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噓日記 1/23 暴力性

今日は嫌なことがあった。
ある店舗で列に並んでいる時、横入りしてくる人間がいた。
まあまあな時間その列に並んでいた俺は驚きのあまり身を乗り出してその人間を睨みつけた。
相手はそれに気付いたのかおずおずと列から離れていった。
そのまま俺はその列に並び、サービスを享受した。
今日嫌なことがあった、それは横入りされたことじゃない。
俺が暴力性を出してしまったことだ。
身を乗り出して相手を睨みつけてしまったことだ。
俺が並んでいた場所は少し分かりにくい場所、店員から指示されたとはいえ相手にとってはもしかしたら俺が認識できていなかったのかもしれない。
そのことへの配慮ができないまま相手を威圧し、その場所を守ろうとした俺の行動が俺はショックでたまらない。
やってしまったと思ったのは事が済んでから二十分後のこと。
もしかしたら、と思うと俺は彼に酷いことをしてしまったのではないかと胸が痛んだ。
そこからは何かモヤモヤしたものが俺の心に残り続けた。
俺は平均的な男性よりも少し体が大きい。
そして平均的な男性よりも威圧感がある。
そして平均的な男性よりも力が強い。
そんな自認をしつつもそれを他人に武器として行使してしまった自分が情けない。
俺は紛争解決の手段に俺の持つ秘めた暴力性を用いてしまったのだ。
あの時、横入りしてしまった方は決して悪い人間ではないだろう。
俺が待っていたと知っていたらそんなことはしなかっただろう。
ただ知らなかっただけの存在だっただろうに、俺は彼に嫌な思いをさせてしまった。
威圧してしまった。
彼が今日寝る前に一日を思い返すとき、威圧してきた俺の顔を思い出してしまうだろう。
申し訳ない。
彼になんと謝罪すればいいのか。
その言葉も、謝罪する手段も持ち合わせていないからただこうして自分の日記に自らの罪を残しておく他ない。
自戒していくしかない。
次回からそんなことがないように。
彼が俺の顔を忘れられないように、俺も彼の顔が忘れられない。
びっくりしたような、慄いたような。
トラブルが発生しないよう努めた彼の顔が。
彼の顔こそが現代で生きる人間の顔であった。
脅威と対面した時、そこに暴力を持ち込ませない態度。
俺は彼にならなくてはならない。
俺はもう二度と暴力性を他人に行使しない。
トイレに貼ろうと思う。
そんな張り紙を。
トイレに行く度にその張り紙を見て俺は俺の暴力性を封じ込める。
でも友達が俺の家に来た時、めっちゃ怖いだろうな。
だってトイレ行ったらそれだぜ?
「俺はもう二度と暴力性を他人に行使しない」
知らずにそれを見たら多分殺されるんじゃないかと心配になると思う。

どりゃあ!