見出し画像

噓日記 8/20 カフェのモバイルオーダー

買い物の途中、若者の間で流行っているカフェに立ち寄ることがある。
自己弁護のために綴っておくが、私は期間限定のドリンクを注文するような尻軽ではなく、自分の中のお気に入りのドリンクを同じカスタマイズ、同じサイズで頼むような硬派な注文しかしない。
そのカフェは往々にして混雑しているので注文して商品を受け取るまで15分程度かかることが多い。
私はその時間がどうしても馬鹿らしく思えてならず、モバイルオーダーとやらを利用するようにしている。
事前に入金しておいた金を利用して、遠隔で注文をしておけるというシステムだ。
私はそれを利用して毎度同じ飲み物を注文し、少し待ってからスマートフォンに届く準備完了の通知を受けて店舗まで受け取りに行く。
受け取りのカウンターは空いていて、注文の用のカウンターの混雑を尻目に一瞬で商品が受け取れるのだ。
大抵の場合、注文用のカウンターの行列にはアベックがこれみよがしに並んでいる。
男は太いネックレスをつけてバケットハットを被り真っ黒のサングラスをかけていて、女は短いパンツを履いて知らん英字のTシャツを着て玉ねぎの皮で染めたような髪色をしている。
詰まるところ品のないアベックだ。
そんな奴らが必死こいて並んでいる横をすり抜けて一瞬で商品を受け取る。
こんなに嬉しいことはこの世において他には殆どないだろう。
私は彼女の方を一通り視姦してから彼らの横をすり抜ける。
彼らが無駄に過ごす15分を私はショッピングなどに利用できるのだという優越感だけが私の休日を有意義なものへと変えてくれる。
彼女よ、恨むのならばこの情報社会に疎い無能なアホヅラの彼を恨むが良い。
そんなやつ捨てて私のところに来たっていい。
おいで。
頭の中でとびきり甘い声で呼びかける。
しかし、行列を並ぶアベックはそんな無為な時間だって2人で過ごす幸福かのように笑顔で待っているのだ。
私が生き急ぐ今をゆっくりと2人で噛み締めている。
舐めんじゃねぇぞ。
こちとらモバイルオーダーできんのやぞ。
なんでそんなことも出来ねぇ男に彼女がおるんじゃい。
本当に。
本当に許せない。
私は彼女がいる男性を許すことが出来ない。
本当に。
私は彼女がいる男性のことをチャフと呼んでいる。
チャフとは電波を反射する物体を空中に散布し、レーダーの探知を阻害するもののことを本来指すらしい。
私の中のチャフとは私のフェロモンを阻害する迷惑な彼女持ちの男性なのだ。
私のレーダーを女性に届けるために。
家にいてくれ。
頼むから。

どりゃあ!