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噓日記 12/18 サックス

生まれ変わったらやりたいことの一つにサックスがある。
今生では諦めているが、もし生まれ変わることがあったのなら俺はサックスを吹きたい。
何故ならサックスが吹ける男の価値は二十代後半くらいから抜群に伸び始めるから。
死ぬまで伸びる。
伸びすぎだろってくらい伸びる。
死ぬ頃には棺桶に入らねぇくらい伸びる。
俺の親戚のサックス吹きおじさんは最終的に屋久杉を切り倒して棺桶にしたらしい。
テナーサックスならなお伸びる。
だってエッチだもん、音色が。
ジャジーなおじさんって一番エッチだし一番タチ悪いから今一番なりたい。
昔から多少なり楽器に触れて来た今生だったが、一切木管楽器なんかの高尚そうな楽器には触れてこなかった。
生来雑なのもあるしぶっ壊してしまいそうという恐怖心と普通にバカ高いのが嫌すぎて手を出さなかった。
代わりにアコースティックギターやらエレキギター、ウクレレ、カリンバ、カズー、カスタネットなんかの最初の一歩目に手を出しやすいところには全部手を出した。
ゲートウェイドラッグみてーな楽器たち。
この言種で俺はいずれ奏者たちに暗殺されるだろう。
でもね、どの楽器もまともに弾けねぇの。
カズーしかまともに演奏できねぇの。
カズーも合ってんのか分かんねぇけど、カズー自体がやや間違ってるからセーフ判定してんの。
そこで気付いたんだけど、楽器できる奴って皆練習してる。
皆上手くなりたくて一生懸命練習してる。
でもね、俺はあんまりしねーの。
だって練習って疲れるから。
上手くはなりたいけど体と心がついてこないの。
じゃあどこが上手くなりたいと求めてるのか?
魂よ。
俺がよく妄想することの一つにスキルの入れ替えがある。
有名ミュージシャンのギターテクと俺のギターテクが今入れ替わったらいいのにって。
俺は得しかしないし、有名ミュージシャンも突然ド下手になったら頑張って練習してどうにかするだろうからプラマイゼロってところじゃないか。
そんな妄想。
これも練習をしたくないという逃避から来る妄想だ。
練習せずに上達するものってこの世に実は少ない。
トイレだってトレーニングがいるんだから。
練習して、失敗して、練習して、上達する。
でも俺はそれが嫌なのだ。
上達だけしたい。
トイレトレーニングも成人式前にやっと終わった俺だ。
何事も人よりも上達が遅い。
だからもうね。
上達だけしたい。
練習したくない。
来世の俺はテナーサックスを練習する前にジョン・コルトレーンの手を食うと思う。

どりゃあ!