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噓日記 1/28 ブリしゃぶ

今日は昨夜から立てていた計画の決行日だ。
その計画とはブリしゃぶ解禁。
俺は今日、ブリしゃぶを食べた。
ブリしゃぶを食べると、冬が来たと体が実感する。
俺は、今日やっと冬を迎えたのだ。
昨夜に計画を立ててから取るもの手につかず、浮ついた気持ちで一日を過ごした。
松尾芭蕉の旅に出る前の気持ちも同じ感じだろう。
一日中、常にブリのことを考えていた。
俺が一番好きな魚だ。
出世魚というのも縁起がいい。
ブリを食べたら来年度は出世できるかもという験担ぎになる。
昼過ぎくらいにスーパーに買い物に出て、酒とブリと白菜と椎茸と白ネギを買う。
家に帰って少し休んで、晩飯時にそいつらの下拵え。
昆布から出汁を取って、そいつでしゃぶしゃぶのベースを作る。
一人用の小さな鍋で作るもんだからその辺りの作法は殆ど我流。
適当でもブリしゃぶは美味いのだ。
柵で買ってきたブリを、薄く斜めにカットしていく。
工程の中では一番肝となる部分。
ブリは厚めの方がいいという人間がいるが、俺は薄く広い方がどちらかというと好み。
しゃぶしゃぶと出汁に潜らせる時、出汁の間で揺れるブリの身を眺めるのが好きだから。
椎茸と白ネギを適当な大きさに切る。
きのこは洗わない方がいいという情報だけ得ているので準備は適当。
白ネギもザンッザンッザンッと程よい長さに切り揃えただけ。
そうやって準備している間にもブリしゃぶへの期待は高まっていく。
出汁を取るのは具材を切ってからでもよかったな、なんて反省も同じ時間に通り過ぎていく。
そしてあっという間に晩飯時。
とりあえず一杯ということで、麦の水割りで乾いた喉を潤す。
これからブリを食う。
ブリには日本の酒が合う。
箸でブリを掬って、出汁の中でしゃぶしゃぶと揺らす。
揺蕩うブリの身が半透明から白く変色していく。
そっと掬い上げ、もみじおろしを溶いたポン酢に潜らせて小ネギと一緒に口に運ぶ。
恍惚、身震い、ため息。
自然な流れのように一連の作業が行われる。
そして、水割りをぐいっと一口。
そしてまたため息。
ブリは人を幸せにする力があるのだ。
それからまた同じようにブリを出汁に潜らせて、今度は椎茸や白ネギと一緒にいただく。
美味すぎる。
俺は暴れた。
美味すぎるだろと暴れてやった。
味覚に俺の心をついて行かせるために。
大暴れした。
ブリの美味さをちゃんと表現するために。
何故か分からないが、その足で友人の墓参りに行った。
ブリ美味いぞって報告した。
俺はブリしゃぶが好きな女が好きだ。

どりゃあ!