噓日記 7/24 防水について

俺は趣味で腕時計を集めている。
高級時計を愛でるという感じでもなく、安いものは100円から高くても100万円くらいのまぁそこそこの趣味だ。
数十本をケースに並べて、ニヤニヤとしながら毎日の始まりにその日のファッションに合わせた一本をチョイスしてその日の自分をインストールする。
職種的にそこまで服装に厳しくないのもあって、俺は日毎に自分というペルソナを自分で決めて、なりたい自分や見せたい自分を設定するのだ。
スーツを着る時には華美になり過ぎないで、それでいてディティールに遊び心があるものを、今日のように夏の暑い日にはラバーベルトのアウトドアウォッチを、Tシャツ一枚でラフな時にはミリタリーウォッチを、といった具合でその時々に合わせた自分になりきる。
それがたまらなく楽しいのだ。
時計の色を靴下や靴のワンポイント、パンツの色で拾ったりする自分にしか分からなくていい自分だけのこだわりが俺の毎日を鮮やかにしてくれる。
言うなれば一枚レイヤーを増やすような、世界の解像度を上げるような儀式と言えるだろう。
しかし、そんな俺にも怖いものがある。
俺は防水の腕時計が怖い。
生活防水や20気圧防水など、カタログに並ぶ防水機能のスペックは俺の男心をくすぐってくる。
しかし、あえて考えていきたいことが一つある。
そんな防水、生活に必要なのか? と。
俺は防水と言われているものをわざわざ水につけるようなことはしない。
だって怖いもん。
何故企業の実力を試すようなことをわざわざせねばならぬのか。
それで壊れたら泣く人だっているだろう。
主に俺だが。
防水機能は人に蛮勇を齎す。
必要のない賭けに人々を誘う悪魔の言葉が防水だ。
最新のスマートフォンもその悪魔の餌食になっている。
いくら防水を謳っていても、湯船に浸かりながら落としたら俺は感電で死ぬと確信している。
だって電気を纏っているから。
電気を纏っているものは水に入れたらいけないよ、俺はそれを金田一少年の事件簿とポケモンからよく学んでいる。
ダイバーズウォッチのような200m防水などを見かけるとクラクラする。
なんで200m潜るのに高い時計をつけなきゃならんのだ、と。
こえーじゃん。
突然ベルトぶっ壊れたら海底に沈んでいくんだよ?
俺には耐えらんない。
100年後に訳のわからん海賊もどきみたいなやつがどうせサルベージして買取屋さんとか買取大吉に持って行ってお金にするんだ。
俺はそれを許せない。
以上先日の土曜、飲み屋のトイレに指輪を落とした男の慟哭。

どりゃあ!