噓日記 2/16 禁煙初日

10年以上の長い期間をかけて肺を黒くして遊んでいたのだが、お医者さんから肺を黒くするのはやめた方がいいと言われたのでやめてみることにした。
つまるところ禁煙を始めた。
タバコをやめたら人生で楽しいことが何もなくなると思って今まで目を逸らし続けてきたが、楽しさを味わう以前に早めに死にたくはないのでどうにかやめてみる。
今日はその一日目。
前提として、俺は喫煙を始めた日から一日たりとも禁煙しなかった男だ。
新型コロナに罹ろうとも、インフルエンザに罹ろうとも、タバコはずっと吸い続けた。
咳が出ようが、痰を吐こうが、喉から血が出ようが吸い続けた。
タバコをやめるよりも信念がいる行為だろう。
そんな男がタバコをやめる、簡単な話。
この根性のベクトルをやめる方向に向けるだけ。
そして今日一日を過ごした結果。
死ぬかと思ったね。
ニコチンによって俺は生かされているんだということを改めて実感した。
タバコによるニコチンを抜いた生活で、朝から手の震え、倦怠感、眠気が俺を襲ってきた。
保険のために買っておいた禁煙補助剤のニコチン入りガムが命を繋ぐ。
急いで噛んで、震えなどの諸症状が治るのを待つ。
俺は自分が思っていた以上に終わっていたようだ。
仕事なんて全然手につかないし、体調も悪い。
そんな中でずっとタバコのことを考えてしまう。
吸いたいという欲求だけが渦巻く。
このまま、もう一度タバコに火をつけて深く吸い込んだらどれだけ楽になるだろう。
どれだけ美味いだろう。
そんな思考が一日中着いて回る。
我慢しつつも、常に思考のリソースをそこに奪われているような感覚だ。
朝起きて、昼食を食べて、仕事が終わって、晩飯を食べて、と言った具合に普段俺がタバコを吸っているタイミングでその吸いたい欲求の波が強くなる。
日常に穴が空いたよう。
普段はそれらの時間にぐっとタバコの煙を吸い込んでボーッとしていたのだが、その時間がまるまる隙間として訪れるようになった。
今日は気を紛らわせるために、その時間に本を読んだ。
動画を見た。
音楽を聴いた。
だが、その根底には常にタバコの気配があった。
その時初めて、依存症というものの怖さを知った。
俺は依存症なのだ。
タバコに依存して生きてきたのだということを初めて自覚した。
タバコを吸うことでリラックスしていたんじゃない、タバコを吸わない時間にストレスを溜めていたのだ。
逆だったのだ。
俺は明日からもどうにか禁煙を続けてみる。
誰かの応援がないともうやめてしまいたくなる。

どりゃあ!