見出し画像

「頑張れば、まだ生きられる」夫が泣きながら言った

夫が乳房外パジェット病という希少がんを患って1年半。

治療方法が確立していないため、抗がん剤も手探り状態。
少ない症例の中で、まずはドセタキセルを投与。

このドセタキセルの効果については
がん研の吉野ドクターが2008年に書かれている。

「進 行 期 乳房 外Paget病 に対 す る ドセ タ キ セル を 中心 と した新規 化 学療 法 の提 案」

ドセタキセル投与3回目。
しばらくして夫は空咳や37度以上の熱が毎日でるようになった。
初めての経験で頼りになるのは医師と薬剤師。
夫を助けたい一心で電話した。

・主治医
「肺にも転移しているからそのせいでしょう。
 次回の診察(1週間後)まで様子を見てください」

・窓口の薬剤師
「がんの場合、37度くらいは平熱と一緒ですから。
 抗がん剤の副作用ではよくあります。様子を見てください。」

結局1週間、肺炎と闘っていた。唇は紫色になり苦しそうだった。
病院に行き肺のレントゲンを撮った。

・主治医
「間質性肺炎なのか癌転移かわからないので入院して調べます」

急遽入院、結果ドセタキセルによる間質性肺炎だった。
肺の転移はなかった。

薬の副作用で間質性肺炎が起きるとはきいていなかった。
夫は再入院した時、ドセタキセルでおきる吐き気止め薬の副作用で
全身の震えが止まらなくなった。
脳を調べた。影があった。

・主治医
「脳の転移が疑われます」

生きた心地がしなかった。午後、脳腫瘍科の先生が確認。
古い脳梗塞だと判明。脳の転移はなかった。

間質性肺炎を患ったためドセタキセルは使えない。
主治医は単独では効き目のないS-1を処方。
効き目がないといっていた抗がん剤ですよね?

・主治医
「もうこれしかないから。他に薬がない以上S-1を飲んでください」

藁にもすがる思いでS-1を服用した。
巻き爪の周りの皮膚が炎症を起こし爪陥没が起きた
肝臓癌増大により腹水が溜まって肺を圧迫。
症状は良くならず、抗がん剤の副作用がひどくなるだけだった。

9月半ば、主治医は言った
「抗がん剤の効き目はありません。他に治療法はありません。
緩和ケアや在宅医療、介護申請をしてください。」

夫には
「もうやりようがないから、そのまま死を待ってくれ」と聞こえていた。

それから、夫は食欲がなくなりどんどん痩せていった。
目もうつろで笑わなくなった。
ある日の明け方、やせ細った体で立ち上がり、
「はあ、疲れた、すごく疲れたよ」と涙をハラハラ流した。
こんなにか細く背中を丸めて小さくなった夫を見るのは初めてだった。

夫はいつも満面の笑顔を向けてくれた。
優しくてあったかくて無邪気で太陽だった。

夫の精神的ストレスがマックスだった。おそらく鬱手前だったと思う。
ずっと天井の壁しか見ていなかった夫に外の空気を吸わせよう。
深呼吸させよう。とにかく顔を上げてもらおう。

窓際に椅子を置いて、鳥のさえずりと朝靄を一緒にみた。
「風が気持ちね。」と嗚咽しながら泣く夫。二人で泣いた。
1年半辛い治療を続けてきた。
心が折れて二人で号泣した日だった。

夫を助けたい。主治医だけが医者じゃない。
患者会や乳房外パジェット病に取り組んでいる医師にコンタクトをとり
セカンドオピニオンを申し込んだ。

夫は自分では歩けないくらい弱り、車椅子と酸素ボンベが必要だった。
セカンドオピニオンは一緒に行こう。どんな話であれ希望を持とう。

結果、まだ使える薬があること。
そのためには体力をつける必要があることがわかった。

夫はセカンドオピニオンのあと心の底から絞り出すように
「頑張れば、まだ生きられるね」と涙をポロポロ流して言った。

弱音を吐けば、私を悲しませるからと自分の胸の中で恐怖と闘っていた夫。
どれだけ心も体も疲弊していたことだろう。

医師にとっては、その他大勢の患者に過ぎないのだろう。
言わなければいけないことだったのだろう。
でも、希望のない言い方がどれだけ精神を病むか、考えたことはあるのだろうか。

抗がん剤の治療でたくさんの副作用がでて、癌治療する前と比べたら
要介護2のレベルに変わってしまった夫。

それでもセカンドオピニオンで得た一筋の希望の光で
夫は食欲も戻り、簡単な筋トレも始め、前を向き始めた。

目に光がともり、体力をつけようと一生懸命。
諦めない気持ち、希望がどれだけ前に進める力になるか。

私も絶対に負けない。
夫のガンは必ず克服できる。

この病気は年間100人にも満たない症例の少ない
医師すらわからないことだらけの病気なのだ。
だったら、わからないー治らないじゃない。
治る可能性だって無限大。

やみくもに主治医を信じるのではなく自分たちで考えて
闘っていこうと思う。

まだまだ闘病生活は続く。
夫の息遣いが聞こえる日々がどれだけ幸せか。
今は歩けなくても動けなくても必ず笑って語れる日がくる。

ぜったい負けない。

そう思っていた。

頑張って、頑張って、頑張っていた。

今は、ただただ寂しくて悲しい。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?