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噓日記 1/15 子どもが大きくなったら

子どもが大きくなったら犬を飼いなさい。
犬は子どもの良き友となるでしょう。
そしてその成長をそばで見守り、その死をもって子どもに命を教えてくれることでしょう。
子どもが大きくなったらりんごを与えなさい。
りんごは子どもに成長を実感させるでしょう。
日々大きくなっていく体と同じ大きさのりんご、その対比に子どもは気付くことでしょう。
子どもが大きくなったら本を与えなさい。
本は子どもに居場所を与えるでしょう。
ここに居たくないと思った時に逃げ込める世界を本は与えてくれるでしょう。
子どもが大きくなったらギターを与えなさい。
ギターは子どもに音との出合いをもたらすでしょう。
音はリズムを生み、リズムは協調を子どもに教えることでしょう。
子どもが大きくなったらムシキングを与えなさい。
子どもなんてものはすぐに虫やらなんやらを飼いたがるものなので目眩しをしましょう。
キッズはカードが排出されるだけで大喜びするのです。
肛門期を想起させる筐体からのカードの排泄。
それがもう堪らなく、エクスタシーへと子どもを誘います。
正直に言ってしまえば、大人にもムシキングを与えなさい。
ジャンケンというシンプルな三すくみに、技がもたらすバランスの変化、そこで発生する読み合い。
相手にあの技を出されたくない、でもこちらとしてもあの技を使いたい、そんな思考のデモプレイを幾度も繰り返すのがムシキング。
並行的に三すくみの強弱を頭の中でシミュレーションし、その時々で相手の思考を読んで最善手を繰り出す。
ほとんど将棋です。
チェスを指しながらボクシングするのにも似ています。
大人をも魅了するのがムシキング。
私の友人は小学生時代にムシキングに触れ、それから二十年以上もムシキングをプレイし続けています。
一芸入試で大学にもムシキングで入学しました。
卒論はもちろんジャンケンに条件を追加した際の確率の分布について。
彼は今ルーマニアでドラキュラと呼ばれています。
近所の子どもからつけ狙われて銀の杭で胸を刺されそうになる毎日を送っているそうです。
ムシキングはそれほどまでに人生を狂わせ、人生を作り上げる能力があるのです。
人の形を作り上げるのが本能だとするならば、人の形を知るのがムシキング。
子どもたちはムシキングを通して人とはかくあるべしという姿を知るのです。
子どもが大きくなったら銀の杭を与えなさい。
銀の杭でドラキュラの胸を穿ちなさい。
貫いたその肉体が世を覆います。

どりゃあ!