チドリ

創作日記

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最近の記事

作品と作家

作家は誰しもが絵に選ばれる瞬間がある。 自由意志と関係なく。 涙が出ようとヨダレが出ようと、 ただ作品の方から作家が指名されるのだ。 そのとき独特な空気をまとい、 作家はある意味で作品の奴隷となる。 いやおうなしに造らされる姿が、 その宿命にも似た残酷さに翻弄されるさまが、 私は愛しくてたまらない。 作家には色々なタイプがいる。 ただ造り続けたいだけのタイプ。 名声も権威も求めるタイプ。 全く異なる業種の合間に創作するタイプ。 ここのところ、 実際

    • 雪ノ下 善子の日記(四月後半)

      四月十六日(金) 曇り。気をつけても遅かった。 同僚はとても嬉しそうに小走りで私に近づくと (金曜日の高揚感からかもしれないが)、 香水のサブスクリプションの紹介をし始めた。 頼んだつもりはないし、むしろ香水は嫌いだ。 そもそもサブスクリプションとは何なのか? 定期購入する程に人は香りを欲するものなのか? そもそも毎日、違う香りである意味はあるのか? 聞いていく毎に同僚の顔が曇っていった。 私に何を期待していたのだろう。 四月十七日(土) 晴れ。洗濯はかどる。 洗剤の香

      • 雪ノ下 善子の日記 (四月前半)

        四月一日(木) 曇り。朝起きると顔にシーツの跡がついていた。 ただれたような様が何とも情けない。 いつもより念入りに髪を梳かすなどして回復を待った。 四月二日(金) 晴れ。帰り道、電車に乗るタイミングがギリギリだった。 あれだけアナウンスで「車内なか程までお進み下さい」と言われているのに、何故 皆 入口付近に固まるのか。 四月三日(土) 雨。休日なのに布団が干せない苛立ちを、 クロスワードパズルで紛らわしていたら、 いつの間にか眠ってしまっていた。 昼寝でつく寝癖は

        • 【創作】ボドゥールと満月

          東海道本線の1両目の車両に立つ。 運転手の背中のさきには、 ずっとずっと続く線路がのびていて 大人であろうが子どもであろうが、 必ず立ち止まってチラと窓の外を見る。 進行方向の左手に見える、幻の花畑を僕は知っている。 尾張一宮から名古屋へ向かう快速電車に乗ると、 ぴゅんぴゅんと過ぎる景色の傍らに、 向日葵のように背の高い、ボドゥールの花畑がある。 グラジオラスの花弁に似た形のその花は、 図鑑にのっていないし、 香りも知らない。 名前だって僕が勝手につけ

        作品と作家

          【創作】夏姫ちゃんのお父さん

          夏姫ちゃんのお父さんは背が高い。 体の3分の2は脚だったし、私の肩くらいの高さに腰があって、がっしりと骨太なのに、スラリとしている。 頭も小さくて、いわゆる10等身の日本人離れした体型をしており、夏姫ちゃんのお父さんが持つと全ての物が小さく見えた。 それから睫毛が長くて、瞬きをする度にパシパシと音が聞こえてきそうだった。少し茶色い瞳の奥は優しくて、何を考えているのか分からない。 いつだか私がピアノのCDを聴いている、という話をしたとき、夏姫ちゃんのお父さんはたいそう関

          【創作】夏姫ちゃんのお父さん