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噓日記 11/20 スキップと竜の紋章

この世にはスキップができない人間がいる。
俺は物心ついたときからスキップができたので彼らの苦悩を理解してやることができない。
きっと誰にも言えぬ情けなさに枕を濡らした日々があるのだろう。
スキップができないのってめちゃくちゃ恥ずかしいし。
ただ視点を転換すると、スキップができない彼らにも我々のようにスキップができる人間の苦悩を理解することができないのだ。
スキップができるということは自らの能力が高いことに気付くこと、と言い換えることができる。
覇者となるべき素質を持っているということの証左となってしまう。
かの大国、魏の創始者である曹操もスキップができたという。
我が子がスキップができると分かったときの親の重圧たるや、想像に難くない。
我が子には覇者となるべき素質と資格があるのだと気付いてしまうのだから。
昔、スキップができることにふと気付き、俺は愚かにも母親の前でスキップを披露してしまった過去がある。
俺の右足が2度大地を叩き、差し出した左足がまた2度大地を叩く、スキップの始まりだ。
その様子を見た瞬間、母は手に持っていたティーカップとティーカッププードルと松下電器の株券を壁に投げつけ、悲鳴を上げた。
俺は瞬時に、やってしまったと思った。
その当時はスキップの持つ力を知らなかったが、直感的に親に見せてはならないものなのだと理解したのだ。
母は俺のもとに駆け寄ってきて、俺の頭を強く抱いた。
血の繋がった母親の胸で抱かれるのはやや不愉快だった(年上のナース、もしくは魔女の胸が良かった)が、スキップをやらかしてしまったので甘んじて受け入れる。
母は持っていたまち針の先端に墨汁を付け、俺の額に刺青を彫った。
もちろん彫ったのはあの漢字。
『鞕』
鞭という漢字を俺の額に刻みつけたのだ。
後に考えると、鞭とは恥ずかしげもなくスキップを披露してしまった無知と掛かっているのだろう。
世にも珍しいダブルミーニングタトゥーだ。
我が額にはそんな日本における恥の文化が継承されている。
竜の紋章のようなものだと思ってほしい。
現在、大人になった俺の額にその刺青はない。
鞭は右手の甲に移っている。
ここまでダイと全く同じ人生を歩んでいる。
ちなみに親父は鞭を武器にして戦い、曹操に処刑されたらしい。
家系図にも載っていた。
腹上死か処刑のどちらからしい。
親父は竜の騎士ならぬ、鞭の戦士であった。
鞭の戦士と人間の母親のハーフである俺がスキップができるのはもはや当然なのかもしれない。
スキップができない奴らを使役して生きていく。
今までもこれからも。

どりゃあ!