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嘘日記 7/25 ちかこか様

私の住む村には、ちかこか様という正体不明の何かが居着いていると言われています。
大体の子どもが中学校を卒業するまでに出会い、質問をされ、それに答えると二度と目にすることはなく、いつの間にかその姿形さえ忘れ去ってしまうという一種の妖怪のようなものです。
私たちはちかこか様に出会い、質問をされたという事実だけを持ち帰り、大人になっていきます。
大人になった時、ちかこか様と出会ったなぁという淡い思い出が何故だか言いようもない安心感を齎してくれました。
さて、そんなちかこか様にまつわるおかしな事実に私は気づいてしまいました。
今日はそんな話を認めておきます。
先日の土曜日、村に残った同世代の若者たちと集まって飲み会をしました。
飲み会といっても、勝手知ったる近所の者たち(私を含め5人)ですので、仕事はどうだ、結婚はどうだなんて話は一切出てこず、思い出話をはじめとする内輪のことばかりで盛り上がっていました。
季節が夏ということもあり、少し怖い話でもといった空気が流れたため、私が口を開きました。
「ちかこか様って、居たよね」
その時、周囲の空気が少し冷えたようなそんな感覚がしました。
「そういえばそんな話あったね。皆会ったよな?」
「会った会った。質問されるんだよね」
「2択の質問されたよね。なんて答えたか覚えてる?」
怖気を感じる私をよそに、友人たちは赤ら顔でちかこか様の話を続けます。
「俺はち」
「俺もち」
「私も」
「俺も」
「……なぁ、お前は?」
「私も、ち」
何か変な気配がしました。
5人の回答が2択で揃うのは質問の内容にもよりますが少し気味が悪かったです。
質問自体はどちらを選んでもおかしくないものなので尚更です。
私は何かそこに恣意的なものを感じ、気分が悪くなりました。
飲み会も途中で抜けて家に帰り、居間にいた両親に恐怖を抑えて聞いてみました。
ちかこか様になんて答えた?
両親は口を揃えて一つの音だけで答えました。
「ち」
私はどうにも気味の悪さが抑えきれなくなり、自室に戻り、その正体を探すために小学校の卒業アルバムをめくりました。
そこには、沢山居たんです。
私の知らない子どもたちの顔が、沢山、沢山。
今の村に残る同世代や村を出て行った同世代の人間を足してもこんな人数になりはしません。
もしかして、もしかして。
あの時、「ち」と答えたものだけが私たちの記憶に残っているのかもしれません。
子どもたちはどこに消えたのか?
大人は何も知らないのか?
皆気付いていないのか?
そんな不安がページをめくるスピードを早めます。
卒業アルバムの最後のページ、そこに全てが残っていました。

ち、ち、ち、ち、ち、ち、ち、ち、ち、ち
忘れちゃいけない
ち、ち、ち、ち、ち、ち、ち、ち、ち、ち
忘れられるから
ち、ち、ち、ち、ち、ち、ち、ち、ち、ち

私にはちかこか様の正体は分かりません。
ですが誰かを救うことが出来るかもしれないのです。
最後にちかこか様からの質問を残しておきます。
これが誰かを救うことを祈って。
「うん……ち? こ?」

どりゃあ!