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噓日記 11/23 実験動物

俺はかつて実験動物として生を受けた。
倫理観という安全装置が外れた研究者から、実験のためだけに育てられたのだ。
口に出すのも悍ましいその実験の名は、乳児成体化実験。
今まで誰もやったことがない研究であると息巻いた研究者はその実験に没頭し、そこで俺が生まれた。
その実験とは。
赤子を限界まで育てて、大きい赤子を作るというもの。
その実験はものの見事に失敗し、普通におっさんの俺になった。
それはそう。
だってその実験って普通に育児だもの。
研究者もうちの母ちゃん。
母ちゃん、子育て初めてだったから赤ちゃんのままの俺でいてほしいって言ってたけど、そらまぁ普通に育つ。
だってそれが人間だから。
普通に飯も食わせるし、普通に公園とかも連れてくからまぁ当然のように周りの子どもと同じように育つ。
母ちゃんは俺を育てることによって人間というモノを知ったようだ。
人間ってご飯食べさせたら育つんだ、って言ってた。
でも正直、大きい赤ちゃんを作りたいという気持ちは俺も分かる。
千と千尋の神隠しに出てくる坊というキャラクターを知っていれば自然とその気持ちは理解できるのだ。
あのデカい赤ちゃん、めちゃくちゃ面白い。
一周回ったシュールさが面白すぎる。
デカいくせに血を見たら泣くのも面白い。
しかし改めて考えてみると、赤ちゃんなのにデカいより面白いコンテンツって多分この世にあまりない。
生まれた瞬間から剛毛とかしか残ってない。
俺もできることなら赤ちゃんのままでいたかった。
生きる面白コンテンツになりたかったのはもちろんのこと、やはり母ちゃんの期待に応えてやりたかった。
でもいつの間にか背も伸びたし、ヒゲも生えるようになったし、タバコも吸うようになったし、酒も飲むようになった。
幼児性を手放して、少しずつ大人になってしまった。
母ちゃんの期待を裏切り続けてデカくなった。
赤ちゃんのままじゃないから、普通に面白くないタイプのデカくなり方。
それでも元赤子としての矜持は俺の中に強烈に残っている。
ギャンブルだけはしない。
ギャンブルに手を出してしまったら俺の中の幼児性が全て消えてしまう気がするから。
その残った一欠片の幼児性を大事に俺の心の中で過保護にも檻に囲って暮らしている。
これはもう母ちゃんの為でもなんでもない、紛れもなく俺の為だけの生き方だ。
いつか、いつか俺を甘やかしてくれる女の子が現れた時のために残しておく。
俺は、今でも赤ちゃんになりたい。
授乳の話をしています。

どりゃあ!