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噓日記 11/28 寝過ごし

寝過ごした経験は誰にでもあるだろう。
起きた瞬間のあの絶望感は、他のやらかしと比べても異常に肝が冷える。
時計を確認した瞬間に「やってしまった」ことを明確に自覚、自らの意思で無理やり血圧を上げて、焦りの中でどうにかしようと頭を回転させる。
どうやってもどうにもならないのだが、どうにかしなければという良心が働いて、ただただ胸が痛み続けるのだ。
取り返しのつかなさという点では、他のやらかしの追随を許さない後味の悪さとも言えるだろう。
寝過ごした人間は皆一様に絶望感に苛まれながら、我々人間は時という呪縛に囚われているのだという実感を初めて得る。
二度と戻れないその時その時を如何様に生き抜くか、それが我々に与えられた命題なのだ、と。
悟りを開いた人間も皆、一度は寝過ごした経験があると言われている。
そうでなければ説明がつかない。
ということで今回、俺はしっかり寝過ごした。
しかも世にも珍しい昼寝での寝過ごし。
前日から何故が睡眠の質が低く、体全体に疲れが溜まっているような感覚が朝からしていた。
その影響か、会社でも何度か寝そうになってしまったり、うとうとついでに会社を自宅だと勘違いしてズボンを脱ぎかけたり。
一度何処かでまとまった睡眠をとらないと確実に大きなミスを犯すだろうと危惧した俺は昼休みに社用車で昼寝をとることにした。
それが一昨日のことである。
そして今日の16時頃に起きた。
一昨日の12時から今日の16時まで寝過ごした。
俺は自分が怖い。
まさか大きなミスを防ぐための睡眠が大きなミスになるとは。
出先からびくつきながら会社に戻ったが、意外にも反応は普通。
普段帰社した時とそう変わらない反応に内心救われた。
しかし、安心しきったその瞬間、上司が肩を叩いてきた。
「どこ行ってたの?」
当たり前の疑問に思わず意味の分からない言葉が口から反射的に飛び出す。
「出張です。ベトナムの方に。ホーチミン、ホーチミン」
上司が知らない海外出張を一瞬のうちに生み出してしまった。
上司が訝しんだその瞬間を狙って、ホーチミン師を歌って嘘のリアリティーを高めておいた。
無駄な足掻きである。
今日一日はどうにかやり過ごしたが、俺は明日にでも処罰されるだろう。
普通に一日無断欠勤してるしね。
爪を剥がれるか、額にタトゥーを入れられるか、どちらも嫌だがどちらかというと爪の方が嫌なので明日は前髪を切ってタトゥーを入れやすくして出社しよう。
寝過ごしは二度と戻れない過去への後悔が募るばかり。
できることなら毎日ちゃんと睡眠をとり、午睡が必要のない体でいた方がいい。
そう悟った。
悟りの一歩目。

どりゃあ!