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【小説】アラフォー女が初めてマッチングアプリを使ってみたら。

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純文学を目指した、恋愛小説です。 いつの間にかオムニバス形式になっていました。 陳腐な文章でお恥ずかしいですが、読んでいただけたら嬉しいです。 スキがもらえると励みになります。
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#純文学

【第15話】アリア 36歳 人生はタイミング。

 秋分の日が過ぎて、いよいよ本格的に秋が始まるころ、猛威を奮っていたCウイルスの収束も見え始め、外国人の入国を許可する国が出はじめた。 今回ばかりは、自分の目で世界の「今」を見たい!知りたい!という思いが強すぎて、自ら編集部に掛け合って、取材に行く権利を得た。  夫もタカも、わたしのこういう性質を理解してくれてるから、夫は「気をつけて行ってきてね。無茶はしないように!」と、タカは「止めても行っちゃうんだろうね。気をつけてね!」 二人とも同じようなことを言うので、心の中で笑っ

【第16話】タカヒロ 27歳 死ぬこと以外、かすり傷な訳がない

 事件当日の記憶は、ほとんど無い。 かろうじて覚えているのは、鉛のように体が重くて動かず、なんだ?俺の体、どうした?と思ったら、隣にリナが寝てた。  でも顔に生気がなくて、なにかおかしいぞ……と思った瞬間、自分が血の海の中で寝ていたことに気付く。  頭はパニックになったのに、声は出ず、体も動かない。一体なにがあったんだ? 必死に、とにかく手だけでも、動け!と思い力を込めたら、徐々に動いてきたので、ポケットに入れていたスマホを取り出し、110番にかけた。 「事件ですか?事故で

【第17話】タカハシ 28歳 足下から鳥が立つ

 新聞を読んでいて、驚いた。一面に「無理心中か?22歳女性死亡、27歳男性意識不明の重体」とあり、物騒だなあと思いながら読み進めると、被害者の男性の名前に見覚えがあった。  彼は、高校時代のクラスメイトだった。 基本的に寡黙だけど、長身で整った外見は自然と目立ち、纏う雰囲気もどことなくアンニュイで魅力があった。男女問わず常に誰かに囲まれていて、僕自身はあまり関わったことがなかった。  当時の彼女から、「あの人は、めちゃくちゃ遊び人らしいよ。だから私は、あまり好きじゃないな

【第18話】タカヒロ 27歳 捨てる神あれば…

 高橋からのメッセージを読み、「こんなときに、急に、なんなんだよ!?」という否定的な感情と、それとは逆に、「こんなときでも、真剣な話がしたいから会いたいと言ってくれるやつだったんだ……」と見直すような、アンビバレンスな感情を抱いた。  いろいろなことが起こりすぎて、人間不信に陥っていた俺は、すぐにアリアに相談した。 「前に話したと思うけど、俺が苦手だった高校のクラスメイトから、DMが来た。事件を知って驚いたけど、これを機に仕事に関する真剣な話がしたいって。アリアは、どう思う

【第19話】アリア 36歳 頼りになる男

 まさか自分が、全国ニュースになるような事件の当事者になるなんて、夢にも思っていなかった。  タカがモテることはわかっていたけど、こともあろうか、心中しようとする子がいたなんて。 もしもわたしが原因の一つならば、罪悪感もある。  けど、五ツ木さんに聞いた詳細で、リナさんが自死した本当の理由は、生育環境にあったのだろうなと想像した。  帰国して本当にすぐ、空港からそのままの足で五ツ木さんと合流した。カラオケ店を名乗っているが、防音性が高く室内には監視カメラもなく、あらゆる撮影

【第20話】タカヒロ 28歳 人間万事塞翁が馬

 大学の頃、就職活動中のディベートで、やたらと発言したがる冴えないメガネの男が言っていた。 「人生は、人間万事塞翁が馬だ。なにが起こるか誰にもわからないし、起こったことが結果的にどういう意味を持つのかも、解釈によって全く違うんだ。だから、要は、幸も不幸も考え方次第だ」  そのような暑苦しいことを言っていた記憶だが、なぜか今、その言葉を思い出している。  まず、2020年の一番の災厄と言えばCウイルスだろう。俺は、その影響でマッチングアプリを始めた。 自粛によって街でナンパが

【エピローグ】結局のところ、人生ってなんだ?

 アラフォー女が初めてマッチングアプリを使ってみたら、最初は年下のイケメン彼氏ができて有頂天だったけど、その後、現代社会の闇を見た。  同時に、人間はいくつになっても、考え方ひとつで180度人生を変えることができると知った。  亡くなってしまったリナさん。実はわたしも10代の頃は、心中できるくらい、愛し愛される人と太く短い人生を生きたいと思っていた。 それが、いつのまにか36歳になって、のうのうと生きている。  だから少し、彼女を羨ましく思う。  世の中には反出生主義など