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噓日記 8/18 テープの玉

近所のパトロールをしていたところ、公園にて近所に住むガキが夏休みだからなのか備え付けのベンチにワラワラと小虫よろしく集っていたので何事かと近寄ってみた。
カードゲームなら仲間に入れてもらおうと思ったのだが、その中心にいたガキが握っていたのは歪な形をした奇妙な玉だった。
アクティブな遊びをする気配があったので戦力外の俺はそそくさとその場を離れようとしたのだが、ガキの中の一匹が空気も読まずに声をかけてくる。
奴はきっと将来陰口を叩かれる存在となるだろう。
「師匠!」
右手をブンブンと振り回して俺を呼び、振り回した腕をそのまま手招きする形に変えて俺を近くに寄らせようとする。
年上への声掛けとしては0点だ。
俺は誘われた嬉しさを隠すように頬の内側の肉を噛み、無表情で奴のそばへ寄ってやる。
「師匠、これ知ってる? テープボール!」
何言ってんだこのガキ。
俺の目に映るのはきったねぇ歪な玉。
ボールと呼称してやるには些か手垢に塗れすぎている。
見ててね、とガキが言うもんだから凝視していると、ポケットからカッターナイフなんてものを取り出し始める。
俺は急いで一歩飛び退く。
夏休みのガキがカッターナイフなんて持ってたら基本的には刺されると思っているからこその防衛反応だ。
そんな俺には目もくれず、ガキはその玉にナイフの刃をあてがう。
表面にスッと一文字の傷を入れたかと思うと、その玉はミチチと小さく音を立てながら左右に広がっていく。
幾重にも重なった何かが地層のように、それが上の層を押し出すように拡大を続ける。
覗き込むガキどもの黒い頭が中心にグッとまた距離を縮める。
玉はミチミチと拡大を続け、それがどんどん山のように上へ上へと膨らみ始める。
もう、言うしかない。
ディルドやないですか。
ほとんどディルドと同じ形のままグングンと伸びていく。
屹立していくのだ。
俺も思わず、円周状に配置された黒い頭たちの間に己の頭を突っ込み覗き込む。
何かいけないことをしているような、そんな背徳感がある。
俺を呼んだガキがあまり想像したくない部分にまた刃を当てがって切り裂くものだから、なんだかヒヤっとした。
俺も含め、その場の全員から感嘆のような息が漏れる。
おぉ。
俺はそのテープボール行く末を見守りつつ、一種のノスタルジーを同時に感じていた。
これは、ガキの頃に拾って回し読みしたエロ本を見た時と全く同じ姿なのだ。
よく分からないけど興奮することだけは分かっている。
テープボールは令和のエロ本なのだ。
その後ちゃんと顛末を見届けた末、俺は警察に自首した。
ちゃんと。

どりゃあ!