう意味でも「幻の機体」といえるのがあの塗装の747-400なのです。

ちなみに、747から発注を切り替えたJASの777ですが、「レインボーセブン」と呼ばれる特別塗装で納入されました。(新機種に特別塗装が施されることはよくありますが、本件についてはボーイングからエアバス塗装に難色を示されたのではないか……?という可能性もありそうです。)
(画像:Wikimedia Commonsより

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あと完全に余談ですが、私の父がJASの777導入キャンペーンに関わっていたため、筆者は幼いときにJASの777グッズに囲まれて育ちました。その結果としてこういう記事を書くようなオタクに育ってしまったような気がします。個人的には思い出深い塗装・機種です。

大韓航空 (KAL/KE)

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レジ(機体記号):HL7413
実物の運用期間:-
日本でもよく見かける大韓航空の747。
ただ、HL7413の実物はアシアナ航空で登録されていた機体記号です。なんで大韓航空の模型にこの番号が付けられているかはちょっと謎です。

アシアナ航空 (AAL/OZ)

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レジ(機体記号):HL7413
実物の運用期間:1991年11月~現在(2007年3月に貨物機に改修)
大韓航空の模型でもHL7413の番号が振られていましたが、こちらが「実物に即したHL7413」です。
HL7413はボーイング747-400Mという貨客混載型(コンビ型)のちょっと珍しい機体です。
同様に747-400Mを導入していたKLMオランダ航空のWebサイトから座席表を引用します。後部(右側)に座席ではなく貨物区画があるのがおわかりでしょうか。

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ちなみにHL7413はその後、貨物専用機に改修されて現在も運用されています。

アリタリア-イタリア航空(AZA/AZ)

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レジ(機体記号):I-DEMA
実物の運用期間:1970年5月~1981年11月
イタリアのナショナルフラッグキャリアであるアリタリア航空です。
実物のI-DEMAはボーイング747の初期型である747-100でした。
余談ではありますが、最近のアリタリア航空の機材は I から始まるイタリア籍の機体記号を付けておらず、大半が EI (アイルランド籍)です。これもリース会社の関係であるとされています。
アイルランドは世界的に見ても航空機リースが盛んな国で、AerCap や SMBCアビエーション・キャピタル(旧RBSアビエーション・キャピタル)、Avolon Holdings Limitedなどが本拠地を置いています。

エールフランス航空 (AFR/AF)

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レジ(機体記号):F-GITE
実物の運用期間:1992年3月~2016年2月
エールフランスのボーイング747-400退役記念フライトに使用された機材です。

KLMオランダ航空 (KLM/KL)

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レジ(機体記号):PH-BFL
実物の運用期間:1991年12月~現在
ワールドスクウェア内でも珍しい、まだ実物が稼働している機材です。それでも2020年末までの退役が予定、実物に乗りに行くなら今のうちかもしれません。

ブリティッシュ・エアウェイズ (BAW/BA)

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レジ(機体記号):記載なし
ブリティッシュ・エアウェイズといえば航空会社名からは推測できない「Speedbird」というコールサイン(無線呼出符号)が特徴的です。

ルフトハンザドイツ航空 (DLH/LH)

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レジ(機体記号):D-ABVA
実物の運用期間:1989年5月~2011年12月
羽田でもおなじみのルフトハンザ航空。現在も747-8という747-400の後継機を運用する数少ない航空会社でもあります。

ノースウエスト航空 (NWA/NW)

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レジ(機体記号):記載なし
2010年にデルタ航空に統合されたノースウエスト航空。
アメリカの豪雪地帯を拠点にしていたことから、パイロットの悪天候時における操縦技量が高く、かつては「赤い尾翼を追え」(悪天候時はノースウエスト航空を参考にせよ)と言われていたという逸話もあります。
垂直尾翼に描かれているロゴマークは「北西」を指しています。

エジプト航空 (MSR/MS)

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レジ(機体記号):記載なし
垂直尾翼に天空の神であるホルスを描いたエアライン。
「アラブの春」後のエジプトの情勢悪化に伴う日本人観光客の減少により、2013年よりしばらく成田路線を運休していましたが、2017年より運航再開しています。

日本国政府専用機

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レジ(機体記号):20-110?
実物の運用期間
20-1101: 1991年9月~2019年3月(1992年4月まではJA8091)
20-1102: 1991年11月~2019年3月(1992年4月まではJA8092)

つい最近、新型(777-300ER)に置き換えられた日本国政府専用機です。
模型では「20-110」となっていますが、2機あった実物の機体記号は20-1101/20-1102でした。
民間機と全く違う番号ですが、これは航空自衛隊所属の機体だからです。自衛隊の付番法則については分かりやすいサイトがあったので紹介させていただきます。
自衛隊機の数字の意味(機体番号・空自編) - HARUKAZE

ちなみに導入直後の僅かな期間だけ JA8091/JA8092 という民間機扱いで登録されていました。民間機時代の所有者は内閣府の前身である「総理府」です。




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